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AIに負けない子どもを育てる

この本は、新井紀子氏の前著『AI vs 教科書が読めない子どもたち』の続編です。前作の感想はこちらに書かせていただきました。

本書ですが、タイトルに「AI」とついていますが、AIの話は上記の前作に詳しく書かれており、本書ではほとんど書かれていません。では、何が書かれているかというと、AIに絶対的に不足しており、だからこそ人間がAIと共存するうえで不可欠な要素、『読解力』について書かれています。

上記のnoteで私はこんなことを書いていました。

ただ、同時にAIはすでに日本の80%の受験生よりも賢いということもわかりました。これは言い換えると、多く人が仕事をAIに奪われるという証左でもありました(もちろん仕事の内容によりますが)。だからこそ、新井先生は考えました。では、人類がAIと共に生きていくためには何が必要か。それはAIが不得意な分野。つまり、「高度な読解力と常識、加えて人間らしい柔軟な判断が要求される分野」です。キーワードは『読解力』

そうなんです。我々がAIに仕事を奪われないようにするためには『読解力』が必要なのです。

ちなみに、これをお読みの中には「私は常に読書をしているから読解力は心配ない!」と思っている方もいるかと思います。そんな方に悲報です。

読書量と読解力に相関はない

という残念なデータが本書にも示されています。

それでは我々はいったいどのくらい読解力があるのでしょうか。新井先生が作成したRST(Reading Skill Test)の問題を解いてみましょう。

問1 Alexは男性にも女性にも使われる名前で、女性の名Alexandraの愛称であるが、男性の名Alexanderの愛称でもある。
この文脈において、以下の文中の空欄にあてはまる最も適当なものを選択肢のうちから1つ選びなさい。
Alexandraの愛称は(  )である。
① Alex
② Alexander
③ 男性
④ 女性

こんなの誰でもわかると思いきや、中学生(235名)の正答率はたったの37.9%。 高校生(432名)の正答率は64.6%でした。(正解は一番最後に書いておきます)

問2 アミラーゼという酵素はグルコースがつながってできたデンプンを分解するが、同じグルコースからできていても、形が違うセルロースは分解できない。
この文脈において、以下の文中の空欄にあてはまる最も適当なものを選択肢のうちから1つ選びなさい。
セルロースは(  )と形が違う。
① アミラーゼ
② デンプン
③ グルコース
④ 酵素

こちらの問題は大人でも誤答が多かったとされていますが、みなさんはいかがでしょうか。(解答は一番下)

私はこの問題は2問とも正解できましたが、本書の中に含まれているRSTの体験版(28問)の結果、自分の読解力が思ったほど高くないことがわかり、結構ショックでした。

本書で述べられている「読解力」とは何も難しい文章を読み解く高度なものではなく、学校の教科書がきちんと理解できるレベルの読解力を指します。多くの人が「教科書くらいきちんと読めるし、理解できますよー」と思うかもしれませんが、上記の問題の正答率を見れば、それが幻想であることに気づくかと思います。

もう1つ質問があります。

問3 ・幕府は、1639年、ポルトガル人を追放し、大名には沿岸の警備を命じた。
・1639年、ポルトガル人は追放され、幕府は大名から沿岸の警備を命じられた。
以上の2文は同じ意味でしょうか。

いかがでしょうか。こちらも中学生の正答率はわずか57%だったというデータが出ています。(正解は最後に)

では、なぜこんなに子どもたちは読解力がないのでしょうか。

新井先生は一つの例として、学校における『穴埋め問題中心主義・プリント中心主義』をその原因として挙げています。

私も教師をしているので、採点効率を上げるためにテストで穴埋め問題を良く出題します。ただ、穴埋め問題は、内容を理解していなくても、キーワードさえ覚えていれば解答できます。つまり、全体の理解ができていなくても、そのキーワードを暗記すれば点数が取れてしまうものです。新井先生は小学生時代に「論理で考えるよりも暗記のほうが楽で成功しやすい」という成功体験をなるべく積ませないことを強調しています。

我々は得てして考えることが不得手です。それは、学校教育が大きく影響しています。日本の学校教育では認知能力(IQや偏差値などの目に見える能力)が最重要視され、学校教育のゴールが受験に集約されています。入学試験では知識が問われる問題がほとんどで、必然と学生たちは『思考』という課程を飛ばして、答えを暗記することだけに注力してしまう傾向にあります。(現在入試問題も変わってきており、知識だけでなく思考力を問う問題を出題する学校が増えてきていますが、大学入学共通テスト(旧センター試験)で記述問題の導入が頓挫したように、理想からは程遠い状況です)

また、上記の穴埋め問題と関連して、近年授業においてプリントを多用し、板書をする機会が減っています。新井先生はこれも子どもたちに読解力がつかない理由の一つだと指摘しています。正直これは盲点でした。私も高校生相手ではありますが、もう10年以上板書をさせておりません。授業ではPowerpointやその他のアプリをプロジェクターで投影して授業をし続けているので、自分がホワイトボードに板書をするのは最低限の内容で、それを強制的に生徒に板書させることもありません。

新井先生は読解力を伸ばすためには、プリント学習の機会を減らし、板書の機会を増やすべきだと提言しています。その理由は板書をする機会がないことで、子どもたちはノートを取る力が身に付かないからです。小学校では子どもによってノートを取るスピードが異なるので、その問題を解決するためにプリント学習やワークシートなどを多用し、話し合いの時間を増やすようにしました。その結果ノートを取れない小学生が大量に生まれ、その子たちが中高生になり、そして大人になっているのが現状です。しかしながら、本書では教師がよかれと思って作ったプリントが、子どもたちの読解力低下を助長させていた、という富山県立山町の例も示されています。

冒頭にも書いたように、この読解力こそがAIと共生していかなければいけない未来において、我々が保持するべき重要な力の一つであり、読解力があるかないかは人生を左右すると言っても過言ではないと新井先生は述べています。

教科書が読めない

自分一人では勉強できない
貧困下でも塾に通わなければならない

勉強の仕方がわからない、新しい技術を学べない
AIに職を奪われる
新しい職種に移動できない

労働力不足なのに失業や非正規雇用が増大

格差拡大、内需低下、人口がさらに減少

新井先生の警鐘は上記のようなロジックから成り立っておりますが、なかなか厳しい現実だと言わざるを得ません。今でも学力差からくる所得の格差は広がる一方ですが、このままの状態にしておくとこれからさらにその格差は広がるかもしれません。

そうならないために、本書では読解力を上げるための方策をいくつも例示しています。例えば、小学校中学年であれば、板書の時間を増やす、音読をする、読書を奨励する、第三者に正確に伝わる表現を工夫できるようになることを目指す、などなどです。

そして子どもだけでなく、以下のような方法で大人の読解力も上げることは可能です。

①意識して語彙を増やす
②内容を要約する習慣をつける
③音読や線引き読書で飛ばし読みを直す
④あえて自分の意見と違う角度で考えてみる
⑤短くてもSNSなどにアウトプットする

既述の通り、本書内のRST体験版を通して私自身も読解力が不足していることを自覚したので、自分の読解力を上げるために努力をしたいと思いました。また、教師として、親として、目の前の子どもたちの読解力をさらに上げるためにできることをしていこうと誓ったのでした。

今回も最後までお読みいただきありがとうございました。

解答:問1 ①  問2 ②  問3 同じではない


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