ゾンビたちのレクイエム

老婆は謳う

そして

老婆は語る

「これはゾンビに捧ぐ鎮魂歌さ。私が若い頃、ここはゾンビ漁が盛んで、ゾンビ景気に沸き返っとったわさ」

老婆は続ける

「網元の作左衛門さあは大儲けして向こうの岬にそれは御殿のようなお屋敷を建てなさったわさ」

老婆は縫い物の手を止め続ける

「そりゃあ一生懸命働いたわさ。番屋で夜通し飯を炊いて、昼は浜辺で網を引いてさ」

老婆は微笑みさらに続ける

「私にも男がおってさ。逞しいやん衆だったわさ。その男の腕に抱かれて海を越える夢を見たもんさ」

老婆の顔に翳りがさした。老婆は続けた

「あの事件が起こって、ここは変わっちまった。引き揚げられたゾンビが網の破れ目から出て作左衛門さあに噛み付いて、浜は蜘蛛の子を散らしたような大騒ぎになったさ。網から続々と出てきたゾンビが次々と人間たちを襲ってさ。私の愛しい男も私を守ろうとしてやられちまったのさ」

老婆は茶をすすり続ける

「それ以来この浜には誰もいなくなっちまった。この私以外はねや。何故だかゾンビはこの私にだけは噛みつこうとしなかったからな」

老婆は少しの沈黙のあと顔を皺くちゃにして私を見た

「可愛いおめえたち、久々のご馳走だ。ゆっくりと味わって喰らえ」

私は老婆の言葉に後ろを振り返った。そして一瞬で自分の置かれた立場を理解した。ゾンビたちが私に向かって押し寄せて来るのが見えた。

ここはゾンビが浜。老婆が口ずさむのはゾンビたちの鎮魂歌。暗闇が私を包んだ。

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