神隠し

子供たちの姿を見たのは

あの日が最後だった

休日に妻の手作りの弁当を持って

山登りに出掛けた

あんなにいい天気だったのに

急に雨雲が広がり

大きな雨粒が落ち始めた

向こうに山小屋が見えた

私は子供たちと

その小屋を目指した

私は先頭を走っていた

少し走って後ろを振り返る

子供たちは

私のすぐ後ろを走っていた

また少し走って振り返る

そこに

子供たちの姿はなかった

私は立ち止まり

辺りを見回した

遮るものは何もない

なだらかな草原が広がっていた

遠くから私を呼ぶ

子供たちの声が聞こえた

雨はいつの間にか止んでいた

私は子供たちを探して彷徨った

だがどこを探しても

子供たちは見つからなかった

何処へ行ってしまったのか

まるで神隠しにでもあったように

子供たちは姿を消した

そして

私を呼ぶ子供たちの声も

いつしか消えていた

それから長い間

子供たちを探して私は彷徨った

時折、子供たちの声が

風に千切れて私の耳に届いた

そしてまた長い時間が流れた

私は探し続けた

だが、子供たちは見つからない

どれほどの月日が流れたのか

私はあの日以来

子供たちの姿を見ていない

妻や知人

それどころか

たった一人の人間とも

出会っていない






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