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書評 『紙の動物園』 ケン・リュウ作 古沢嘉通=編・訳 (早川書房)

『紙の動物園』ケン・リュウ作古沢嘉通=編・訳 (早川書房)

 私は幼い時、父によく絵を描いてもらいました。その時描いてもらった絵のいくつかは、今でも鮮明に思い出すことができます。父の絵は、もしかしたらそれほど上手くなかったのかもしれません。ですが、それは、ほかの誰が描いたものよりも素晴らしく見え、私の宝物でした。
 後年、自分が親になってから、娘にたくさん絵を描いてあげました。私は絵を描くのには自信があります。でも、娘が描いてほしがるアニメのキャラクターは、上手く描けません。それなのに、娘は私の絵を喜び、宝物にしました。それらの絵は、今も、クッキーの空き缶のなかでひっそりと眠っています。
 この物語の主人公は男の子です。男の子が泣いたり、すねたりすると、お母さんがとっておいた包装紙を使って、目の前で動物を折ってくれます。虎や水牛、魚までも。それらは精巧に作られているだけでなく、お母さんが息を吹き込むと動き出すのでした。
 主人公の男の子は、いつしか、動物たちに興味を失います。男の子は大人になってから、あの折り紙が動いたのは、自分の想像だったのかなと思います。
 私が父の絵を好きだったのは、そして、娘にとって私の絵が宝物だったのは、それが目の前で生み出され、そして、本当に動き出し、話しかけてきたかのように思えたからではないかと思いました。
 物語の作者、ケン・リュウは1976年、中国甘粛省蘭州市生まれ。11才で家族とともにアメリカに移住。ハーバード大学を出た弁護士です。この作品でネビュラ賞、ヒューゴー賞、世界幻想文学大賞の三賞を同時に受賞しています。
(はら・まさかず)

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