記憶について学ぶ 後編"フレーム理論とスキーマ、思い出(記憶)は変わるもの"
前回の「記憶について学ぶ 中編"脳は暗記機械ではなく思考機械"」では、
・脳は暗記機械ではなく思考機械
・記憶力を向上させる方法
などをお伝えしました。
カリフォルニア大学デービス校のダイナミックメモリラボのディレクターであり、人間の記憶と制御の神経基盤の研究者であるPhD.チャラン・ランガナトの著書"Why We Remember"は、脳の記憶と忘却についてのメカニズムと、その知識を活用する方法が解説されています。
フレーム理論とスキーマ
脳は現在の状況を理解して、これから何をするべきかを予想する機能を持っています。この、脳の予想機能については、フレーム理論やスキーマで説明をすることができます。
フレーム理論とは、マービン・ミンスキーが1975年に提唱した知識の表現方式で、"既存の知識をフレームの形にまとめておいて、それを用いて認識や推論を行うこと"を意味します。
例えば、レストランに何度か行ったことがある人は、「レストランとはこういうところ」という"レストランの知識のフレーム"を認識します。
その"レストランの知識のフレーム"さえあれば、別のレストランのような場所に行った際、困ったことにならずに食事をすることができるのです。
スキーマとは、イギリスの心理学者フレデリック・C・バートレットが1932年の論文により提示したもので、"いくつかの物事に共通して現れる型についての知識の表現方式"です。
フレーム理論と同じように、例えば「丸くて赤く、シャリっとした食感の甘酸っぱい果物」という情報から"リンゴ"を連想できるのは、経験(記憶)の積み重ねにより獲得するスキーマが形成されるためです。
他にもフレーム理論とスキーマによって説明ができることがたくさんあります。例えば、プロのサッカー選手がピッチ上の相手のポジションを読んで見事にボールを奪ったり、熟練のお寿司屋さんがお客さんの状態に合わせて、その日一番美味しいと思えるお寿司を握ってくれるなどです。
思い出(記憶)は変わるもの
記憶は、私たちが思っているよりも曖昧なものです。なぜなら、記憶は"思い出すたびに再構築をする"からです。
記憶は連続的につながって見えるスマホの動画とは違って、断片的なものをつなぎ合わせて再生するため、自分なりに装飾したり、「だったかもしれない」という想像が付け加えられることもあります。
これが、2人で一緒にディズニーランドで同じアトラクションに乗っても、それぞれ異なった思い出となる理由です。
ある意味では、私たちは"記憶の内容を変えることができる"ということになります。また、記憶は最後に思い出したものが印象として残るということも付け加えておきましょう。
ちなみに"悟る"とは、あらゆる物事は情報次第でどのようにでもなると認知することです。
記憶に影響を与える要素
・最近起こった出来事
・繰り返し受けている情報
・現在どのような感情を持っているか
・その記憶に対して相手が存在する
・記憶を共有する場合
上記は、記憶に影響を与える要素の一部分です。だからこそ、町中でケンカになったカップルと目撃者とでは、最初の記憶からの情報こそ違うものの、共有していくことで最終的には同様の記憶を持つようになるのです。
もちろん、その記憶について第三者から新たな情報を入手した際は、記憶を更新することができます。これはバグではなく、そのような脳の機能なのです。
おわりに
私たちは記憶を使って教訓を思い出したり、未来の展望をすることによって、より良い決定を下すことができます。しかし、いとも簡単に真逆の状況をつくることもできます。
記憶の仕組みを理解すれば、記憶について積極的な役割を見出すことができ、過去の束縛から自分を解放し、より良い未来に向かって進むことができるのです。