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サイコロ

 これは、サイコロを知らない男の物語である。
 一つの部屋に閉じ込められた男がいた。男の両腕は壁に固定され、身動きが取れない状況。男の目の前には顔の高さほどのテーブルがあり、その上にはサイコロが置かれていた。男からは1の目が見えているが、サイコロをしらない男は、「白地に赤い丸が1つのもの」がただテーブルの上にあるとしか思っていなかった。
 少しすると、地震が起きた。男は驚いて天井を見上げる。揺れがおさまり、テーブルのサイコロに目を向けると、今度は2の目が男から見えていた。しかし、サイコロを知らない男は、さっきのものが「白地に黒い丸が2つのもの」に変わったと思った。
 また少しすると、地震が起きた。さっきの余震だろうかと男は天井を見上げる。揺れがおさまり、テーブルの上のサイコロに目を向けると、男からは1と2の目が見えていた。サイコロを知らない男は、テーブルの上のものは平面ではなく立体だったのかと衝撃を受けた。そして男は思った。テーブルの上には「赤い丸が1つ」の面と「黒い丸が2つ」の面がある、くの字に折れた紙が立ててあるのだと。男はすべてを見通した占い師のごとく、ニヤリと勝ち誇った顔をした。
 しかしこの後、これが黒い丸が3つ、4つ、5つ、6つの面がある立方体であることを知って、男が敗北感を味わうことになるというのは言うまでもない。
 これは、自分の目で見たことしか信じず、想像力が欠如した男の物語である。

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