見出し画像

Story of Kanoso#27「色づく川の上で」

   僕は息を切らしながら、坂山はんざん川にかかる小さな橋に向かっていた。

    きっかけはその日、一人の子が転校したからだ。
鳩田はとだ裕介という名前のその子は、中学になって初めて知り合った子だった。
小学校の頃、隣の様都賀ようつが学区にいた子で、中学で様都賀学区が僕のいた駒時こまとき学区と合体したために出会った。

   二人で組んで色々やっていた。
林間学校の時にはカレー作りで野菜のカットをして、文化祭ではお互い好きだったロボットをモチーフに作品を作り、展示した。
鳩田は確かロボットの着ぐるみを段ボールで作っていた気がする。
体育では一緒に2人3脚に出て優勝して、調べ学習ではこっちがいつも手伝ってあげていた。

   そんな鳩田が転校することになったのは、中学3年生の冬だった。
仕事の都合で、彼が南の方にある篠辺しのべという町に転校することになったのだ。

   僕は別れを言いたかった。
しかし、彼がみんなに転校を告げたその日こそ「今まで楽しかったよ。最後まで頑張ろうな」と言えたけれど、お別れの会をしたその日は風邪で休んでしまったのだ。
この頃は通信機器の所有を親が認めていなかったので、結局何も言えず、僕と鳩田の思い出はそこで終わってしまった。
まるで打ち切りになったテレビアニメのように。

   彼がどうなったのかも知らずに、気付けば10年が経とうとしていた。
昨日、突然鳩田からLINEの友だち申請が来たのだ。
彼が言うには、友だちの縁をたどったら、運良く僕に辿り着いたそうだ。
やっぱりもう一回会いたいらしい。

   僕はハッと10年前の屈辱的な思い出を思い出した。そう、風邪で休んだあの日のことだ。
あれから10年が経とうとしていた10月26日、僕は鳩田に会うために坂山川にかかる橋に来ていた。

   橋の上は10年前と殆ど変わらない景色をしていた。
目立つのは奥のコンビニがサンクスからファミリーマートに変化した位だ。

   ぼやっとした様子で川の奥に流れる方を、右に流れる眺めていたら、一台の車が目の前に止まった。
RAYGAS LIFEGUILDレイガス・ライフギルド」「ライフギルド様都賀 (株)竹嶋ガスセンター」と書いてあった。
車内に座っていた制服姿の男をみて、僕はすぐさま勘づいた。あれこそが鳩田本人なのではないか。
そして「ライフギルド」とはガス会社のサービスショップの事なのだが、彼は一体何があったのか。まさか後ろに書いてある「(株)竹嶋ガスセンター」とやらに就職したのか。
怪しみながら寄ってみると、サービスカーの窓が下に下がった。

    「やぁ、松本くん!」
助手席成長した鳩田裕介その人が、にっこり顔を出していた。
「鳩田!」
「ここで長く止まってても無理だから、乗りなよ」

   僕は「ライフギルド様都賀」のサービスカーで助手席の鳩田と語り合っていた。
話をしていると、彼が転校したのは父親の転勤がきっかけで、高校卒業の段階でサービスショップの求人を見つけ、生まれ育った様都賀の店舗だったことからそこに就職したとの事だった。

    僕らは先程の思い出話をして盛り上がった。
「安心したよ元気で」
「アハハ、ありがとう」

    「ここで良いのかな?」
僕の家の近くで車を降りるとき、僕は最後にあの一言を呟いた。
「うん。ありがとう」   「楽しかったよ今まで。向こうでも元気でな!」
10年越しの宿願が叶った瞬間だった。
「うん!うちの店もよろしくね~…」
鳩田を乗せたサービスカーは走り去っていった。

    10年越しの宿願を叶えた後、僕は満足した気持ちで、地元のショッピングモールへの道を歩いていた。

   鳩田、ずっと残っていた事を済ませられて、僕はとてもすっきりしてるよ。
またな。できれば近いうちに。

(了)(1564文字)


あとがき

   今回は川と再会のキーワードがテーマです。
鳩田はガス会社サービスショップの店員として元の町に戻ってた訳ですね。
しかしそれを知られずに長い別れになっていたとは、なんだか運命って非情ですね。
さて、すっかり冬仕様と化した電車は座席下のヒーターが暖かいです。

Writen in the commuter train“2438“(Operated by Kintetsu Railway)


マガジン


本作品はフィクションで、実在する人物・地名・各種団体や企業等とは、一切の関係がありません。



10/28追記)矛盾が生じた点があったので修正しています。
   ライフギルドの車が止まったシーンです。
元々の文を読み返すと「鳩田」なんてどこに書いていたのかということで修正しています。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?