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突然ショートショート「殺していい理由」

 「人を殺していい理由なんてないんだよ!」マンションの一室で、刑事の田中は吉田を一喝した。

 吉田は、松井という男を殺していた。田中はマンションに乗り込み、吉田を捕らえようとしていたのだった。

「いや、彼は例外だったんだ!」
「ふざけるな!何おかしなことを言ってる」
「これを見ろ!」

 吉田は、部屋の隠し収納からスマートフォンを取り出して田中に見せつけた。
「何だよこれ」
「あいつのスマホだ。パスワードは俺がリセットした」
「それがどうしたんだ。まさか、それが松井を殺していい理由なのか」
「そうだよ。物わかりいいじゃないか、刑事さん」
「なんでそれが殺していい理由なのか、って話」
「まあ、見てろ」
 吉田は松井のスマートフォンを慣れた手つきで操作し、ある画面を見せた。

「これは…!」
「あいつの検索履歴だ。『死体の処理方法』『人間の急所』『人の殺し方』『催眠ガスの作り方』さらに数々の殺人事件についての履歴がたくさん!」
「お前が後で調べただけじゃないのか?」

「これも見ろ」

「これは…!」
「あいつのTwitterだ。俺が殺す前日、駅前で無差別殺人を予告する内容のツイートをしていた」
「お前が乗っ取っただけじゃないのか?」

「これも見ろ」

「これは…!」
「あいつの通販の履歴だ。サバイバルナイフを購入している!」
「サバイバル好きだっただけじゃないのか?」

「ならばこれも見ろ」

「これは…?」
「あいつが自分で撮った動画だ」
「ただ撮ってただけ……あ!?」
「この間の撮影だ。飼い主の前で猫を殺し、次に飼い主も殺してしまう。そしてカメラに向かってピースサインをして終わる」
「…AIで作っただけじゃないのか?」

「これも見ろ!…」
 その時、田中と吉田の間に、田中の部下が割り込んできた。
「失礼します、警部!先日の猫と飼い主殺人事件で現場から松井のDNAが検出されました!」

「…」
「これでわかっただろ。あいつは本気だった。そして俺はあいつを止めた」
「方法は最低だがな」
「俺はもういい。煮るなり焼くなり、好きにしてくれたらいいさ」
「よし。行くぞ」
「あぁ…」

 田中らに連れられて部屋を出る吉田の姿には、哀愁と共に、なぜか幸福感が漂っていた。

(完)(891文字)


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