突然ショートショート「面倒ごとレストラン」
ここは、日々のいろいろ面倒なことへ一緒に向き合う「面倒ごとレストラン」。
来店するのはいつも、何か面倒なことがあったり、悩みを持っている人ばかりである。
今日やってきたのは、仕事で悩みのあるらしいお客。
さてさて、どんな話になるのだろう。
「いらっしゃい。好きな所に座って」
「失礼します」
身なりはサラリーマン風。大分疲れているようだった。
「ご注文は?」
「…う~ん」
「どうします?」
「カツカレー」
「わかりました」
店主はカレーのルゥを煮込み始めた。
「お客さん、何か面倒なこと、あったりする?」
「…わかります?」
「わかるも何も、看板に『いろんな面倒ごと教えて下さい』ってあるから」
「あ…はは」
ルゥの入った鍋の方に向き合いながら、店主は客の話を聞き始める。
「新製品の開発をしているんですが、うまくいかずに悩んでいるんです…どうしたらいいですか?」
「もっと聞かせて。どういう所で悩んでるのか、とか」
「…開発に際しては一般の方にモニターとしてご協力頂いているのですが、近頃はモニターが集まらなくなっていて、開発が停滞しているんです」
「何を開発してるのさ」
「小型モビリティです。分かりやすく言うとその、ピザ屋のスクーターを小さくして、水素で動くように」
「水素!ほう」
店主は話に聞き入りつつも、カレーの仕込みを続けていた。
「それでそれで…」今度はトンカツの仕込みを始める。
「モニターが集まらないと出資者の皆さんから今ひとつ納得を得にくくて」
「なるほど。それでどうしたら…と」
「はい」
豚肉を揚げながら店主は言った。
「だったら、お客さん自身でやってみたらいいじゃないか」
「ん!」
「モニターが集まらないならもう自分でやっちゃえ。客の目線と開発者の目線は違うでしょう」
「なるほど。しかし貸出用の車が1台しかなく…」
「壊れたらどうしようって?」
「はい」
「そんなの、安全運転してたら大丈夫だって」
「…確かに、そうですよね」
店主は深く頷いた。お客の顔は晴れ晴れしていた。
「はい、カツカレーの出来上がり!」
「どうも」
「ライバルのスクーターに勝てたらいいな」
「ハハハ、ありがとうございます」
お代を払って、明るい様子で店を出る客を、店主は明るい表情で見送った。
そして、また次の客の来店に向けての準備を始めるのであった。
(完)(937文字)
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