突然ショートショート「満月ガスバス」/毎週ショートショートnote
満月が空高く昇る日、どこかから行先不明のバスがやってくるという。
あくまで都市伝説の域を過ぎない話であるが、私はそれに似たような経験をしたことがある。
満月の日の夜。山道を歩いていると、目の前の視界がガスを撒かれたように白くなってきた。
しかし、不思議なことに臭いのようなものはしなかった。
いつの間にか周りをガスに囲まれてしまったためにやむなくそのガスの中を進んでみると、いつもの山道に出た。
何だ、変わらないのかと安心していると、後ろから普段はやってこないはずのバスがやってきているのだ。
おでこの所にあるはずの行先は書いていない。
しばらくそこで待っていると、バスは目の前で停まりドアを開け、1人だけ降ろした。
よく車体を見ても何の文字も書いていない。
不思議に思う私に運転手は声をかけ、ドアを閉めて去っていった。
「これ、そこの水力発電所の送迎だから。ごめんなさいね」
そうだった。何もバスは『路線バス』だけが全てじゃなかったのだ。
(完)(409文字)
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