Story of Kanoso#76「備えあれば憂いなし」
朝の家。午前7時22分。部屋の中には誰もいない。
アラームがピピピと鳴ってうるさいので、起きてアラームを止めたらまた寝ようと思っていたが、どうやらそうもいかないようだ。
外は明るく輝き始めていた。
今日は仕事があるのだ。起きてとっとと支度を済ませなければ、会社に遅れてしまう。
しかし、人間とは奇妙なもので、7時間もベッドの上に体を置いていれば、ベッドと体が融合状態になってしまうらしい。
なかなかベッドから出られない。
いや、もちろん出られるのはわかっているのだ。「感覚的に」出られない。
私はこの融合状態が解けるまで、もう一度眠る……なんて間抜けな事にならないように、必死に意識をフル稼働させた。
しかし、どうやら意識は私を起こさせるまでにフル稼働しきっていなかったらしい。
「ウーウー、ピッポピッポ」「ウーウー、ピッポピッポ」次に目が覚めたのは、7時40分頃だった。
聞き慣れないアラームの音に、こんなのあったかな、と思って目が覚め、しまった、寝過ごしてしまったな、と思い支度を始めた時だ。
「ガスが漏れていませんか?」「ガスが漏れていませんか?」としゃべる声がする。
「え!?」私は驚いた。
「ガスなんて漏れてたっけ……」と思い、まず窓を開け、家のガス機器をすべて調べようとする。
すると、またも眠くなってきた。否、目がチカチカした後に意識が薄れて行き、必死に外に向かった私はその場に倒れ込んでしまった。
「もしもし、大丈夫ですか!」
どこからか男の人の声がする。
「……ん?あなた……誰?」
「ガス会社です。新零ガスネットワーク。ガス漏れてるよって通報があってね、鍵を管理人様から借りてここに来たんですが」
「……え?」私は、どうやら外のベランダに倒れていたらしく、命は残っていた。意識も再稼働し始めている。
よく見ると管理人さんの姿もそこにはあった。
「ガス……漏れてました?」
「はい。ガスコンロ、火が消えてガスだけになってました」
「あっ……そうなんだぁ」
「それであの警報器が自動通報して、ここに我々がきたんですよ」
私はふっと思い出した。
電器店で「買い替えの時も備えあれば憂いなし」「自動通報で安心」と言われて買い替えガス警報器の存在を。
「危なかったっすね。自動通報がなけりゃ、あなた死んでましたよ」作業着姿の男の人は話す。
そうか、これが「備えあれば憂いなし」か。
私はまだ眠い意識で、この諺の意味をしっかりと捉えた。
(了)(1022文字)
あとがき
今回は諺をモチーフに。
そして朝が舞台なのに昼更新。
許してください。仕事が休みで寝過ぎたんです。
制作日(別日)の朝に大阪ガスのCMが流れたのが影響し、ガス漏れが出てきました。刷り込み恐るべし。
朝は眠いので何べんも寝てしまいそうになりますが、するとこんな事態になるかもです。
気を付けましょう!
そして、ガスはしっかり確かめて寝ましょう!
ね、危ないですから!
Writen in the commuter train“2413“(Operated by Kintetsu Railway)
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