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2020年に読んで面白かった本(科学、歴史、ノンフィクションなど)

2020年に読んで面白かった本のまとめです。小説と漫画は除きます。すべてKindle本です。ちなみに2019年版はこちら

今年は新しい本をあんまり読めてないんだよなぁ……。2ヶ月間のKindle Unlimitedであれこれ読んだけど、そんなに面白くない本もあったし、このまとめでは小説を扱わない縛りだし。だからすごく少ない。

ジョゼフ・ギース、フランシス・ギース『中世ヨーロッパの結婚と家族』

今の西欧を見ていると一瞬信じられなくなるが、キリスト教は性欲をめちゃくちゃ目の敵にしている宗教だ。できれば結婚なんてせずに一生純潔を守って生きろ、くらいの勢いである。

かくして「せめて結婚したら添い遂げろ、複数の異性と寝るな」と主張するキリスト教会と、「愛人を持ちたい、離婚して新しい女と再婚したい」という王侯貴族との、終わりなきいたちごっこが幕を開ける。

特にあきれたのは、教会側が「近親婚は避けましょう。あれもこれも近親婚の範囲だとみなします!」として、次々に「結婚してはいけないリスト」を増やしていった点だ。それ、意味あんの?

一方、王侯貴族は「実は妻が近親婚の範囲に入る血縁だったんです!」と証拠をでっちあげて離婚しようとした。もちろん愛人と再婚するためである。お前らえぇ加減にせぇや。

(男性の話ばかりでなく、女性の話も出てくる。ただ、歴史あるあるだが、女性は記録に残りにくいので、どうしても記述が少なくなりがち)

ジョゼフ・ギース、フランシス・ギース『中世ヨーロッパの城の生活』

中世イングランドの、とある城を題材に、城の構造や建築の変遷、人々がどのように住んでいたか、攻城戦ではどのように用いられたを語る(なので厳密には中世ヨーロッパではなく中世イングランド)

多分、この題材は動画と相性がいい。建物の構造とか周囲の地理とか、動画なら一発でわかるし。YouTube向きでしょうね。

私はイングランドの歴史をろくに知らないんだなって冒頭で気づかされた。日本人にとっては聖徳太子や藤原道長が出てくるような気軽さで、当たり前のように「誰それがこうだった時は〜」って書かれてるけど、それが何世紀頃の、どんな時代の話なのか、すぐにはわからなかったから。

(わからなくてネットで調べてるうちに、リチャード3世の遺骨が2012年に発掘され、DNA鑑定の結果、先祖に王位継承者とは異なる男性の血が入っていると判明した……という話も知った。つまりイングランドの王位継承者の血はどこかで途切れている可能性がある。ちなみにリチャード3世は『薔薇王の葬列』の主人公)

城の外の話もたくさん出てくる。鷹狩のくだりでは『乙嫁語り』を連想した。あと森林特別審問の巻物に「国王陛下ご下賜のシカ」という記述があり、面白すぎてじわじわきてた。ご下賜のシカ……。日本語に訳したとたん言葉遊びっぽくなってしまう。ごかしのしか。ご下賜のシカ。

大城道則『古代エジプト文明 世界史の源流』

世界史の根っこという観点から語られる古代エジプト文明。数千年に及ぶ古代文明って、それだけで掘れば掘るほど沼だな、これは。

それにしても長すぎませんか古代エジプト史。名前をよく聞くプトレマイオス朝は最後のほうなんだなってのが、これを読むとよくわかる。当然ながら『アルシノエ二世 ヘレニズム世界の王族女性と結婚』の時代も、かなり後半だ(この本にアルシノエ2世は出てこない)

「乾燥化で重視されるようになった嵐の神バアルって、旧約聖書にも異教の神として出てきた気がする」とか、「このプントって『謎の独立国家ソマリランド』に登場するプントランドの起源だ!」とか、歴史はありとあらゆるところでつながってくる……!という面白さがあった。

磯野真穂『ダイエット幻想 やせること、愛されること』

皆がダイエットしなきゃ、と強迫観念のようになっている背景には、承認欲求が絡んでいると指摘する本。

パオロ・マッツァリーノ『みんなの道徳解体新書』

各出版社から出ている道徳の教科書を読み解き、ツッコミを入れまくる本。げらげら笑いながら読んだ。『不道徳お母さん講座 私たちはなぜ母性と自己犠牲に感動するのか』を読んだ時も思ったのだが、道徳の授業ってむしろ有害では?

儒教のように指針となる書物や思想家の積み重ねがあるわけでもなく、微妙なお話を読ませて、こじつけとしか思えない教訓を導くためだけの「道徳」。それを国が検定で採用して、子どもに正解として答えさせる。変だよな。正解が決まってる時点で変だよ。

ちなみに、他の国では道徳のかわりに宗教の授業があるらしい。ノルウェーを舞台とするヨースタイン・ゴルデルの小説『ソフィーの世界』にも出てきましたね(異なる宗教を信じる人に対して寛容になる必要がある、と主人公がレポートを書いてたはず)

公教育で宗教を教える是非はまた別として、宗教は善悪の基準となる根拠がはっきりしてるやん。聖典とか、神学などの研究とか。でも「道徳」にはそれがなくて、儒教から宗教色を抜いて保守層や権力者に都合のいい要素を継ぎ足してる感じで、ちぐはぐで中途半端な印象を受ける。

今井むつみ『ことばの発達の謎を解く』

子どもはどうやって言葉を覚え、操るようになるのか。

この本を読んではっとしたけど、そもそも言葉とはなんなのか、どういう法則があるのかを子どもはまったく知らない状態で生まれてくる。外国語を学ぶ大人と異なり、子どもはもっと根本的なところから手探りで試行錯誤をくり返して言葉の概念を知り、文法を覚えていくのだ。

日本語だけでなく、英語やロシア語、中国語など異なる母国語を持つ子どもたちの発達過程も描かれていて興味深い。「もぐもぐする」みたいにオノマトペを動詞として使う(オノマトペが少ない言語でもオノマトペを生み出して使う)とか。

磯部和子『ラストベルトの真ん中で 回想のオハイオ子連れ留学』

KDP本(いわゆる自己出版の本)。ネットであれこれ調べることができなかった1980年代初頭、手探りで情報を調べて子連れ留学した女性の回想記。

著者が留学を思い立ったきっかけのひとつに、松香洋子さんの留学記があったらしい。それ、mpi松香フォニックスの会長じゃないですか!(英語教材の会社)……約40年前の様子がうかがえて興味深い。

留学するまでのいろんな体験や思い、留学して遭遇するさまざまなトラブルが淡々とつづられていて、そこがよかった。それにしても今以上に女性や母親の立場が弱かった時代に、娘ふたりを連れて留学ってすごいよな。

個人的には、冒頭で描かれる家族史としての部分もかなり面白かった。具体的な地名が出てきて、江戸でこんな商売をしていたとか、戦争中にこうやって逃げたとか、子どもの頃はこんなふうに遊んだとか。

私も小さい頃、母からこんなふうに昔話を聞いたなぁと懐かしくなった。外で鞠つきをして遊んだとか、家の前に小さな小川(おそらく用水路)が流れてたとか、市販の服があまりないので祖母の縫った服を着ていたとか、聞いたことあるんですよ。

大崎善生『聖の青春』

Kindle Unlimitedで読んだ。『3月のライオン』の二階堂のモデルでは?と言われている棋士・村山聖についての本。

おそらく泣ける本なのだろうが、私には「あぁ、私が幼い頃って、日本の社会はまだまだこんな感じだったんだなぁ……」と時代を感じる内容でもあった。病人の前でタバコばんばん吸いまくったりとかね。あと、未成年の喫煙や飲酒に対して周りの目も甘くて認識がゆるかったんだなって。

スティーヴン・ホーキング『ビッグ・クエスチョン 〈人類の難問〉に答えよう』

Kindle Unlimitedで読んだ。読めてよかった。

著者はキリスト教圏の人なので、宗教にまつわる話題も多い。「神はこうだと思ってる人が多いけど無理じゃね?」とか、「神が宇宙を創造したのかって質問されるけど、その質問は意味がないよ。なぜなら……」とか。

また、ご存じのように著者にして著名な科学者であるホーキングは2018年に亡くなったため、この本は映画でホーキングを演じた俳優の序文で始まり、ホーキングの娘や親友による追悼文で終わる。葬儀の様子も描かれていた。

こさささこ『ある日突然オタクの夫が亡くなったら? 身近な人が亡くなった時にやるべきこと、起こること』

Kindle Unlimitedで読んだ。漫画の部分と、文章であれこれ補足説明してくれる部分が交互に出てくる構成。

個人的にリアリティを感じて恐ろしかったのが「夫の死後も、夫がネットで買っていたものは次々に届き続ける」という描写。ヒィィ。

実は私の父が最近、YouTubeで趣味の動画を見ては、ほしくなったアイテムを買ってるらしいんですよね……(母の愚痴で判明)

1年ぶりに実家の2階へ上がってみたら、私の部屋も弟の部屋も父の物置になってた。仏間も和室もとっくに物置。廊下や階段も侵食してる。片づけの苦手な母がものを少しずつ捨てるようになって安堵してたら、今度は父が増やし始めたのだ。そんなターン制は望んでねえ〜!

あれを片づけるの、想像しただけでしんどい。

ショーペンハウアー『読書について』

Kindle Unlimitedで読んだ。キレッキレの毒舌っぷりが面白かったショーペンハウアー。

丸山真男『日本の思想』

4本収録されていて、前半2本が特に難しい(時代の背景とか用語とか知らないことだらけ)。講演をもとにした後半の2本を先に読んだほうがよかったかも。最初の1本と最後の1本が特に面白かった。

なお、最後の1本は高校の国語の教科書にも載っていた『「である」ことと「する」こと』。高校生だった当時「これ、すげえ!」と思って母に話したところ「こんな難しい文章を高校でやるの?!」という反応だった。今ならわかる。あの丸山真男を高校でやるの? マジ? ってなるね。

確か、今の高校の教科書にも載ってます。さらに『教科書の中の丸山眞男 : 「「である」ことと「する」こと」の教材観史』という論文も出ているらしい。世の中にはいろんな研究があるものだ。

五味文彦『鎌倉と京 武家政権と庶民世界』

平安時代末期の武士の台頭、貴族政権から武士政権への移行について書かれた本。活発化する都市民や厳しい暮らしを生き延びようとする百姓、鎌倉仏教の諸派についても語りつつ、鎌倉幕府の滅亡で終わる。

当時の皇族は配下を裏切りまくってて非道だなーと思いながら読んだ。自分の血筋さえ残せれば何してもいいと思ってそう。源氏も祖先をたどれば皇族がいて「貴種」の血は残せるんだから、ぶっちゃけ鎌倉幕府は仁義も実力もない京都の皇族を大事にする必要あったのか?と素朴な疑問を抱いた。

『ONE PIECE』のアニメの影響で「当時の皇族、天竜人と変わらんやん」と思ってしまう(天竜人は神聖視される血筋を持ち、それ以外の人間を虫けらのように扱える身分って感じ)。当時の皇族のふるまいを見ると「きみが武家の生まれだったら報復で一族郎党滅ぼされてるよ」ってなる。

でも、仁義を持ち合わせない無能な皇族であっても滅ぼすのはタブーだったんだろうな。こうなると、乱を起こして天皇を名乗り、新たな朝廷をつくろうとした平将門の特異さが際立ってくる。

なお、著者は最後に、中世の歴史書や歴史物語は死者への鎮魂を意図しているが、現代人はそれについて鈍感すぎるのではないかと述べている。大災害が起こったあとの「語り継ぐ」みたいなものだろうか。

高水裕一『時間は逆戻りするのか 宇宙から量子まで、可能性のすべて』

平易な語り口で読みやすい。しかも今年出た本なので2019年に発見された情報も入っている。『We Have No Idea』の補足にもなってる。カルロ・ロヴェッリ『時間は存在しない』よりも先にこの本を読んだほうがよさそう(私はロヴェッリを読んでないから、ただの推測です)

『ワープする宇宙 5次元宇宙の謎を解く』のリサ・ランドールの名前も出てくる。もちろんアインシュタインとホーキングは言うまでもない。時間とは?って考えた結果、宇宙や量子力学の話になっていく。

今まで読んできた宇宙や物理についての本が「時間は逆戻りするのか?」というひとつの軸によって整理され、最新の状況はこんな感じですよ、と提示されている。それだけでなく、著者の予想や「もしかしたらこうかも?って思うことはある」みたいな話も出てきて面白かった。

桃崎有一郎『「京都」の誕生 武士が造った戦乱の都』

著者の京都シリーズ3部作の2冊目にあたる本。シリーズの他の無料サンプルも読んだが、特に3冊目のほうは書き方が少々過激で怖かったため、この『「京都」の誕生』のみを買った。

教科書に載っている平安京の図は実現したことがない、と著者は言う。右京の水はけの悪さなどによって、平安京は当初から理想どおりにいかず、人々の住む場所は偏っていたし、羅生門のあたりはすぐ寂れてしまった。

しかも盗賊の襲撃が常態化して、警備の数も質も足りない。そこで地方から台頭してきた武士が配備され、やがて院政と結びついた平家によって平安京の外側(主に南のほう)で大規模な開発が行われる。

これによって現在の京都の礎ができた、と著者は主張する。「京都」はもともと「みやこ」を意味する名詞として法令で使われる程度だったらしい。しかし平家によって鳥羽(白河院政の地)が開発されたのち、平安京と鳥羽をまとめて呼ぶ際に「京都」が使われ、そこから都市名になったようだ。

『鎌倉と京』とほぼ同時代の話だったので、それぞれの本を補足する内容として読むこともできた。

(ただ、『鎌倉と京』でも同じことを思ったのだが、死体の首ってそんなに長持ちするのかなぁ。当時は朝廷の敵や罪人を武士に討伐させ、その生首を見世物にするのが京都で大盛況だったらしいのだ。でも東国から京都に何日もかけて運んでたら腐るよね? 腐った首を見せびらかしてたのか?)

あと、この本に出てくる当時の地名は、現在の地名と照らし合わせながら書いてあるので「ここは通勤ルートだった」「ここは昔の職場があった」「ここは友達んち」と思い浮かべながら読んだ。京都は日本史の表舞台だったんだなーって実感する(ひとごとのように)

実は昨夜から、Amazon使わないチャレンジを始めた。

AmazonやKindleを開かない、もちろん買い物もしない(ただしAWSをブロックするのは難しいので、今回はそこまでやらない)。Amazonのアカウントを削除しようかなーって考えてるので、試しにAmazon禁止期間を設けることにしたのだ。

(このnoteは11月から少しずつ準備していたので、Amazon使わないチャレンジを始める前にほぼ書き終わってた)

しかし、Kindleが使えない状態で年末年始を迎えて、活字中毒の私は果たしてどこまで耐えられるのか……。そして来年はどうやって読書するつもりなのか。何も決まってない。

ともあれ、このnoteにまとめた本は面白かったので、皆さんは私の謎チャレンジなどは気にせず、面白そうな本を読んでください。読みたいと思った時に読んでおかないと、体力や視力が衰えてからでは遅いのだ。

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