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イノベーションを育む、「失敗を恐れない」協創の場へ

このnoteでは、JR東日本がすすめる高輪ゲートウェイ駅周辺一帯を対象とした「TAKANAWA GATEWAY CITY(高輪ゲートウェイシティ)」のまちづくりの背景やプロセス、理念を発信しています。

今回は「100年先の心豊かなくらしのための実験場」であるTAKANAWA GATEWAY CITYから目指す「プラネタリーヘルス」とは何か、東京大学大学院農学生命科学研究科教授の五十嵐圭日子さんと、JR東日本の島川えり子がお伝えします。
そして「プラネタリーヘルス」の実現に向けた知の拠点となる「東京大学 GATEWAY Campus」や、多様な知をつなぎ・かけ合わせるビジネス創造施設「LiSH※」についてもご紹介します。

※LiSH=ビジネス創造施設 「TAKANAWA GATEWAY Link Scholars‘ Hub」の頭文字をつなげた本施設の愛称。

島川えり子:東日本旅客鉄道株式会社 マーケティング本部 まちづくり部門 品川ユニット
TAKANAWA GATEWAY CITYにおける、ビジネス創造施設「LiSH」の企画・開業準備等を担当するとともに、アカデミアや大企業との共創等も担当。
五十嵐圭日子:東京大学 大学院農学生命科学研究科 教授 兼 総長特任補佐
UT7(次世代生命概念創出研究グループ)のメンバーであり、木や草からエネルギーやマテリアルを生産する研究の第一人者。フィンランド技術研究センター客員教授、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)技術戦略センターフェローを兼務。

100年先を見つめたパートナーシップ

──まずは今回の協創の舞台となるTAKANAWA GATEWAY CITYについてお聞かせください。

島川:広大な車両基地の跡地を舞台にした、当社1社によるグリーンフィールドのまちづくりという特徴をもちます。また、日本で最初に鉄道が走ったイノベーションの地であるということも、私たちJR東日本のDNAとして大切にしたい点です。
それらを背景に、この街では「100年先の心豊かなくらしのための実験場」というコンセプトを掲げています。山手線や京浜東北線をご利用の方はぜひ、2025年3月のまちびらきに向けて徐々に新たな街が姿を現しつつある様子を、車窓からご覧になってみてください。

──「100年先の心豊かなくらしのための実験場」というテーマのもと、東京大学をパートナーとしてお迎えしたということですね。

島川:未来への実験場を誰に活用していただきたいかを議論したところ、多様で先端的な知を有し、スタートアップを数多く輩出されていることなどから東京大学様のお名前が挙がり、お声がけしました。ともに約150年という歴史を持つ両者の協創を通して、100年先の未来をつくる、ということに運命的なものを感じています。さまざまな研究者の方々とお話をさせていただくほどに「こんなに面白い研究があるんだ」とわくわくするとともに、協創できることを大変光栄に思っています。
五十嵐:約150年の歴史を知の分野で支えてきた東京大学と鉄道によって支えてきたJR東日本さんというコンビネーションは、非常に相性が良かったのではないかと思います。これから100年先のことを考えるためには、長く信頼関係を保てる企業と協創したいという思いがありました。その点で、約150年という長きにわたって鉄道を担ってきたJR東日本さんには圧倒的な信頼感があると感じています。
また東京にこれだけの広大な土地をキープしてきたこと自体が、JR東日本さんならではのことだと思います。この規模のまちづくりに関われるということは、東京大学としても、私たちの世代では恐らく初めてです。そんなチャンスを得られたことは、非常に楽しみですし、意義のあることだと思っています。

「プラネタリーヘルス」という考え方とは

──そのまちづくりの大きなテーマのひとつが「プラネタリーヘルス」ということですが、これはどのような考え方なのでしょうか。

五十嵐:まず、人それぞれが健康に生きることを追求する「パーソナルヘルス」という考え方があります。そして、新型コロナウイルス感染症によるパンデミックのような、世界全体で人間が病気になってしまう事態をどう阻止するかを追求する「グローバルヘルス」という考え方もあります。
ただ、もし人間が世界レベルで健康な状態を保っていたとしても、地球が不健康な状態であったら、私たち自身も結局は不健康になってしまうのです。そこで人間も含めて地球全体をどう健康にするかを考えること、さらにはそのためのさまざまな研究や活動そのものが、「プラネタリーヘルス」という考え方になります。これを突き詰めると、そこに住む人も地球環境も健康である状態になります。今回のまちづくりでは、街というものがどういう仕組みで動いていれば、人も地球も健康になるのかを考えることができる。この街から人と地球の健康を追求する双方向のアプローチができるのではないかと思っています。

──とても壮大な計画ですが、このプロジェクトを進めるために重要なこととはなんでしょうか。

島川:五十嵐先生をはじめ、多くの素晴らしい先生方にご参画いただけたことはとても幸運でした。私たちとしては、先生方や協創パートナーの企業の皆様に大いに実験していただくためのフィールドをしっかり整備することが重要と考えています。
JR東日本の鉄道ネットワークに加えて、街の設備が持つデータを収集・分析するデータ基盤・都市OSや、中長期ビジネス成長戦略「Beyond the Border」でも掲げているSuica の進化による「新たなデジタルプラットフォーム」が構築されます。リアルのネットワークとデジタルのネットワークをかけ合わせ、そして街全体を実験場とすることで、未来をつくる「場」としていきたい、と決意を新たにしています。
五十嵐:大学では個人にしても研究室にしても、みんなそれぞれにやりたいことを持っているんです。しかし世の中には、それを実現させる「場」が余り多くはありません。今回のプロジェクトでは、その「場」ができるということ、さらにそれが実験場であるということが重要です。それは、失敗が許されるということなんです。いいアイデアがあっても失敗が怖くて何もできない。その結果、そのアイデアが本当にいいものかどうかさえわからないまま埋もれさせてしまう。それは、今の日本の大きな問題点ではないでしょうか。失敗をしても大丈夫という空気をこの街から共有することができたらいいと思っています。

学問の垣根を超える大学キャンパス

──失敗しても大丈夫という空気があれば、確かに挑戦しやすい環境になりそうです。では、東京大学 GATEWAY Campusについてもお聞かせください。

五十嵐:東京大学 GATEWAY Campusは、学問の垣根がない場所にしたいと思っています。大学という組織では、ひとつの研究を行う時に違う学部や違うキャンパスにいる先生と一緒に進めるというのが大変難しいんです。そうした壁を越えるには、まず場所として地の利がいいこと、なおかついろいろな実験ができる環境であることが求められます。それを目指したことで、必然的に東京大学 GATEWAY Campusの仕組みができました。
いろいろな先生方やスタートアップの方々などがつねにアクセスできて、ざっくばらんに世間話もできる。さらに隣にはいろいろな実験をする空間もある。雑談からアイデアが生まれたらすぐそこで実験ができるといった、そんな空気感があるキャンパスです。それは従来のキャンパスとは全く違うものになっていくはずです。

──そうした取り組みというのは、もう始まっているのでしょうか。

島川:東京大学様との100年間の産学協創協定のもとで目指すビジョンには、「人にも地球にもスマートな街」「世界一グリーンな街」「サステナブルな未来の食を試せる街」「人と地球にウェルビーイングな街」などがあります。例えば「サステナブルな未来の食を試せる街」の取り組みについて申し上げると、マルハニチロ様との協創を開始しています。これは2024年5月31日に発表しました。
五十嵐:この取り組みのひとつは、魚食のリデザインです。近年は人が魚を食べる機会が減っているんですね。例えば魚と肉なら、つい肉を選んでしまうという人が多い。そこでその意識をひっくり返して、魚を食べる新しい文化をこの街から発信してみませんか、という提案をしています。もうひとつが「パーソナルスーパーフード」の開発です。魚は非常に栄養価も高く、健康にもいいと言われています。しかしなぜ私たちは魚を食べないのか。まず健康というのが食のモチベーションになりにくいし、調理や後処理に手間がかかるということもあります。そうしたハードルを下げるために、魚がスーパーフードだとみんなが認識できて、さらに手を伸ばしたくなるような新しい食品・仕組みづくりを考えています。
島川:この協創から、マルハニチロ様の社内でも若い社員を中心に、変革に向けた積極的な動きが生まれてきている、とお聞きしています。東京大学様、マルハニチロ様、JR東日本の3社で今後も協議を重ねてまいります。

街を実験場にした、さまざまな取り組み

──その他にはどんな取り組みがあるのでしょうか。

島川:本当にたくさんの取り組みがあり、例えばスマートシティ化や都市型緑化、ヘルスケアに関する新しいサービスの開発、またスタートアップ支援の仕組みづくりも進めています。まちの共創パートナーであるマルハニチロ様やKDDI様は、本社もTAKANAWA GATEWAY CITYに移転を予定されており、社員の方々に積極的に実験へご参加いただけるというお声をいただいており、大変心強く思っております。今後、新たなパートナーも順次発表していく予定です。

──たくさんの学びや刺激があり、ここで働くのはとても楽しそうです。では、その中に誕生する新しいビジネス創造施設「LiSH」について、お話をお聞かせください。

島川:この街には東京大学様やシンガポール国立大学のBLOCK71様といった起業家精神あふれるアカデミアやその関連機関、KDDI様やマルハニチロ様をはじめとする企業の方々、さらには国内外のスタートアップ100社以上や、アクセラレーター、ベンチャーキャピタルが集まります。そうした方々がリアルにつながり、交流できる空間としてビジネス創造施設「TAKANAWA GATEWAY Link Scholar’s Hub(以下LiSH)」をつくりました。
街の各所に設けた3つのスタジオと1つのラボから構成される施設です。東京大学 GATEWAY Campusに隣接するStudio2からは、産学を超えたコラボレーションが生まれるのではないかと期待しています。あらかじめ実験機器を備えたシェア型のLabも計画しており、社会実装までに時間を要するディープテック系スタートアップの皆様を長期目線で支援していきます。Studio1は各種セミナーやプレゼン、ワークショップ、イベントに対応するスペースを備え、Studio3は会員企業の先進的なサービスを相互に体験できる実証実験エリアを有します。なお、これらすべてのStudio、Labにおいては、弁護士、弁理士、税理士などの専門家の支援を受けることができます。

失敗を許容し、挑戦できる空気感がある

──この環境なら、いろいろなイノベーションが生まれてきそうです。

島川:この街は、人・フィールド・ファイナンスという多様な面からイノベーションを生み出し、育て、社会実装までをサポートする場にしたいと考えています。多くのアカデミアや企業の方々が集いますし、街全体が実験場となるので、取得したデータにより実験の検証が可能です。さらにJR東日本のネットワークを活用することで、日本各地・世界中へと広げることが可能です。
五十嵐:私は東京大学の産学協創推進本部という所でも仕事をしているんですが、そこで感じるのはまだ形にならない、ふつふつと湧き上がる「知」が日本にはたくさんあるということです。それを形にする仕組みがないために世界に後れを取りがち、というのが日本の現状ではないかと思います。今のお話にあった人・フィールド・ファイナンス、それらを踏まえたサポート体制がないと、その「知」は現実になりません。その点でTAKANAWA GATEWAY CITYの仕組みはとても重要だと思います。
もうひとつは、先ほど話したように「失敗が許される空気感」をつくること。特に若い方々は受験などを経て「失敗しないように」という空気感の中で生きてきたと感じます。でもこの街には、失敗を恐れず挑戦できる空気感がある。それが最終的にはイノベーションやスタートアップを育てることにつながるのではないかと思います。

──では最後に、このプロジェクトに注目している企業や団体の方々にメッセージをお願いします。

島川:東京大学様との100年間の産学協創協定をはじめ、私たち自身もこのまちづくりを通して数多くのパートナーをお迎えしながら、大きな変革を迎えています。これまでの100年は鉄道サービスを中心に営んできましたが、次の100年は世界中の社会課題解決に取り組み、TAKANAWA GATEWAY CITYから「地球益」に貢献していきたいと考えています。都心でこの規模のグリーンフィールドのまちづくりは例のない事業ではないかと思います。この街を実験場とするユニークな取り組みに、より多くの皆様にご参画いただきたいと思っています。
そしてまた、鉄道会社は基本的に失敗が許されないと思われていますが、そんな私たちだからこそ、五十嵐先生もおっしゃってくださった「この街は失敗を許容し、挑戦を応援する場所」というメッセージを強く発していきたいと思います。
五十嵐:いつもワクワクとか、ウキウキした感じがある街にしたいと思っています。「何かに挑戦したい」人を応援できる場であり、「LiSH」などの施設もその考え方から生まれました。東京大学をはじめとする多くの「知」が集まれば、いろいろなことが実現できるはずです。ワクワクしながら実際に何かを動かして、その結果もみんなでワイワイとディスカッションする。そのような活動ができる場所になると思います。ぜひ皆さん、この街に集まってください!

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