心の中に住み着いた「将棋君」が暴れだす その41

 元奨励会員の筒美が、将棋指しになれなかった自分の人生を振り返り思い出すことを書いています。
※ 最初から読みたい方は、心の中に住み着いた「将棋君」が暴れだすから読むことをおすすめします。 
※ ひとつ前の話→心の中に住み着いた「将棋君」が暴れだす その40

 市進学院での研修
 結果的に見ると、将棋ジャーナル社の次の経営者がどういう人になるか様子を見てから辞めるか続けるか決める方法もあったかもしれない。
 次の経営者は将棋好きのポルノ小説家団鬼六さんだったので、もし将棋ジャーナルの仕事を続けていたら、いろいろと面白い経験ができたかもしれないのだが、ただし、団鬼六さんが社長になっても経営状態は回復しなかったので、辞めて正解だったような気もする。
 なんとも言えないところで、これこそ価値観の問題である。
 新聞、求人誌の求人広告を見てよさそうだと思った学習塾2社を受けて両方受かった。1社は市進学院という小中学生向きの学習塾で、もう1社はY学院というこれも小中学生向きの学習塾だった。
 市進学院の方が大手で給料がよかったので市進学院の方にした。
 なかなかシステムがしっかりしていて、大手の中でも非常に面倒見がいい塾として知られていた。社員・講師の研修に力を入れていて、自分は専任講師という立場だったが、研修期間が4か月くらいあった。
 最初の2か月は研修開発センターというところで行われ、講師として採用された人が集まり、正社員の指導によって研修をした。
 研修内容は概ね模擬授業中心で、それ以外に基本的な講義・訓練が少々という構成だった。
 模擬授業というのは、一人が講師役で前に出て授業を行い、それ以外は生徒役で講師から発問されるとわざと間違いを答えるなど生徒が言いそうなことを言う。それに対し講師役が対処し、生徒役がその対処に対して生徒にありがちな反応をする。といったやりとりを繰り返し、最後に「あそこは、こう言えばよかった」「あそこの対応はまずかった。こうした方がよかった」等々みんなでいろいろと反省点などを述べ合う。
 この模擬授業に関しては、「実際の授業はあんなふうではない。どうもやらせみたいだ」「でも、教壇に立って生徒とやりとりをする練習にはなる」「意外と正社員の人が生徒役として言っていることは実際の生徒の反応に近いから、勉強になる」「あんな不自然なことをやらされて、どうも気分が悪い」等々、研修を受けた講師の間では賛否両論だった。
 自分は、それなりに役に立ったのではないかと思う。
 基本的な講義・訓練は、クラスの種類などの市進のシステムに関することと板書の仕方とかチョークの使い方などの授業に関することだった。
 板書の仕方では、「アルファベットのa~zまでを○○秒以内に書く」というのを数人ずつ前に出てやってみる、などの実技もやらされた。
 チョークの使い方では、例えば「黄色は大切なところにアンダーラインを引く時に使うことが多い」とかそういった「どういう時に何色を使うか」ということなどについて説明があった。
 わりあい基礎からきちんと教えてくれて、かなり勉強になった。
 大学の教職の授業とか、後に教員になって受けた初任者研修とは一味違う、基本的かつ実戦的な内容だった。
 後半の2か月は、配属された校舎で行われ、他の講師の授業の参観が中心だった。
 教室側で「この日はこの先生の授業を見に行きなさい」というスケジュール表を作ってくれて、その先生の授業を見に行く。授業が終わると、その先生とミーティングがあって、「こんな狙いで授業をしている」「今日やったところは難しいので、次回も同じところを反復練習させる予定である」等々、いろいろとその授業について解説してくれる。
 授業を見ていると、いろいろなタイプの個性的な先生がいて、面白かったし勉強になった。

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