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下森さん

僕が錦栄温泉に初めて入ったのは2018年の2月のことだ。実家の近所にあるにも関わらず、一度も入ったことがなかった温泉だった。別府八湯温泉道は普段行かない温泉に行くきっかけを作るという意味でもとても良い取り組みだと思う。地元住民は自分の家から近い限られた温泉以外にはほとんど行かないから。

初めて行った錦栄温泉に先に入っていたのがしゅん君だった。その場でモデルをやらないかと声をかけ、最初は渋々了承してくれたが、インスタでメッセージをやりとりするうちに次第に前のめりになってくれて、とても良い作品が撮影出来た。しゅん君、改めてありがとう。

実は錦栄温泉で撮影する際、許可を取る前に「今度ここで撮影します」とフライングで宣伝してしまい、錦栄温泉を管理する下森さんに電話で怒られるということがあった。それもそのはずで、会ったこともないカメラマンが自分が管理している温泉で勝手に撮影すると人づてに聞いていい気がするわけがない。「君がやりたいことはよく分からない」ときつくお叱りを受けた。

どうしてもしゅん君を撮影したかった僕はとにかく一度話しを聞いて欲しいと電話口で伝え、別府に帰っている時に挨拶に伺った。少し強面の下森さんに内心びびりながら、想いを語った。

下森さんは実はしゅん君も子供の頃からよく知っているし、僕と共通の知り合いも多かった。これが別府出身の良い所でもあり、恐い所でもある。最終的には「これを教訓に頑張りなさい」と協議にかけて下さり、今回無事に撮影することが出来た。

それから数ヶ月、しゅん君の撮影を何日後かに控えた夜。地元の同級生の店で飲んでいると下森さんから「こんばんは」とfacebookでメッセージが来た。珍しいなと思いながら酔っ払っていた僕は「ばんはー」と軽いノリで返した。「気付けよ」と隣の席で飲んでいたスーツ姿の方が声をかけて来た。下森さんだ。全く気付かなくてごめんなさい。この場を借りてお詫びします。

最終的にはサイトに写真掲載もOKしてくれた下森さん。本当にありがとうございました。 こういう出逢いが生まれるのも地元の人を撮影するからこその醍醐味で、会話することで縁が繋がるというこの作品らしい出逢いだった。

2018.12.2 東京神父
錦栄温泉「衣錦之栄」

東京神父 写真家。1978年4月20日生まれ。 別府出身、自由が丘在住。