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『「八月対談録」制作記録』意味をこえる身体へ のきろく#4

こんにちは。『意味をこえる身体へ』ショットムービープログラム代表の蔣雯(ジャン ウェン)です。
制作チーム全員が新型コロナウイルスの流行に負けずに努力したお陰で、このプログラムで制作している「ショットムービー」の第一弾として、『八月対談録』が公開されました。
この記事では、その制作プロセスと感想をみなさんと共有したいと思います。

「八月対談録」の本編は、Youtubeで公開しています。ぜひご視聴ください。

八月対談録について

ショットムービープログラムは2020年から始まりましたが、新型コロナウイルス感染症の流行のせいで一年ぐらい対面撮影が出来ませんでした。その期間に「役作り」を趣旨に遠隔で作られた映像作品が「八月対談録」です。

「八月対談録」のストーリーのベースは、国際結婚を迎える中国人女性(リサ)と日本人男性(ヤン)、そして二人にまつわる友人関係からなっています。
最初に決まっていたのは、登場人物の職業と社会関係だけです。そのベースの上に、俳優の身体性に基づいて、制作組と俳優組が共同作業でキャラクターとストーリーを作っていきます。
俳優組の仕事は、俳優同士によるオンラインでの対話、制作組のインタビューに答えること、対面で撮影することです。オンラインでの対話を通じて、プロフィールや人間関係に厚みを出すことを目指します。その上で、十分に関係性が発展した段階で対面での撮影を行います。制作組の仕事は、プロットを作ること、セリフを書くこと、演出、その他制作に関する作業全般です。

役作りは以下の三つの方法を用いて同時に進行しました。
① プロットに基づいて行われたキャラクター同士のオンラインでの接触
② 俳優の自撮りによって記録されたキャラクターの日常生活
③ Twitterを通して作られたキャラクターのメタバース(キャラクターが生活している虚構の宇宙)

脱中心化の制作法

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「八月対談録」より、アキラ(左)と恵(右)

「八月対談録」はショットムービーの主旨(※)に従って、監督と脚本がない「脱中心化」の制作法で進行しました。
(※ショットムービーについては、こちらの記事で説明しています)

この制作法を、キャラクター同士のオンラインでの接触を例に挙げて説明します。
制作組はあらかじめプロットを作りますが、それを俳優に押し付けることは出来ないです。つまり、プロットは一つのシチュエーションとして提供され、物語の生成を誘発することはできますが、俳優がどう反応するかはひたすら俳優自らの身体の選択を待つことしかできません。
他方で俳優は、事前にキャラクターのイメージを構想したとしても実際に他者として向き合うと、全く違う方向で役を作ることもできます。

このように、俳優は外部に与えられた意味から解放され、身体性を重視する創作法で役を作り、物語の自動生成を促しました。制作組はキャラクターの身体性を引き出すためにプロットを作り、そして身体から生成された物語を編集することを通して物語の展開に作用しました。

「八月対談録」の制作で私が気づいたこと

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「八月対談録」より、リサ

「八月対談録」の制作で意味をこえる身体にアプローチする演技、演出法について、いくつか気づいたことがあります。

① 対談するときに、俳優の姿勢が変わると、話の内容と話すニュアンスが変わります。
② 受け身の俳優のほうが、「この人」性が現れやすいです。
③ 俳優が自己表現しようとする時に身体より意味が先行するようになります。逆に相手役の反応に応じて行動する時はその人の身体性が現れます。
④ キャラクターのオンライン接触とTwitterでのメタバースは虚構ですが、現実と同じように他者と接する時に初めて「自己性」を発見するようになります。
⑤ 自撮りとTwitterでメタバースを作ることで、キャラクターの厚みが出てきます。そして、物語が誰も予想できない方向へ発展していきます。
⑥ zoomは意味伝達のために使われることが多いですが、機械の目を持っている意味では時間と身体を記録することもできます。

以上の内容はあくまでこの作品を作ったときの、私の個人的な感想で、決して普遍性を持っているわけではないです。

現在、「意味をこえる身体へ」ショットムービープログラムの対面撮影が始まっていますが、「八月対談録」で生成されたキャラクター、人物関係、物語を受け継いで、そして「八月対談録」で経験した演技と演出法を参考しながら撮影を行っています。

執筆者:蔣雯 俳優/映像作家 東京藝術大学大学院映像研究科博士課程在籍 「意味をこえる身体へ」ショットムービープログラム代表

カバー画像:「八月対談録」より、ヤン

『意味をこえる身体へ』は、アートプロジェクト『東京で(国)境をこえる』のメインプログラム、『kyodo 20_30』から派生した企画です。
2020年度の『kyodo 20_30』の活動の中で、参加者が共同制作のプランを考えたときに発案されました。2020年度は新型コロナウイルスの感染拡大により実現できなかったので、今年度の『kyodo 20_30』でフリンジプログラムとして実施しています。
noteでは、その活動の記録を企画参加者が執筆していきます。
この企画のコンセプトを説明している#1はこちら

この活動に興味を持った方がいたら、ぜひ『kyodo 20_30』に見学にきてください。詳しくはこの記事で紹介しています。👇