出産祝いに産褥ヘルプを。吉岡マコさんが伝え続ける”すべての家族に産後ケア”−前編−
今回は、2020年2月15日に大崎のカフェで開催された「とうきょうミライゼミ#3」のイベントレポートです。イベントでは認定NPO法人マドレボニータ代表の吉岡マコさんに、「産後ケア」についてお話しいただき、後半はワークショップを実施。妊婦さんやお子さん連れ、父親、独身の男性など、12名の方が参加してくださいました。
「お母さん」「ママ」と呼ばない
まずは言葉遣いのこだわりについて。私たちは、子どもを持つ女性のことを「お母さん」「ママ」と呼ばないと決めています。「お母さん」「ママ」という言葉はただの属性で、その人自身を表すものではないですから。教室でも私たちは必ず皆さんを名前で呼びます。
子どもをもつ女性のパートナーのことも無意識に「旦那さん」と呼びがちですが、そうじゃないこともありますよね。パートナーが女性かもしれないし、パートナーがいないかもしれない。だから私たちはまずパートナーの有無を確認して、「パートナー」という言葉を使います。
主従関係を暗示させる「旦那さん」「ご主人」という呼称には気をつけています。「主人」に続く言葉は卑屈になりやすかったり、「旦那」に続く言葉はやさぐれた感じになりやすくなるんです。フラットな関係を目指すなら、「夫」「妻」「パートナー」という呼称を使いませんかと呼びかけています。
産後から世界を変える
私が産後ケアに注力するのは、産後が大変だから弱っている人を守ろうといった意図からではありません。産後はものすごいパワーを持っているんです。人生の大きなターニングポイントであり、この時期にきちんと自分の心身やパートナーと向き合うことがいい結果につながる。そうした想いから「すべての家族に産後ケア」というキャッチフレーズで活動しています。
マドレボニータには、「産後ケアバトン」という制度があります。産後ケアバトン制度とは、産後ケアの教室になかなか自力で来られない方のために、受講料補助や介助ボランティアをつけて受講をサポートをする制度です。障がいを持つ子ども、低体重で生まれた子ども、双子や三つ子がいると子どものケアが大変で、自分の産後ケアどころじゃない母親がたくさんいます。そのような人にこそ産後ケアして欲しい。財源は個人や企業からの寄付で成り立っています。
産後ケアバトン制度ができてからは、障がいを持つ子どもや双子の母親の参加者が増えました。サポートしてくれる人が一人いるだけで、外出できるようになるんです。父親のサポートが必要なのはもちろんですが、血縁の家族以外でも多くの人が関わってみんなで助け合いながら子育てしていけたらいいですよね。頼るのが難しい時期だからこそ、頼りやすい環境づくりや進んでサポートする気持ちがが大事です。
受講料の補助やボランティアへの薄謝など、産後ケアバトン制度の運営にはそれなりの費用がかかるのですが、東京マラソン2020チャリティでチャリティ団体枠に選ばれ、その寄付金を産後ケアバトン制度の運営に当てる予定です。産後や子育ては母親だけの問題ではなく、みんなでいかに支えていくか。子育ては素晴らしい経験。チャンスがあるのに男性だからと言って経験しないなんてもったいないと思います。そういう意味も込めての、「すべての家族に産後ケア」というキャッチフレーズなんです。
「MadreBonita」=スペイン語で「美しい母」
Madreはお母さん、Bonitaは美しいという意味があります。スペイン語の「MadreBonita」の響きが質実剛健でいいなと思って団体名にしました。私が22年前に母親になったときはみんな同じようなファッションをしたり知らない人にママと呼ばれたりして、なんとなく甘ったるい雰囲気があって。子どもを産んでも一人の女性であることに変わりはないので、強い響きを持つこの言葉を選びました。
メインの活動は産後ケア教室で、産後の体力を回復させるエクササイズとメンタルのケアをしています。普通のエクササイズではなく、左右の骨盤の位置などを意識した産後に適したエクササイズを開発して提供しています。
体力だけでなく、メンタルにも働きかけています。体力が回複すると、人と関わりたくなったり自分を表現したくなります。人と向き合うエネルギーが湧いてくるんです。マドレボニータの教室では、最初に有酸素運動をした後に、自分の言葉で話をするワークを行います。運動と対話がセットになっていることが特徴です。
10年ほど前から男性も参加できる「カップルクラス」も実施しています。夫婦での参加も増えてきました。エクササイズのあとに夫婦で互いに話を聴き合うワークもいつも想像以上に盛り上がります。あります。全国70箇所で定期開催していて、これまで67,000人が参加しました。
どの教室でも同じクオリティの同じプログラムを提供できるよう、インストラクターを養成・認定する事業もしています。全国の認定インストラクターは30名、年1回は集まって一泊二日の合宿を行い、月に1度はオンラインでつなげて集まる報告会を実施して、産後のプロフェッショナルとして切磋琢磨しています。
私が25歳で初めて出産したときは、出産や産後について何も知りませんでした。お腹が引っ込めば楽になるだろうとたかをくくっていたのですが、いざ産んでみたら、ボロボロになってびっくり。うまく歩けなかったりめまいがしたりして。「みんなどうしてるんだろう?このままでいいわけないよね」と思ったのが、マドレボニータを立ち上げたきっかけでした。
「産後で世界を変える」ワークショップとは
運動と対話による120分の教室×4回で1クールです。対話のワークでは子どもが生まれると大きく変わる、人生、仕事、パートナーシップについて話してもらいます。主語は、「赤ちゃん」ではなく「自分」。誰かが聞いてくれて自分の言葉で話すことで、自分の気持ちが整理されていくんです。
4回の教室の中で、参加者の考えもどんどん変わっていきます。はじめは「子どもが可愛すぎて仕事なんてやめる」という方もいます。でもその言葉は本心ではないことが多く、その背後には「不安」があるんじゃないでしょうか?「子どもと仕事の両立なんでできるだろうか?」「パートナーと協力体制を築けるのだろうか」という不安や、産後で体が弱っていて、体力的な不安もある。
そんなときに教室に通って、エクササイズで体力が回復してくると「やれるかもしれない」と思えるようになる。体が元気になると、人と対話する気力が戻り、パートナーとの関係も良好になる。クラスのあとにみんなでランチに行ったりすると、いろんな人の体験談が聞けて励みになることも多いようです。
「MadreBonita」事業のスタート
自分が産後を迎えていろいろ調べたんですが、行政でも民間でも見つけられませんでした。本屋さんに行くと「産後」のコーナーがなくて。「出産」の後はすぐ「子育て」なんです。海外の書籍ならあるかもしれないと思って探したら、洋書は2冊くらいありましたが。
出産のあとに母親が元気にならないと、子どもに笑顔で接することができないですよね。だから子どものためにも、母親が心身を回復させるためのサービスがないといけない。自分が母親になって初めて気づきました。
産後ケアがあるのとないのとでは、世界が異なります。これは母親だけではなく、夫婦で足並み揃えて取り組むべきことです。