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②「ミスター・スポック」と「モロボシ・ダン」

最長寿キャラクター

「ビッグストーリー」の最長のものは『ゴジラ』(『キングコング』はまだ規定を満たしていない)である。

 一方、「キャラエイジング」の最長のものは『スター・トレック』シリーズに出てくるバルカン人ミスター・スポック(レナード・ニモイが47年間演じた)だとばかり思っていた。

 しかし、よく調べてみると、それを上回るキャラクターが日本にいた。『ウルトラセブン』が地球人に変身した姿、モロボシ・ダン(森次晃嗣が50年間演じた)である。

 演じる役者(レナード・ニモイは2015年に亡くなった)はともかく、SFシリーズという性格上、普通の人間よりはるかに長生きできる設定も、大きく影響しているようだ。

『宇宙大作戦』(スター・トレックの最初のテレビシリーズ)も、「ウルトラシリーズ」の第1作『ウルトラマン』(あるいは『ウルトラQ』)も、放映開始は1966年だから、例えば「カーク船長」(28年間)や「ハヤタ隊員」(46年間)も相当なキャラクター歴を誇っているが、ここでは現時点で上回っているスポックとダンを代表として論じることにする。(蛇足ながら、仮面ライダー1号「本郷猛」45年間演じられている)

「ロッキーと金田一」の項に倣っていえば、ミスター・スポックは「複製可能」キャラクターに(結果として)なった。対するモロボシ・ダンは現在までのところ「複製不可」キャラクターだ。

「原点性」という意味では、どちらもシリーズ全体の「原点」の一つになっている。例えば『スター・トレック』においては「艦長(船長)」という中心人物以外に、特殊な性質(スポックの場合はバルカン人と地球人のハーフ)を備えた象徴的なキャラクターが必ず配置される。つまり、人物配置そのものが「複数原点性」を持っているのだ。

『ウルトラセブン』の場合、当初は「単数原点」だったはずだ。しかし、後に「ウルトラ兄弟」という、現在の「○○ユニバース」に近いコンセプトが登場してからは「ウルトラマン」と「ウルトラセブン」が「複数原点」になったと考えられる。特に顕著なのは以後のウルトラマンの“デザイン”で、基本的にはマン寄りかセブン寄りの2種類しかない。

 では、それぞれのキャラクター歴を見ていこう。

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〔ミスター・スポック〕

・1966年『宇宙大作戦』
 オリジナルテレビシリーズが放映開始。だが、わずか3シーズンしかつづかなかった。

・1973年『まんが宇宙大作戦』
 オリジナルキャストが声優を務めたアニメシリーズ(1シーズン)。

・1979年『スター・トレック』(劇場版)
 テレビシリーズの続編として企画されたものが、『スター・ウォーズ』にはじまるSF映画ブームの影響もあって映画シリーズとなった。以後、オリジナルキャストが出演するシリーズは「6」まで製作される。スポックを演じたレナード・ニモイはそのうちの2本を監督し、特に「4」は大ヒット作になった。

・1991年『新スター・トレック』「潜入!ロミュラン帝国(後編)」
 1987年からキャストを入れ替え、時代設定を変えたテレビ版の新シリーズが開始。スポックはその第5シーズン・通算第108話に登場する。はるかに時代を越えて再登場できたのは、まさにSFシリーズならではだ。

・1991年『スター・トレック6』
 オリジナルキャストによる映画版最終作。シリーズは次作から『新スター・トレック』のキャストが中心になる。面白いことに『新スター・トレック』の「副長」ライカー役のジョナサン・フレイクスも2本の監督を務め、そのうちの1本が大ヒットしている。

・2009年『スター・トレック』(リブート版)
 新しいテレビシリーズの流れが2005年の『エンタープライズ』第4シーズン終了とともに途絶えたあと、J・J・エイブラムズ監督によって映画版が「リブート」される。そこではザカリー・クイント演じる「2代目」スポックが登場するが、面白いことに別の「時間軸」に存在するスポック(「スポック・プライム」とも呼ばれ、レナード・ニモイが演じている)と対面するシーンが描かれる。

・2013年『スター・トレック/イントゥ・ダークネス』
・(2016年『スター・トレック BEYOND』)
 リブート版2作目にもスポック・プライムは登場するが、2015年にレナード・ニモイが亡くなると、3作目ではスポック・プライムも「死去」した設定になった。この作品は『スター・トレック』シリーズ50周年でもあっただけに非常に残念だった。

・(2019年『スター・トレック:ディスカバリー』シーズン2)
 リブート版4作目の製作が中断したあと、Netflixで新たなテレビシリーズ『ディスカバリー』が配信を開始。その第2シーズンではオリジナルシリーズ以前の物語が描かれ、イーサン・ペック演じる「3代目」スポックが登場。これによって「ミスター・スポック」という役柄は完全に「複製可能」キャラクターになった。レナード・ニモイが演じた記録は47年間だが、スポックというキャラクターの寿命は53年目を迎えているわけだ。

〔モロボシ・ダン〕

・1967年『ウルトラセブン』
 前年の『ウルトラQ』『ウルトラマン』に引き続き、円谷プロ製作のウルトラシリーズ第3作として全49話が放映された。以後、1971年の『帰ってきたウルトラマン』のゲスト出演を皮切りに「ウルトラ兄弟」のコンセプトの下でさまざまなシリーズに登場する。

・1974年『ウルトラマンレオ』第1~40話
 第2期ウルトラシリーズの最終作では、怪獣と戦う組織MACの隊長としてモロボシ・ダンが復帰。ただし、本来の主人公は「レオ」であるため、「セブン」に変身することができなくなる設定だった。

・(1994年『ウルトラセブン 太陽エネルギー作戦』)
「平成」に入り、「平成ウルトラセブン」と呼ばれるシリーズが断続的にはじまったが、ここではまだモロボシ・ダンの姿は現れていない。

・1994年『ウルトラセブン 地球星人の大地』
・1998年『ウルトラセブン 誕生30周年記念3部作』
・1999年『ウルトラセブン 1999最終章6部作』
・(2002年『ウルトラセブン 誕生35周年“EVOLUTION”5部作』)
 やがて「平成ウルトラセブン」にもモロボシ・ダンが登場するが、あくまで脇役で、基本的にウルトラセブンに変身するのはウルトラ警備隊の新人隊員カザモリ・マサキである。

・2006年『ウルトラマンメビウス&ウルトラ兄弟』

・2007年『ULTRASEVEN X』最終話
『ウルトラセブン』40周年記念作品だが、世界観は異なる。モロボシ・ダンは最終話にのみ登場する。

・2008年『大決戦!超ウルトラ8兄弟』

・2009年『大怪獣バトル ウルトラ銀河伝説 THE MOVIE』
 この映画でウルトラセブンの「実子」と設定された「ウルトラマンゼロ」が初登場。

・2010年『ウルトラマンゼロ THE MOVIE 超決戦!ベリアル銀河帝国』

・2012年『ウルトラマンサーガ』
 ウルトラマン、ウルトラマンジャック、ウルトラマンA、ウルトラマンレオの変身前のキャラクターたちとともに登場する。

・2017年『劇場版ウルトラマンオーブ 絆の力、おかりします!』
 さらにモロボシ・ダンのみ、この作品にも登場。こちらは演者存命のまま無事に放送50週年を迎えることができた。

Netflixが語り継ぐ

 こうして見てきたように「ミスター・スポック」はレナード・ニモイが死去する以前から「複製可能」キャラクター化が進んでいた。それに対して「モロボシ・ダン」は現時点に至るまで「複製不可」キャラクターを維持している──といいたいところなのだが、それを揺るがす事態が起きている。

 すでに述べたようにNetflix のテレビシリーズには「3代目」スポックが登場しているが、さらに2019年4月には『ULTRAMAN』というマンガ原作のアニメシリーズが一挙配信された。

 主役ではないが、そこに登場してくるのが「諸星弾」なのだ。今のところこのキャラを「2代目」モロボシ・ダンといい切っていいのかどうかわからない。実写シリーズで森次晃嗣がモロボシ・ダン役を継続していく可能性も残っているからだ。

 また『ULTRAMAN』では「諸星弾」の上司が「富士明子」で、これは1966年の実写版『ウルトラマン』のフジアキコ隊員のことだ。しかもその声優を桜井浩子が担当して(実写からアニメというイレギュラーなパターンながら)同一のキャラクターを53年間演じる偉業を達成しているから話がややこしい。

 これらの理由から現時点では判断は保留したい。だが、SF作品である強みを最大限に生かして、今後アニメと実写の2つのキャラが、「時空」のみならず「次元」まで越えてつながっていくような、「スポック・プライム」を上回る発想が生まれてくる期待は大いにあるだろう。

 それにしても、「3代目」スポックとアニメ版「諸星弾」が、どちらもNetflix というプラットフォームの上で語り継がれているのは面白い。これこそが「平成」最後の1ヶ月における「キャラエイジング」を巡る状況なのである。

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