たくさんの人と出会うための方法。サインネームを考えよう!【ジムジム会2022 #04レポート】
■アートプロジェクトの現場で明日から使えるアクセシビリティチップス
「めとてラボ」は、「目(め)」と「手(て)」で生まれる文化をテーマに、ろう者やCODA(コーダ)が中心となり、様々な身体性や感覚を持つ人が集い、活動していく創造拠点をつくることを目指すチーム。今年は国内外のろうコミュニティやデフスペースなど、さまざまな「場」のあり方をリサーチしています。ジムジム会の配信拠点STUDIO302からは、メンバーの和田夏実さんと岩泉穂さんが参加。「めとてラボ」の活動紹介のあと、和田さんからアートプロジェクトの現場で「明日から使える」アクセシビリティのチップス(ヒント)が紹介されました。
「たとえば展覧会では、作品を伝えるための音声ガイドやキャプション(解説文)があり、また鑑賞ツアーが組まれていたりします。そのうえで、さらに手話通訳やキャプションの音声読み上げ、ガイド内容の文字化、筆談などが追加されていくことで、より開かれた出会いが生まれていくのではないか、と思っています」と和田さんは話します。
情報保障とはただの環境整備ではなく、「ひらかれた出会いの場」をつくることです。ですがそれを実行するには、「専門的な知識が必要だったり、お金がかかったりするのでは?」と思う方もいるかもしれません。そこで、和田さんからは、身近なツールや無料のアプリケーションを使って、気軽に取り組めるものが紹介されました。
まず音声や動画による情報発信ですが、現在実験的に取り組まれているものとして、音楽ストリーミングサービスの「Spotify」では、ポッドキャストを公開すると自動で文字が起こされます。また「TikTok」も自動字幕機能が充実しています。実は、こうした身近なアプリケーションも、飛躍的に技術改革が進んでいるのです。インタビューの文字起こしには「vrew」という動画の字幕編集アプリもおすすめ。自動字幕という点ではYouTubeの編集アプリ「YouTube Studio」も使いやすく、自動で文字に起こされた字幕を編集することができます。
また、チラシなど紙媒体の場合は、PDFデータがあると音声読み上げ機能を使用できるため、ウェブサイトにPDFデータをアップロードすることが推奨されました。チラシに書かれた内容を自分たちで読み上げ、ウェブでシェアするという、楽しみながらできるアイデアもあります。そのほか、オノマトペの視覚化や舞台手話通訳など、アクセシビリティの新しい取り組みも紹介されました。
「アクセシビリティは『伝えあうことの発明』だと思います」と和田さん。「伝え手が何を伝えたいか、受け手は何を感じ、理解したか。『伝わる』『わかる』というところまで一緒に開拓していく過程はクリエイティブでもあります」と話します。
■自分たちのサインネームを考えよう!
後半は各事業がそれぞれの「サインネーム」をつくり、発表するワークショップに移ります。サインネームとは、その人の特徴を手や体の動き、形であらわし、視覚的に伝えるもの。手や指で表現するあだ名のようなものです。たとえば名前に含まれる漢字や、外見の特徴を使って表すこともあります。
2022年のジムジム会では、めとてラボチームの主な使用言語が手話ということもあり、手話通訳者が並走しています。事業について手話で話す機会が増えた中で、自分たちの事業をどう表すのか気になっている、という話があがり、改めてみんなで自分たちの事業を表す方法を考え、伝わりやすい表現について考えてみることにしました。
サインネームについて考えるプロセスとしては
という流れで進めました。
例えば、「Zoom」などの新しい固有名詞がうまれていく際、会話の中でさまざまな手話表現の工夫が現れ、その中からシンプルでわかりやすく、伝わりやすい表現が自然に残っていく流れがあるそうです。その自然淘汰の流れを簡易的に体験するために、A案とB案を用意し、みんなで選んでいくという方法を試してみることになりました。
今回参加した6チームは、自分たちの事業名をサインネームで表すとどうなるかを、各自が事前に考えてきました。そのアイデアを各チーム内で話しあい、A案とB案の2つにしぼり、全員の前で発表します。その発表を聞いて、分かりやすいと思った案、いいなと思った案に参加者が人気投票をした後、それぞれの案についてめとてラボのメンバーの南雲麻衣さん、牧原依里さんからコメントをもらいました。
たとえば府中市で活動する「Artist Collective Fuchu[ACF]」はA案では「アーティスト」「コレクティブ」「フチュウ」の3つの単語をそれぞれ表現。「フチュウ」の部分は「府中市」の手話を検索し、使用しました。B案では、「A」「C」「F」の文字を組み合わせた事業のロゴマークをもとに、ロゴの中心に書かれた「A」を示す2本の線と、「C」「F」の文字の形を組み合わせて両手で表しました。
獲得票が多かったのはB案。めとてラボの南雲さんもB案に票をいれたと言います。「B案はロゴマークと似ているのでわかりやすいと思いました。ただ片手側が親指と人差し指で『C』を表していますが、残りの3本の指が『W』に見える。これが手話だと『トイレ(WC)』という意味になってしまうんです。なので『W』と見えないように3本の指は閉じるのはどうでしょうか」とアドバイスします。
また牧原さんも「サインネームは短いほうがいいのでB案のほうがいいと思います」と前置きし、「たとえば、右手で『C』をつくり、そのなかに左手で『A』の動きをいれ、ロゴをそのまま表現するのはどうでしょう」とコメントしました。
■手で伝える言葉と、音で伝える言葉
そのほか“ターン”の動きで迷った「HAPPY TURN/神津島」、片手での表現が好評だった「ファンタジア!ファンタジア!-生き方がかたちになったまち-」、ロゴにある線の動きを使った「多摩の未来の地勢図 Cleaving Art Meeting」、事業パンフレットのデザインのイメージも取り入れた「ACKT(アクト/アートセンタークニタチ)」、“災”のニュアンスに悩んだ「カロクリサイクル」など、各チームともロゴや音の響き、単語の意味そのものをサインネームで表し、さまざまな表現が生み出されました。どの事業も、自分たちの活動を端的に表したり、イメージを伝えたりするためにはどうしたらいいか、をまた違う視点で考えるきっかけになったようです。こうしてワークショップは終了。アフタートークでは、めとてラボのメンバーが振り返りをしました。
和田さんは「体で覚えやすく、身に付きやすいものが選ばれたのが良かったですね」とコメント。「手話には、体に馴染みやすいルールのようなものがあるのかもしれません。それがちょっとずれると、違和感を感じるのかなと思いました」と岩泉さん。
牧原さんは、「手話は、世界共通と思われることもありますが、『文化や地域性、食事、生活、いろいろなものが影響して生まれているもの』で、国はもちろん国内でも地域によって異なることもある」と話します。それだけに日本語に翻訳しきれない言葉もあるそうです。その一方で、「手話は視覚言語の一種なのですが、互いにその国の手話を知らなくても、その動きを見れば、概念が通じることが多い。そこが面白いんです。たとえば『歩く』の手話は、日本では片手の2本指で示します。アメリカ手話だと、両手の指を交互にパタパタさせる。フランスも少しアメリカ手話に似ています。いずれにしても、歩いている体の動きをとらえたものなのです。だから、手の動きは少し違うけれど、何を意味しているのかは想像がつくんですよね。手話は視覚の記憶に直接アクセスする言語なのだと思います」と話します。
参加者からは「手話を実際にやってみるのは初めてでしたが、プロジェクト名を表現することで楽しく触れることができました」「使っているうちに徐々に使いやすい形にサインが変わっていく、使いにくいものは淘汰されていくというのが面白いと思いました」「アクセシビリティは、受け手と伝え手とが一緒に考えていくことが大事で、それが面白さであるという視点を知れました。情報保障に限らず、日常のコミュニケーションにも通じる話で、普段のプロジェクト運営でも感じる『伝わらなさ』への解決に生かせる考えだなと思いました」などの感想があり、自身のプロジェクトの振り返りにもつながったようです。サインネームをはじめ、アクセシビリティから手話という言語の話題を取りあげつつ、自分たちの活動をより多くの人に伝えるための方法を幅広く学び、考える会となりました。