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第9話「水の惑星に住む宇宙人👽」

明日、とりあえず天気になぁれ!

東京の大学に通う学生ならではのブルースに、正面から向き合って行くこの連載。第9話は、水の惑星に住むちょっと変わった宇宙人に取材に行った時のお話。

この惑星はゲモニウム系の中で唯一蒼く輝く。表面の10分の9が水で覆われていて、さらにそのまわりを70%の窒素と30%の酸素からなる大気が覆っている。

そして、そこには80億もの宇宙人が暮らしている。特に若い世代の彼らは、自身の安全安心のために、集団で集まろうとする傾向が強い。それに加えて道徳的思考を持ち合わせ、協調性を大切にし、善意の活動が当然になる。また、1人ではできないことにチャレンジし、感動を分かち合うらしい。しかし客観的に考えれば、おかしい、と疑うことでも、特定の集団の中にいるとそれが普通で、疑問に思わないことも多々あるらしい。

そんな彼らの中にも、稀に不思議な考えを持っている者もいるようだ。気になってこの惑星について、本人に直接取材をした。彼曰く、「この惑星は、大きな海の水槽の様なものだ、皆が信じる空は海で、見上げる雲を泡なんだ。」と言った、明らかに変わり者である。そんな彼だが時折、生活の中でよく「息苦しい」、と感じる瞬間があるらしい。何故かと聞くと、「僕にとっての大気は水中であり、普段は深く沈み、溶け込み活動をしている。しかし、生物にとって呼吸は当然の摂理であり、それを怠ると死んでしまうんだ、わかるだろ。」と言った。我々には、わかるはずもない。しかし、周囲の同種が呼吸をしていないことに対して聞くと、「彼らは錯覚しているんだ、ここが水槽の中だと気づいていないだけだ。」と言う。また彼は、皮肉たっぷりの顔でこうも言った。「錯覚している奴らは、ほんと器用に生きているよな。俺なんて不器用にしか生きられないからさ、自分たちが元は一人だったなんてことは忘れちまったんだろうね。」そう捨てて、どこかえ消えてしまった。

そんな彼に対して周囲は、どう思っているのだろうか。彼をよく知る人たちに話を聞いた。「もはや見向きもしていないよ、あいつはもう知らない。勝手に自分が言いたい事を喚き散らかしているだけ、まるでガキだ、ガキ。」それに賛同する様に周囲の奴らによって大きな笑いが起こる。そんな中、その輪に混ざっていた、彼の唯一の友人はこう語る。「彼は本当に素敵だよ。本当に好きな事を周りの目も憚らずに、好きと言えて、間違った習慣には、なぜだ、と言える。僕もそんな風になれたらどれだけ楽かな。」「なんてね、僕まで嫌われちゃうから内緒でお願いね。」と彼は言い、その場を後にし、輪に戻って行った。

数分後、変わり者の子が戻ってきて、最後にこんな言葉を、僕らに残してくれた。「ひとりぼっちなのは自覚してるし、それは寂しさだって感じるさ。でも、こんな僕を好いてくれる人がひとりでもいるんだって考えたら、その人たちに恩返しがしたいんだよね。そしていつしかその人たちと一緒にもっと生きやすい世界を探す旅に出たいね。それまでは、せいぜいこの惑星の中でもがかせて貰うよ。」そう言って、また彼は深く潜っていった。

この宇宙人たちの心理は、私たち太陽系の地球人にとっては、まだまだ理解のできない話であった。

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