見出し画像

第6話「貝類には要注意⚠️」

できれば二日酔いは勘弁勘弁

東京の大学に通う学生ならではのブルースに、正面から向き合って行くこの連載。第6話は、貝類にまつわるエピソードである。

大学生の飲み会というのは極めて気の毒である。飲み始めの乾杯をした瞬間から、酔わせ合いが始まり、仕舞いには路上で吐いてしまう人とそれを憐れみの目で看病する人が瞬時に構成される、そんな光景が容易に起こり得る。そして、そのような飲み会の翌日は当然にも、二日酔いがやって来る。そんな時、僕は決まってアサリ・シジミ汁を飲む。朝12時に起床した体にはこれが一番効果的だ。体の血管の隅々までにそのエキスと温度が染み渡って、至福である。しかしそんな時間も束の間。昼の日差しに浸りながら食べ進めていると、当然、貝の身の部分に到達し、啜っていた汁も残りわずかなことに気付かされる。その汁に別れを告げ、身を口にする。そうして残りのアサリ・シジミ汁を啜るその瞬間、外では急な変化が起こっていた。深夜の東京の路上に広がる静寂が、一瞬で緊迫感に変わり、遠くから聞こえる異音が、彼の楽しい食事を中断させるのだった。奴である。砂だ。あれを口にした途端、口の中でジャリッという音が脳髄にまで響き渡り、同時に一瞬にして、なんて今日はついていないのだろう、そんな気持ちにさせられる。せっかく、二日酔いが回復仕切ろうとしていた身体と精神共々が、暗黒世界へと引きずりこまれる。そんな感覚が僕を誘う。憂鬱である。

なぜこんなことが起こってしまうのだろうか。回復のために飲んでいたはずの味噌汁が、一瞬にして僕の気持ちを奈落へと突き落とす。そんな事が一度や二度ならまだ許せる許容の範囲である。しかしだ、これが百発百中で当たってしまう。鎌倉で蛤を食べていた時もそう。一緒に来ていた人は「絶対に大丈夫だから、食べてみ」そう言いながら貝を口に頬張ると、不穏な顔ひとつせずに「美味しっ‼︎」と言う。それを見た僕も流石に今回は大丈夫か、と貝を頬張る。するとどうだろう。油断していた隙を狙っていたかの様に奴がまたジャリッという音を立て地獄へと誘う。運ゲーではないのか、なぜその音を立てられる。僕は前世で貝の密猟でもしたせいで、貝に呪われているのか。松本人志のすべらない話でも、笑ってあげられない様な話は時折出てくるのに、なぜこんなにもあったてしまう、なぜ一回も純粋に貝の味を楽しませてくれないのだ。

だから僕は決めた。砂に当たる確率ほぼ100%と、美味しい思いをすることを天秤にかけた結果。今後の人生で、あの思いを2度としたくはない、だから貝類のみは決して口にしないことを誓う。しかし条件付きで、エキスだけは楽しませて欲しい。そして、これ以上の二言はない。僕は決して貝が嫌いなのではない。しかし運ゲーなのにも関わらず、あいつのあの音が口の中で不協和音を唱える限り、僕は今後一切の貝を口にしないことをここに誓う。そうすればあの不貝(快)な思いともおさらばだ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?