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ずっと焦っていた。宗教を研究する彼女が、起業家の道を選んだ理由【Z世代の夢応援プロジェクト】

TOKYO<β>では、Z世代の夢応援プロジェクト第2弾として、NPO法人ETIC.の起業家・イノベーターを育成する私塾「MAKERS UNIVERSITY」と「MAKERS UNIVERSITY U-18」とコラボし「TOKYO<β>奨学金」を設立。塾生約70人を対象に総額400万円程度の奨学金を給付しています。

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今回は、8月下旬に開かれた審査会で見事、奨学生に選ばれた10名の中から、「MAKERS UNIVERSITY」に所属する大森美紀さんにお話を伺いました。

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何者になれるのか、悩み続けた7年間

修士1年の頃に大学院で出会ったメンバーと2022年から「nocnum(ノックナム)」という会社を経営しています。社名はベトナム語とタイ語の水を指す言葉が由来。
世界には未処理のまま垂れ流しになっている排水によって健康被害が耐えず、乳幼児もいのちを落としていくような地域が多くあります。私たちは適切な排水処理を維持しながら「水の価値連鎖(Water Value Chain)」を創出し、自然とひとが共生する社会をつくることで課題解決を目指しています。

自然の水をきれいにしたい

現在の排水処理は、自然の水を人間が使い、それを浄化し、きれいな水に戻してから自然に戻すというサイクル。私たちが特にこだわっているのは自然を含めて、環境全体で価値循環をさせていくこと。水問題と一口にいってもさまざまです。地球上の水の減少だけではなく、本来は使えるはずなのに、上水道の水処理では綺麗にならないほど汚染度が高く活用できなくなっている水も多く存在しています。だから私たちは、使った水をきれいにして自然に返す途切れない循環を作りだすことで、地球に存在する水をどんどんきれいにしていきたいのです。

日々、水質調査を行なっている

現在はその第一歩として、山間部や人口が少ない地域で採用されている分散型の排水処理施設の遠隔監視を可能にするセンサーで維持管理をDXし、適切なタイミング・頻度でのメンテナンスを可能にできないかと日々励んでいます。

焦燥感と劣等感に駆られていた

学部生時代は文化人類学という途上国開発に関わる分野を学んでいました。現在、大学院で研究しているのは途上国の宗教。研究は楽しく、評価もしていただきましたが、今すぐ社会に役立つものではなく、修士1年の頃まで将来進むべき道に悩んでいました。今でこそ水問題に取り組むことを決めた私ですが、思えば、将来のことを考えはじめた17歳から24歳まで、文系の自分、将来やりたいことがわからない自分、何も成し遂げられない自分に、焦りを感じ、劣等感を抱き続けていたようにも感じます。
研究をやめたとして、就職をするイメージもわかず、ぼんやりと見えた道が起業でした。しかし、文系の私にはものをつくる力はないので、仲間を探そうと大学のアントレプレナーシップの授業に参加することにしました。そこで出会ったのが、今一緒に働いている技術者の渡部です。

凸凹だから強くなれる

私たちは2人とも途上国開発に興味がありました。でも、彼は技術に自信があって社会に実装させたいけれど、ビジネスに不安がある。一方の私はビジネスのことは考えられるけど、技術力がない。お互いの長所と短所のようなものがマッチして、一緒にやることになったんです。
この凸凹の関係は事業を続ける理由にもなっています。お互いのできないことを補い合う強固な助け合いこそが、私の心の支えです。

誰かの役に立ちたい理由

事業について楽しそうに話してくれた

私にはずっと人の役に立ちたいという欲求があります。これには祖母の存在が大きく影響しています。私は祖父母と過ごす時間が長く、よく戦時中の話を聞かせてもらっていました。
祖母は比較的裕福な家庭に生まれ育ち、第二次世界大戦の真っ只中である小中学生のころでも、食べるものや着るものにもあまり困らなかったそうです。しかし、自分の周りの人たちの生活がどんどん苦しくなっていく様を見て、自分の服や本をできるだけきれいに使い、次の学年の人に渡していたのだとか。「自分が豊かである自覚があるならば、今あるものを大事に使って次の人に渡していく生き方をしなくてはいけない」この祖母の教えが、私の人の役に立ちたいという気持ちの根源だと思います。

自分を大切にすること、事業を推進すること

私は親戚も多く、両親も健在、祖父母にも可愛がられ、人間関係で悩むことや、経済的な理由で進学を諦めることもなく、正直すごく恵まれた人生を歩んできたと思っています。だからこそ、このままじゃダメだ、ただ自分ばっかり幸せを持ち続けていてはダメだという焦りを抱いてきました。
でも、自分がやるべきことを見つけた今、自分が満たされていると感じられるからこそ、人の役に立ちたいと思えるのだということにも気づきました。だから、私は自分の身を削って、寝る間も惜しんで、プライベートも犠牲にして、この事業に取り組むのではなく、自分を好きでいられるように。自分を大切にすることと、事業をしっかり進めていくことの両輪は外さずにいたいです。

水の価値連鎖を世界で実現するために

TOKYO<β>奨学金は、将来の東南アジア事業を鑑みて、私たちが今開発している技術がどのように役立つのか調査する視察資金に充てようと思っています。報告会では視察で分かったことをご報告する予定です。
やっていることが超長期プランなので、手元で進んでいく事業と将来のためのビジネスプランの構想をどちらも考える必要があり、脳みその切り替えが難しさを感じています。まだまだやるべきことは山積ですが、私にとっては事業も“労働”という感じではなくて、楽しくてやっているので働いているけど働いていないみたいな感覚もあります。
それにメーカーの方や研究者、技術者など、いろいろな方が、私たちの技術に共感し、協力してくださることもとても嬉しく感じています。会社を始めたばかりの頃、思いばかりが先行しテレアポしても箸にも棒にもかからなかった経験があるから、嬉しさも倍になっているのかもしれません(笑)

ーーー今後やってみたいことはありますか?と尋ねると「個人的にいつか保護猫活動への寄付をしたいと思っている」と意外な回答が。人や動物、環境や社会、さまざまなことに対して良い影響を与えることが彼女の原動力なのだろうと、改めて感じる瞬間でした。
目を輝かせながら事業について話を聞かせてくれた大森さん。大きな夢に向かって、これからも続くチャレンジをTOKYO<β>は応援します。