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民主主義の未来~ポピュリズム&ロビー政治vsエリート政治

大阪弁護士会の憲法委員会において僕が座長となって標題「民主主義の未来」の検討会をはじめることは、このMLでもご報告していたところです。いくつかの補助線を用意していますが、まずは、民主主義の統治における現在の問題は「ポピュリズム」とその評価にあり、その彼岸に「エリート統治」が対峙していることはご承知のとおりです。 

そのための教材として、アメリカの政治哲学者(右派に分類されています。)であるマイケル・サンデルの「白熱教室」を取り上げることにしました。副題は「民主主義は時代遅れなの?」という刺激的なものです。NHKオンデマンドに入っている「民主主義の現在を問う」3部作です。 

サンデル教授の司会のもと,アメリカのハーヴァード大学,日本の東京大学・慶応義塾大学,中国の復担大学(上海の東大ともいうべき大学)の学生が民主主義の諸問題について討論するというものであり、イラク戦争と民主主義の関係,国家主権と民主主義の関係,中国は民主主義と言えるか,複数政党制は民主主義を体現したものとなっているか,民主主義はパンデミックに対応できたか,ツイッターがトランプのアカウントを削除したのは「検閲」とは言えないのかなど,なかなかエキサイトな議論が取り交わされていました。

そこでは、まず中国の大学生たちが中国の体制についてどのように評価しているかが浮かび上がっている。これが大変興味深い。中国の大学生たちは、中国の体制も民主主義であり、西欧の民主主義より優れていると主張しているからだ。   

中国の学生たちが語っていたのは、ルソー主義。民主主義とは「一般意思」を追及する政治システムだという。一党制か多党制かについては問題ではない。実際、多党制の場合、そこでの一党は、部分利益しか代表していないという。アメリカのような二大政党だとほ50対50で対立していて、負けた側半分の国民の意見が代表されていないではないかという批判が、中国における西側民主主義批判の定番になっている。

ルソーのいう「一般意思」とは、個別利益(特殊意思)の合算ではなく、国民全体の公共の利益をいうものであり、政治はこれに従って行われるべきであり、それが民主主義だというのが中国の学生たちの意見。これが中国のエリートの主流とみていいだろう。そして中国の学生たちが繰り返し言っていることは、中国の統治システムは、常に、「一般意思」を志向して行われているということであった。これに比べて西欧民主主義は「個別利益(特殊意思)の総和としての全体意思」でしか政治が行われない。中国の統治システムが西欧より優れているというのは、こういう理屈。

そもそもルソーの「一般意思」は、共産主義やナチスなどの独裁制を準備したとして批判されるところであるが、中国の学生たちは、ルソーの「一般意思」の延長上に、中国の統治システムを置いているということである(ある意味の開き直り)。民主主義が最大多数の最大幸福を追及するものだとすれば、労働者階級(プロレタリア)が絶対多数であり、絶対多数の利益代表が共産党であり、ゆえに、共産党独裁がもっとも民主的であると論じたのと同じ論法である。 

結局のところ、共産党独裁という「エリート主義」がポピュリズムに溺れる「西欧型の民主主義」に勝るということ。更に、ロビー政治に対する批判もある。  

西欧型の民主主義は、資本家によるロビー活動を認めている。資本家の利益も特殊利益であり、政治に関与する資格があるためだ。そのためアメリカではユダヤ資本が政治を牛耳っているという分析がなされる。ディープステート説もその延長上にある。

その点、中国共産党が独裁している統治システムにおいては、資本家によるロビー活動によって政治がゆがめられることもない。政治は共産党により「一般意思」を志向し続けることができる。これもまた、共産党一党独裁がすぐれているという点だとして称揚される。 

問題は、果たして共産党による統治が「一般意思」を志向しているといえるのかどうかであり、果たして、誰がこれを判断できるのかということであるが、中国の学生たちの主張は、結果(中国の発展、経済的成長、コロナ対応の成功)が証明しているということに尽きる。 

特殊利益の合算でしかない西欧型民主主義は、その決定にスピードが伴わないが、中国的エリート主義の統治によれば、それが「一般意思」を志向しているがゆえに、より「正しい」政策を、より素早く、より徹底的でより強力に実行することができる。そして、今後はITやAI技術を活用し、より、正しく、素早く、強力な統治が可能になるだろう…………。だいたい、そのようなところ。果たして、かかる中国共産党による独裁政治に対し、西欧型民主主義はどのように対抗していけるのだろうか。その理論的な正当性と実際的な成果の両面において。 

かかる「一般意思」を理由とする共産党一党独裁体制の擁護があるが、これについては、いくつかの突破口となる切り込み口がある。そのことは次回。
(R5/5/21  MLへの投稿から)

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