「ちえ」⑰「A子①」
とある金曜日の夜のことです。
バスケの練習から帰って来て、シャワーを浴びようと思っていると電話がなりました。
知らない電話番号からでしたが出てみると。
「もしもし、秘書課のAですけど」
「Aさん?」
「あの⋯。先週の新採歓迎会で車に乗せてもらったAです」
「ああ、Aさんね。どうして家の電話番号分かったの?」
「すいません。職員名簿で調べちゃいました」
「それってさあ、個人情報だからね。公務員は、その辺のこと気をつけたほうがいいよ」
「ごめんなさい⋯」
「それで、どうして俺に電話してきたの?」
「あの⋯。Tさんって彼女いますか?」
「いるけど⋯」
「やっぱり⋯、そうですよね⋯」
「うん」
その後は、仕事のことや悩みなどの話をしてきました。
「あの⋯。彼女がいたら、もう私にはチャンスはないですか?」
「それって、どういうこと?」
「Tさんの彼女と私を比べることってできますか?」
「⋯」
「私は、二股でも良いのでチャンスをもらいたいんですけど⋯」
「それって、付き合って欲しいってことなの?」
「はい」
「俺は、彼女のこと好きだから、裏切るようなことはしたくないんだよね」
「じゃあダメですか?」
「俺が二股かけてAさん選んだとしても、そんな男は信用できないんじゃない?」
「いつか、Aさん以外の女の子と二股かけるかもよ?」
「でも⋯。私の気持ちは変わりません⋯」
「どこでも良いから、どこか連れてってくれませんか?」
「う~ん」
「じゃあ期待しないで待ってて」
次の日に「ちえ」を迎えに行ってアパートに戻ってきました。
「あのさあ⋯、ちょっと話があるんだけど⋯」
「なに?話って」
「もしかして、また、誰かに告白された(笑)」
「⋯」
「えっ、ホントに告白されたの?」
「うん⋯」
「トクちゃん、ホント、モテ過ぎだよ」
「今度は、どんな子?」
「市役所の新採の子で20歳の子」
「なんで、新採の子が、トクちゃんのこと知ってるの?」
「あのさあ、この前、新採の歓迎会やったんだな。俺、組合の役員だから、それに出たんだけど⋯」
「あの泊まりで行った時?」
「そう、それで、その会場まで新採の子達を車に乗せてったんだけど⋯」
「その中の一人なんだよな」
「その子がさあ⋯、昨夜、ここに電話してきたんだ。職員名簿で電話番号調べたんだって」
「公務員は、そんなことしちゃダメだよとは言っといたんだけど⋯」
「付き合ってくださいって言われたの?」
「うん⋯。最初に彼女いますか?って聞かれたからいるよって言ったんだけどさあ」
「そしたら「彼女と二股かけても良いから、チャンスをください」だって」
「もちろん、断ったよ。彼女のこと好きだから、そんな裏切るようなことできないって」
「それで?」
「どこでも良いから、どっか連れてってくださいだって」
「俺、その時に、もっとしっかり断れば良かったんだけど⋯」
「期待しないで待っててって言っちゃったんだよ⋯」
「ゴメンな」
「もう、電話してきても出ないから」
「その子以外にも、トクちゃんの車乗った子いたの?」
「いたよ。3人乗せてったから。男一人と女の子二人」
「なんで、トクちゃんのこと好きになったんだろう?」
「それが、俺も分からないんだよな⋯」
「特に、その子とだけ話したってこともないし⋯」
「ただ、歓迎会では、喋ったよ。他の女の子達とも一緒にね」
「1対1では喋んなかったんだけど⋯」
「どっか連れてくのもダメだよな?」
「もう、トクちゃん⋯。そんな気のある素振りしたら、その子も諦めてくれないよ」
「もしかして、その子に気があるの?」
「ない、ないって。全然好みじゃないしさあ、俺には「ちえ」がいるじゃん」
「「ちえ」より好きになる女の子なんて絶対にいないから」
「じゃあ、ちゃんと断ってくれるよね。どっか連れてくのもなしだよ」
「うん、分かった」
「あ~。「ちえ」に話したらスッキリしたわ」
とは言ったのですが⋯。
つづく
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