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友だちを思う気持ちを描く/『ぼくとヨシュと水色の空』/文:編集部 田代翠

 ヤンとヨシュは、幼なじみの男の子。年齢ははっきりと書かれていないのですが、おそらく小学校4年生くらいです。保育園以来、ふたりは仲良し。生まれつき心臓が弱くて体が小さく、常に家族に見守られているヤンと、ちょっと太っていてお母さんと二人暮らしのヨシュは、タイプも家庭環境もちがうけれど、親友どうし。不良たちにからまれれば、ヨシュが立ち向かうし、体格や吃音のせいでクラスで孤立しがちなヨシュの、一番の理解者はヤンです。

 そんなふたりが互いを思いやる様子をみずみずしく描いた、ドイツの児童文学です。

 ふたりがよく遊ぶのは、近所の川。ある日ヨシュが水底にきらりと光るナイフを見つけ、ふたりはそれを宝物にします。ところが、そのナイフがもとで、ヨシュはトラブルに巻き込まれてしまいます。

 というのは、広場によく現れるおばあさんがナイフで傷つけられるという事件が起き、その場にいたヨシュが、疑いをかけられてしまったのです。そのまま、ヨシュはいなくなってしまいます。実はヨシュは、お母さんが「だいじなお届けもの」などで、一日か二日、帰ってこないことがあるのです。この事件のときも、お母さんは不在。追い込まれてしまったとき、ヨシュはどうするのか……。ヤンの心配は募りますが、翌々日は、以前から予定していたヤンの心臓の難しい手術のための入院の日。ヨシュに思いを馳せながら、ヤンは手術の日を迎えます……。

 軸となるストーリーは、この、ヨシュがナイフでおばあさんを傷つけた疑いをかけられてしまう、というものなのですが、いくつかのサイドストーリーがあります。

 たとえば、ヤンの家で飼っているネコの出産。以前からお腹が大きかったネコが、廊下のものかげで子猫を5匹産む一部始終を、ヤンはひとりでじっと見つめます。これまでに何度も心臓の手術を受けてきたヤンは、自然や命にとても興味があり、自分でつけている「自然かんさつノート」に、猫の出産のことも綴ります。「命の重み」をヤンが受けとめようとしているのが感じられる、心打たれるエピソードです。

 一方ヨシュは、家にひとりのことも多く、ヤンにわけてくれるグミやアメはいつも、ポケットに直に入っていて、砂粒や糸くずがついています。ヨシュのこうした描写からは、子どもにはどうにもできない問題がうかがえて、やりきれない思いも感じますが、物語の最後では、専門家の救いの手が差し伸べられます。

 男の子たちの物語ですが、ヤンのことを好きなクラスメートの女の子ララゾフィーがヨシュの捜索を助けてくれたり、思春期で気難しいヤンの二人の姉たちが、弟が弱ったときには優しくしてくれるなど、女の子たちの存在も印象的です。

 友だちを思うまっすぐな気持ちが描かれた一冊。主人公たちよりも、少し上の年齢の読者のほうが、心にしみるかもしれません。小学校高学年から、大人も楽しめる物語です。

『ぼくとヨシュと水色の空』
ジーグリット・ツェーフェルト 作
はたさわゆうこ 訳
きたむらさとし 絵

文:編集部 田代 翠

(2020年11月/12月号「子どもの本だより」より)

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