徳間書店児童書編集部

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徳間の児童書にまつわるさまざまな情報を発信していきます。試し読みも公開中。https://www.tokuma.jp/kodomonohon/

マガジン

最近の記事

子どもの本の店 MURKELEI(ドイツ)

 2023年10月、フランクフルト・ブックフェアに出張に行った際に、少し足を延ばして、ハイデルベルクにある子どもの本の専門店「ムルケライ」を訪れました。ハイデルベルクは、フランクフルトから特急で1時間ほど。古城やドイツ最古の大学があることでも知られる、小さな美しい街です。  お店は旧市街にあり、石だたみの通りに面しています。店主のユリア・シュンデラーさんにお話をうかがいました。 Q こちらのお店はいつ始められたのですか? A 2018年にオープンしました。  その前は私は、

    • 物語が根ざした場所/『島暮らしの記録』/文:編集部 上村 令

       この原稿を書いているのは8月9日、作者の誕生日にちなんで「ムーミンの日」とされている日です。ムーミンのキャラクターには、グッズやアニメを通して親しみがある方が多いと思いますが、作者であるスウェーデン系のフィンランド人、トーベ・ヤンソンについては、案外知られていないのではないでしょうか。  トーベは1914年に生まれ、45年からムーミンの物語やコミックスを発表していました。『島暮らしの記録』は、50歳になる64年に、クルーヴハルという孤島に小さな家を建て始め、92年に、島で

      • 『遠い言葉』に魅せられて/『少年少女世界文学全集19 ドイツ編(2) グリム童話』/文:櫛田理絵

         5歳のとき、祖父が亡くなった。私にとっては、身近な人がいなくなるはじめての経験で、悲しいのと同じぐらい、不思議な感じがした。    その後、祖母は叔父夫婦の家に引っ越すことになり、その手伝いで、母といっしょに一週間ほど祖母の家で過ごしたときのことだ。叔父の家に送る荷物の中に、古い子どもの本を見つけた。中を開くと、字がぎっしりつまっていて、目次には、お話の題名がずらりと並んでいた。「知らないお話がいっぱい!」私は、宝物を掘り当てたみたいにうれしくなって、わくわくしながら読みは

        • なぜ、たたかっているの?/『みどりのトカゲと あかいながしかく』/文:編集部 上村 令

           大判の絵本の最初の場面を開くと、いきなり「みどりのトカゲと あかいながしかくは たたかっていた。」という文章で、お話が始まります。左側のページには、みどりのトカゲの大群。右側のページには、赤い長四角の大群(!)。トカゲ一匹一匹にそれぞれ表情や個性があるのは、まあ当然として、右側の、顔も手足もない文字通りの「赤い長四角」たちにも、サイズや角度によって、個性が感じられます。  次の場面では、トカゲたちが大勢で大きな長四角を押し倒そうとしますが、長四角たちも負けてはいません。さ

        子どもの本の店 MURKELEI(ドイツ)

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        • 上大崎発読書案内
          7本
        • 私と子どもの本
          7本
        • 徳間のゴホン!
          7本
        • 子どもの本の本屋さん
          7本
        • 竹迫祐子の「絵本の魅力にせまる! 絵本、むかしも、いまも…」
          7本
        • 「もう一度読みたい! '80年代の日本の傑作」
          6本

        記事

          目白のえほんや にこにこ書店(東京都新宿区)

           2019年10月に開店した絵本専門店「目白のえほんや にこにこ書店」。店主の岩田亜紀さんにお話を伺いました。 Q 奥行のあるお店の片面の壁一面に原画が展示されています。いつもこんなふうに原画展をされているんですか? A はい、ありがたいことに、出版社さんからご依頼をいただいての開催がほとんどです。原画展によってお店の雰囲気も変わるんですよ。当店は表通りに面しているので、外から絵を見て来店される方もいらっしゃいます。絵本が好きな方だけでなく、これまで興味がなかった方も、絵本

          目白のえほんや にこにこ書店(東京都新宿区)

          「固定観念を突き破れ!」/ザ・キャビンカンパニー

           ランドセルを背負って走る男の子、横にはブロック塀の上に蒸気機関車!? 物陰には獰猛そうなワニ!? 2023年の日本絵本賞を受賞した『がっこうにまにあわない』は、表紙から不穏な雰囲気が漂ってきます。扉には、汗だくで走る逼迫した表情の男の子が、見開きいっぱいにクローズアップで描かれ、別の場面では、斜め下から、真上から、真横から、視点は大胆に変化し、おかげで読者の心はさらにザワつきます。  7時47分から1分きざみで8時まで、読者を追い立てるように絵本は展開します。学校までの道

          「固定観念を突き破れ!」/ザ・キャビンカンパニー

          新庄節美『夏休みだけ探偵団 二丁目の犬小屋盗難事件』

          この連載では、1980年代に話題になり、今は書店で手に入りにくくなっている作品を紹介していきます。  1987年に講談社児童文学新人賞に入選した作品を単行本化したものですが、とても新人とは思えない物語づくりのうまさと文章力に圧倒されます。  主人公の「オレ」の名前は、和戸尊(わと たかし)。探偵小説が大好きな双子の姉妹が、「和戸君の名は、つなげて読むとワトソンだね。」と言ったことから、クラスの仲間からワトソンと呼ばれています。 「シャーロック=ホームズの助手の名だね。」と

          新庄節美『夏休みだけ探偵団 二丁目の犬小屋盗難事件』

          おかげさまで、30周年!

          徳間書店児童書編集部は、1994年5月に児童書の刊行を始めました。みなさまのご愛顧のおかげで、今年で30周年を迎えることができました。感謝の気持ちをこめて、いままでの児童書編集部の足跡をご紹介いたします。 【1994年 児童書創刊】 徳間書店は1993年に児童書の編集部を作り、児童書創刊の準備を始めました。それまでもすでに、『となりのトトロ』など、アニメ絵本を出版していましたが、さらに本格的な児童書を出版するため、態勢を整えたのです。 この決断をしたのは、「子どもの本

          おかげさまで、30周年!

          著者と話そう 長友恵子さんのまき

           2023年3月に刊行した『ブックキャット 〜ネコのないしょの仕事!』の翻訳をされた長友恵子さんにお話をうかがいました。 Q どんなお子さんでしたか? A 大人になってからは、自己主張が強い、と言われますが、子どものころは内気で、友だちの少ない子どもでした。それにはわけがあって、小学校6年生まで夜尿症で、いつも布団に地図を描いていたんです。それで内にこもってしまい…。学校の成績はよかったので、両親はさほど気にしていなかったみたいです。六年生の修学旅行は不安で、行かないことに

          著者と話そう 長友恵子さんのまき

          著者と話そう 小沢さかえさんの巻

           今回は、2023年8月に刊行した『このすばらしきスナーグの国』に挿絵を描いてくださった、小沢さかえさんにお話をうかがいました。 Q 子どものころから、絵がお好きだったんですか? A はい、好きでした。でも、ずっと絵を描いていたというわけではなく、手芸なども含め、手を動かして何か作るのが好きな子どもだったと思います。学校の授業では、図工が大好きでしたね。育ったのは滋賀県の自然豊かな郊外だったので、外でもよく遊びました。木登りをしたり、田んぼで遊びを見つけたり…。  絵本も、

          著者と話そう 小沢さかえさんの巻

          本の中から出てくるのは…?/『本だらけの家でくらしたら』/文:編集部 小島範子

           本をふると、中からその本の登場人物があらわれる…そんなことができたら、素敵だと思いませんか? 『本だらけの家でくらしたら』(N.E.ボード 作/柳井 薫 訳/ひらいたかこ 絵)の主人公のファーンは11歳の女の子。両親は仕事熱心できちょうめん すぎ、ファーンからすると「タイクツ」な人たち。父親は庭の芝生のことばかり気にしているし、母親はバーゲンのチラシばかり見ています。でもファーンは、見た目も両親とまったく似ていないうえに、「すごく変わった子」。小さいころから、身の回りでは

          本の中から出てくるのは…?/『本だらけの家でくらしたら』/文:編集部 小島範子

          【子どもの本の本屋さん 番外編】    ミュンヘン国際児童図書館 訪問記

           2022年10月、フランクフルトブックフェアへの出張の際、少し足を伸ばして、ミュンヘン国際児童図書館に行ってきました。今回はその様子をご報告します。 〈ブルーテンブルク城へ〉  イェラ・レップマンによって1949年に創立されたミュンヘン国際児童図書館は、世界最大規模の児童図書館として、世界中の子どもの本を収集・所蔵し、さまざまな企画展、原画展を行っています。一般の方も利用でき、また、児童文学研究を支援する図書室も備えています。  この図書館があるのは、ミュンヘン郊外の「ブ

          【子どもの本の本屋さん 番外編】    ミュンヘン国際児童図書館 訪問記

          著者と話そう 早川世詩男さんのまき

           第68回青少年読書感想文全国コンクール高学年の部の課題図書になった児童文学『ぼくの弱虫をなおすには』(K・L・ゴーイング作、久保陽子訳)の挿し絵を描いてくださった、イラストレーターの早川世詩男さんにお話をうかがいました。 Q どんな子ども時代でしたか? A 暇さえあれば絵を描いていました。最初は絵が得意な兄の影響だったと思いますが、実際ぼくも絵を描くのが好きで、らくがき帳に好きなものをずっと描いていました。「キン肉マン」や「アラレちゃん」など、アニメや漫画のキャラクター

          著者と話そう 早川世詩男さんのまき

          できるってどういうこと?/『体はゆく』/文:上村 令

           小学3、4年生のころ、スポーツが得意な男子と、同じSFのシリーズにはまり、本を貸し借りするなどして急に仲よくなったことがあります。どういう話の流れだったのか、あるときその子がわたしに、「なあ、おまえ、どうして逆上がりができないの?」と尋ねました。全然意地悪ではなく、心底不思議がっている口調だったので、わたしも真剣に考えました…どうしてかな? するとその子は、「オレ逆に、もうできなかった時の感じが思い出せない」と言いました。その後SF好きの二人は、「もし脳みそだけ入れ替われた

          できるってどういうこと?/『体はゆく』/文:上村 令

          翻訳の楽しさと難しさを知った本/『時をさまようタック』/文:松波佐知子

           『時をさまようタック』は私の最初の翻訳書です、と言うと語弊がありますが、翻訳を学び始めた頃に、『海辺の王国』等の訳者である恩師の坂崎麻子先生から、好きな原書を丸々一冊訳して、翻訳された本と自分の訳を比較する練習を勧められて選んだ本でした。  日々に退屈していた少女ウィニーが、泉の水を飲んだために不老不死となった一家との交流を通じて、自分自身や死生観と向き合い、成長する姿を丁寧に描いた良作です。  ナタリー・バビットを知ったきっかけは、坂崎先生の翻訳クラスで課題に出された

          翻訳の楽しさと難しさを知った本/『時をさまようタック』/文:松波佐知子

          今村葦子『はつ子とひな子』(1989年/理論社)

          この連載では、1980年代の当時は話題になったけれど、今は書店で手に入りにくくなっている作品を紹介していきます。 『ふたつの家のちえ子』で、いくつもの児童文学賞を受賞して話題になった今村葦子が、小さな二羽のヒヨドリの冒険をエキサイティングに描いたお話です。  ヒヨドリのはつ子は、ひな子と南に向かってまっしぐらに飛びながら、すぐ横を飛んでいる北風に「おまえは、だれだ?」と名前を聞かれ、つらい気持ちになります。でも、「…ぼく、男なのに『はつ子』って名前なんです」と、正直に答え

          今村葦子『はつ子とひな子』(1989年/理論社)