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「もう一度読みたい! '80年代の日本の傑作」

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記事一覧

新庄節美『夏休みだけ探偵団 二丁目の犬小屋盗難事件』

この連載では、1980年代に話題になり、今は書店で手に入りにくくなっている作品を紹介していきます。  1987年に講談社児童文学新人賞に入選した作品を単行本化したものですが、とても新人とは思えない物語づくりのうまさと文章力に圧倒されます。  主人公の「オレ」の名前は、和戸尊(わと たかし)。探偵小説が大好きな双子の姉妹が、「和戸君の名は、つなげて読むとワトソンだね。」と言ったことから、クラスの仲間からワトソンと呼ばれています。 「シャーロック=ホームズの助手の名だね。」と

斉藤洋『ベンガル虎の少年は……』

 この連載では、1980年代に話題になり、今は書店で手に入りにくくなっている作品を紹介していきます。  斉藤洋は、1986年に『ルドルフとイッパイアッテナ』でデビューし、翌年には講談社児童文学新人賞を受賞するなど、一躍人気者になります。デビューから2年後の6冊目に出版したこの作品も、それまでの作品同様に、独特のユーモラスで饒舌な文体を駆使してサービス満点。徹頭徹尾、面白く読ませる仕掛けが満載です。  まず、虎についての色々なウンチクが披露されます。虎は8から10種類いて、

塩野米松『るすばんムクドリ君へ』

この連載では、1980年代の当時は話題になったけれど、今は書店で手に入りにくくなっている作品を紹介していきます。  一年の半分以上も旅をして、「アンクル米松」の名前で雑誌などに寄稿していた著者が、各地で見聞きした自然や人々の暮らしを、父さんから我が子への絵入り手紙の形式で記した紀行文です。タイトルは、著者が子どもの頃、ヒナから育てたムクドリが、学校から帰って来る著者を待っていて、学校での様子をムクドリに話しながら餌をやっていたことに由来します。  最初の手紙は春先の関門海

末吉暁子『ミステリーゾーン進学塾』

 この連載では、1980年代の当時は話題になったけど、今は書店で手に入りにくくなっている作品を紹介していきます。  1975年に『かいじゅうになった女の子』でデビューし、77年に発表した『星に帰った少女』で、日本児童文学者協会と日本児童文芸家協会の新人賞をダブル受賞して話題になり、以後多彩なファンタジー作品を送り出してきた末吉暁子の異世界ファンタジーです。 夏休みに入って間もないある日、有名私立中学への合格率の高さで評判の進学塾の子どもたちが、三人の先生に引率されて、「

森山 京『あしたもよかった』

 この連載では、1980年代の当時は話題になったけど、今は書店で手に入りにくくなっている作品を紹介していきます。  作者の森山京は、コピーライターの仕事をした後、40歳頃から童話を書き始め、『きいろいばけつ』『つりばしゆらゆら』など、多くの幼年童話の傑作を残しています。この作品も、小さなクマの子が野原で出会った一日の、様々な体験や驚きを詩的に描いて、深く心に残ります。  朝、クマの子は川のふちに座り、耳をすますと、水が「きつねくんきつねくん」とささやいているように聞こえ、

長谷川集平『見えない絵本』

 この連載では、1980年代の当時は話題になったけど、今は書店で手に入りにくくなっている作品を紹介していきます。  1976年に『はせがわくんきらいや』で、絵本の世界に衝撃を与えた長谷川集平が、1985年に急逝した映画監督の伯父・浦山桐郎へのオマージュを込めた作品です。それはまた、家族ならではの、世代を超えた神話的ともいえる奇跡の物語であり、不思議な体験を通した少年の成長物語でもあります。  主人公の少年「ぼく」は、お盆に母さんの故郷の長崎を初めて訪ね、母さんの弟で、一人