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著者と話そう 小沢さかえさんの巻

 今回は、2023年8月に刊行した『このすばらしきスナーグの国』に挿絵を描いてくださった、小沢さかえさんにお話をうかがいました。

『このすばらしきスナーグの国』
( E・A・ワイク=スミス 原作 ヴェロニカ・コッサンテリ 作 野口絵美 訳 小沢さかえ 絵)
トールキンの「ホビット」の原型となった「スナーグ族」が活躍。
ファンタジーの知られざる古典が、 現代に合う生き生きとした物語として蘇りました。

 子どものころから、絵がお好きだったんですか?
 はい、好きでした。でも、ずっと絵を描いていたというわけではなく、手芸なども含め、手を動かして何か作るのが好きな子どもだったと思います。学校の授業では、図工が大好きでしたね。育ったのは滋賀県の自然豊かな郊外だったので、外でもよく遊びました。木登りをしたり、田んぼで遊びを見つけたり…。
 絵本も、小さいころから好きでした。歩いて行ける範囲には図書館はなかったのですが、いろんな絵本がつまった木箱が定期的に届く「ほるぷ子ども図書館」を、両親が頼んでくれていました。そこで出合ったものも含め、『そらいろのたね』とか『おおきなおおきなおいも』(以上、福音館書店)、『おおきなきがほしい』(偕成社)など、好きな絵本がたくさんありました。小学校の図書室で出合った『秘密の花園』にも、引き込まれました。

 進路を意識されたのは…?
 高校2年のころに美術部に入って油絵を描きはじめ、美大受験のための予備校にも通うようになりましたが、当時はまだ、「美術が好きだから、美大に行けたらいいな」という程度の漠然とした感じでした。その後、京都造形芸術大学に入ってから、「絵描きになりたい」とはっきり意識するようになりました。卒業が近づいても、ほかの進路は一切考えていませんでした。大学時代は、ルドンの色の使い方に衝撃を受けたり、とにかく「色」に魅せられて過ごしました。

 その後ウィーンに留学されたのは?
A 大学3、4年になってから、描くのがほんとうにおもしろくなって、社会的責任を負う前にもう少し自由に、そして自分が今までまったく知らなかった環境で絵を描いてみたいと思い、留学を考えました。ドイツ語圏を目指したのは、英語圏より学費がかからない、という事情もありましたが、エンデの『モモ』や『はてしない物語』、ヴィム・ヴェンダースの映画など、ドイツ系の文化が好きだったせいもあります。
 最初はドイツに渡り、1年間ドイツ語を学びながら美大をいくつか受けて、ドイツよりオーストリアの方が肌が合うとわかり、ウィーン造形美術アカデミーに入りました。そこで4年間学んで卒業したのですが、当時の同級生とは今でもやりとりが続いています。仲よし女子5人組で、わたしとクロアチア人の子以外はオーストリア人。今でもみんな絵の道でがんばっていて、互いに影響を与えあっています。

 卒業後は、帰国されて…?
 卒業までにウィーンのギャラリーで定期的に展覧会ができる態勢が作れていれば、向こうに残ったかもしれませんが…。日本のギャラリーとは、ウィーン2年目からやりとりが始まって、描きためたものを夏休みに日本に持って帰り展覧会をする、という流れができていました。そこで卒業後は帰国し、大阪の国立国際美術館での展覧会や、上野のVOCA展(新人作家の登竜門的な展覧会)などにも出品するようになりました。

 2022年には尼崎で、絵本の原画なども含めた大きな個展『僕の知らないあなたの翼』も開かれていますね。絵本や挿絵の仕事を始められたのは?
 VOCA展を見られた編集者の方に、「絵本を作りませんか」と声をかけていただいたのが最初でした。その後も本の仕事は、タブロー(一枚絵)と並行して続けてきました。好きな題材をタブローとして描きたいように描き、それを売る、というだけだと、どうしても生活は不安定になります。かといって、「売れそうな絵」ばかり描くようになったら、堕落するというか、ちゃんと作品を作れなくなりそうな気がするんです。「頼まれる仕事」には、自分では思いつかない要素が含まれていて、幅が広がることもありますし。わたしにとっては、「描くこと」と「仕事」をどううまく結びつけていくかは、大きな課題です。

 今回の『このすばらしきスナーグの国』の挿絵を描かれて、いかがでしたか。本の内容は、トールキンが『ホビットの冒険』を書く際に影響を受けたファンタジーの古典を、現代的に書き直したものでした。そうした「古典的なファンタジー」の雰囲気をしっかりと感じさせるペン画は、原書の版元や著者にも絶賛されましたね。とくに動植物は、空想上の生き物も含め、とても生き生きしていました。
 実はペン画は、挿絵を描いた初の作品『岸辺のヤービ』(福音館書店)のときに、初めてGペンを使って描いたんです。「ヤービ」も空想上の生き物ですが、そういうものも含め、動物を描くのは好きです。実在しないものでも、体の仕組みや骨がどうなっているのか、考えながら描いています。でも人間は、顔が見えてこないとうまく描けないんです。今回、「スナーグ」のゴルボや、魔女や先生ははっきりと姿が見えましたし、いろいろな場面も、物語を読んでいると映像が浮かび、絵が勝手に出てきたという感じで、描きやすかったです。ただ、主人公の男の子ピップと女の子フローラの顔がどうしても見えなくて…。無理やり顔を作ってしまうと、「キャラクター化された人物」になり不自然になってしまう気がしたので、顔が見えなくても成り立つ場面をいろいろと考えて描くことにしました。
 挿絵で、わたしがうまく描けるのは、クラシックなもので、舞台は日本と限定されていないもの、自分がおもしろいと思ったもの、なので、今回はほんとうにぴったりでした。

木の上から人間をおそう、実在しない生き物「ボヨボヨ」


 今後の抱負は?
 何はともあれ、絵を描き続けます! ペン画も、もう少し描きたいですね。そして、自分で書いた物語に自分で絵をつける、自作の絵本も、作ろうと思っています。

 ありがとうございました!
 
小沢さかえ(おざわさかえ) 
1980年滋賀県生まれ。京都造形芸術大学(現・京都芸術大学)芸術学部を卒業後、渡欧。ドイツ滞在を経てオーストリアのウィーン造形美術アカデミーに入学。2008年に同校を卒業後帰国、現在は京都を拠点に制作・発表を続ける。絵を担当した絵本に『チャーちゃん』(福音館書店)、『よんひゃくまんさいのびわこさん』(理論社)、挿絵の仕事に『岸辺のヤービ』『ヤービの深い秋』(以上福音館書店)、『しあわせなハリネズミ』(講談社)など。

(徳間書店児童書編集部「子どもの本だより」2023年9月/10月号より)


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