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【読書記録】夜が明ける

今回は、西加奈子さんの"夜が明ける"です。

痛かった。優しくなりたい、懐かしのテレビドラマの主題歌のタイトルのような、そんな想いを抱いた。

読む前に

私は西加奈子さんのヘビーめな長編が好きだ。そもそも本を買わない私が、さらに言えばできるだけ文庫しか買わない私が (この間の汝、星のごとくも例外的) 、西加奈子さんの作品だけはサラバ!、i、そして今回の夜が明ける、と、ハードカバーで3作品所有している。この3作品どれも、どっしりしたハードカバーの、あのたたずまいからして好きだ。”読むぞ” という感じがする。そして実際読むのに、その “読むぞ” に見合うくらいにしっかり体力を使う。
あと西加奈子さんの作品といえば、通天閣も割と好き。ぐちゃぐちゃのズタズタで、きったなくて、でも生きてる、って感じが。

初めて読んで

西加奈子さんの作品は、読み始めてしばらくは全然知らない人の伝記を読んでいるような気分になることがある。それでいて、気づいたらずぶずぶと引っ張り込まれているのだ。今回もそうだった。

読み進めていくにつれ、自分が痛みを覚えていることに気がついた。痛みは赤黒いような色をしていて、少しじめっとしているようでもあった。痛みに溺れそうになって息をつくたびに「お前には痛みを感じる資格があるのか」と問いかける声がどこからか聞こえてくるみたいだった。そもそも「資格」という言葉が出てくる時点で私は傲慢なのではないか。けれど私に唯一できることは、目を逸らさないこと、読むのをやめないことだった。

最後まで読んで、少し救われたような、赦されたような気がした。赦される、いったい何に?そう思ったけれど分からなかった。分からないけれど、赤黒い痛みはそこに残ったままだった。
ただ、この痛みをかさぶたにして治してしまってはいけないような気がするのは確かだった。この痛みを、時の流れに任せて、無自覚のまま薄れ、治ってゆくのを待ってはいけないと、そんな気がするのは。

この作品に限らないけれど、一つの作品で、こんな風に思わせられる表現者の方々を、私は本当に尊敬する。

私が望むこと

購入した時についていた帯に書いてあった、役者さんや監督さんの言葉が本当にその通りで、私の陳腐な感想なんて、書く意味がないかもしれない。アキや俺について、うまく表現できる気がしない。

けれどこの本を読んで私は、頑張って頑張って頑張ってる人が、頑張れなくなった時に受け止められる人でありたい、切にそう思った。逃げ込める場所になりたい。どうやったらなれるのか分からないけど、世界はもっと優しいよって、教えてあげられる人になりたい。
そうできるための余裕を、まず私自身が持てる暮らしであることが、必要ではあるんだけれど。

そういうことを望むことが出来る環境にいる私は恵まれているんだって、そんなことは分かってる。分かってるからこそ、そうしなければいけないと思う。恵まれているからこそ、それを精一杯生かして、ずっと何かと戦っている人たちが休憩するための場所を、どうにかして生み出したい。そういう人たちにどうすれば会えるのか、どうすれば救いになれるのか、救うなんて烏滸がましい、浅はかな言葉かもしれない。分からない。分からないけど。私がこの物語を読んでいて感じたような救いを、生み出せる人間になりたい。

私に出来ること

この物語に出てくるような、この物語を本当に必要としている人には、この物語は届かないんじゃないかと、そんなことを思ってしまった。彼らはこの物語を手にする生活圏にいないんじゃないだろうか。きっと、体も心もすり減らして生きている人は、日常的に本を読める状態にはないんじゃないのか。

今もきっとこの世界のどこかでは誰かが深く傷つきながら生きていて、そういうのって、どこか遠いところで起こってることではなくて、そして、明日は我が身かもしれない。
でも、それでも、この物語が世の中にあるということ自体が、この作品が生み出されたということ自体が、希望のようなものなのだと思う。どう表現すればいいんだろう。大きな流れは、どうしたって私たちを飲み込んで、けれど優しさがないというわけではない。それはむしろ、私たちの近くにこそあるのかもしれない。

考えることのできる人が、考えられる状態にある時に、きちんと考え続けないといけないのだと思う。私は特別に記憶力がいいわけでも、頭の回転が速いわけでもないけれど、それでも、自分がどういう風に物事を見ているか、その物事がどんなふうに動いているか、目をそらしていることはないか、立ち止まって考えることは出来ると思う。
なんとなく流されて生きてしまいがちな私だけれど、考えようと思った。そして大事な人たちと、考えたことを話し合いたい。
それから、普段身の回りにいる人たちを、ただ ”身の回りにいる人たち” で終わらせないようにしなければいけない。彼らがどんなふうに考え、どんなことを感じながら生きている人なのか、知ってゆきたい。知る努力をしようと思う。もちろん、自分に抱えられる範囲で。

生物なら必ず持っているはずの助けてというシグナルを、きちんと受け取れる存在でありたい。

この本の内容から外れていっているかもしれないけれど、紛れもなくこの本を読んだからこそ、考えたこと達。

今回はここまでです。
長く続く暑い日、台風、それに伴う気圧変動、激しい気温差。頭痛、めまい、眠気…etc.色んな不調が起きやすい時期だと思います。そんな中、生きているだけでみんなすごい、えらい、と思うんです。かなり自覚的に休息・防御しているつもりの私でさえ、今週きついです。
どうぞ、可能な限り、無理のなきように。

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