見出し画像

出版流通の新時代を担う注文システムを目指して――。「BookCellar」

こんにちは。Web事業グループの東郷です。とうこう・あいの新規事業「BookCellar(ブックセラー)」を担当しています。BookCellarの立ち上げから参加し、自社サービスをゼロから育てていくという経験をさせていただいています。

本の受発注システム「BookCellar」とは

BookCellarの公式サイト(書店側)

BookCellarは、書店と出版社をつなぐ受発注システムです。BookCellarにアカウントをもつことで、書店は出版社に取引を申請し、発注が可能となります。注文はオンラインでいつでも好きなタイミングででき、パソコン・スマホから利用可能です。
出版社は、書店に対して自社本の発注可否・取引条件を提示し、注文を受けると本の発送を手配します。

「それってふつうじゃないの?」と思われるかもしれませんが、実際はもっと複雑です。書籍の流通の仕組みを簡単にご紹介します。書店に並ぶ本の大多数(年間出版物流通量の85%近く※)は、日販、トーハンなど取次会社を経て書店に届きます。「出版社→取次会社→書店→読者」というルートです。取次が卸として機能していて、書店は取次会社と契約し、口座をもつことで本を仕入れることができます。

『まっ直ぐに本を売る』(石橋毅史 / 苦楽堂)参照

書店を始めたいと思ったら、取次との口座を持てば、仕入れの問題は解決!と思いますよね。そこに多くの課題があるからこそ、BookCellarは生まれました。

取次と口座を開くのは、ハードルが高いと言われます。売上予測、規模、立地、保証金などの条件があるからです。また、口座が開設できた場合にも、取次の特徴ともいえる「配本システム」があります。本は発行後、取次から自動的にその店に売ってほしい数が送られてきます。これを「自動配本」「見計らい配本」といいます。書店でアルバイトをした経験がある方は、段ボールに本を詰める返品作業を行ったことがあるのではないでしょうか。条件はありますが、本は返品が可能な商材です。結果として、書店の客層や品揃えのニーズとのミスマッチが生まれ、高い返品率につながっています。


独立系書店の開業と「直取引」の浸透が気運に

2015年以降「独立系書店」と呼ばれる、個性的で小規模な本屋さんの開業が増えていきます。どんな本屋さんがあるか知りたい方は、書店ライターで書店主でもある和氣正幸さんの『東京 わざわざ行きたい街の本屋さん』(ジービー)『日本の小さな本屋さん』(エクスナレッジ)をおすすめします。

それに呼応するように仕入れにも変化が現れます。取次を介さず、出版社に直接注文する「直取引」と呼ばれるルートです。「出版社→書店→読者」となるので、取次を介さない分、本が早く届き、書店の利益率も高くなります。ただし、直取引は出版社にとっては、少ない冊数を都度配送手配する、請求書を発行するなどの手間もあり、すべての出版社が対応しているとは言えません。

手間を払拭し、「直取引」をスタンダードに押し上げる推進力になったのは、「トランスビュー方式」の普及です。出版社に変わって、トランスビューが取引を代行します。本の在庫管理、注文対応、出荷、請求まで行う仕組みです。取次の仕組みと大きく違う点が、1冊から注文可能。書店の注文に応じて満数出荷する、「注文出荷制」であること。頼んだ本が入荷するので、返品率は劇的に下がります。

BookCellarは、このトランスビュー方式をヒントに「自由な書籍注文をオンラインでできる場」を目指してスタートしました。(前置き長!)

サービスローンチ時は、トランスビュー方式を利用する出版社と取引先書店の「直取引」利用が中心でしたが、書店が取次の口座を持つ場合にも利用できるよう「取次ルート」での注文体制を整備、取次会社・八木書店新刊取次部の参加を経て、この記事を書いている2022年11月時点では、BookCellarで発注できる出版社は約800社、全国4,000以上の書店が利用いただいています。

出版科学研究所のデータによると、2020年の日本の書店数は11,024店。年々減少傾向にあることがわかります。2000年が21,495店なので、20年で約半数になっていることがわかります。オンライン書店の登場や電子書籍市場の成長など、背景は様々ですが、大手チェーンから、独立系書店・雑貨店など幅広い書店に利用いただいていることがわかります。

参考:出版科学研究所 https://shuppankagaku.com/knowledge/bookstores/


BookCellar事務局の業務

BookCellarチームでは日々、どんな業務をしているのかをご紹介します。社内の体制は4名です。リーダーのもと、開発内容の決定、仕様検討、進捗管理を行う開発ディレクター、出版社向け商材を企画する営業担当、カスタマーサポート担当で運用しています。

〈業務内容〉

  • システム開発(保守運用、機能改修、検証作業、機能追加)

  • サポート業務(アカウント発行、メールサポート、不具合対応、FAQメンテナンス、バナー作成、FAXバッチ作成)

  • ユーザー増加施策(サービスLP・資料の作成・更新、広告運用)

  • 利用機会の向上施策(書店・出版社ユーザーへのHTMLメール送付、公式note, Twitter運用)

  • 売上向上施策(フェアや広告企画の立案、他サービスとの連携)

例えば、サポートのアカウント申請では、月間約70の新規アカウントを発行しています。書店の審査では、共有書店コードの有無、ホームページ、SNSなどを含めた営業実態の確認を行っています。自動的にアカウントを付与しない理由として、BookCellarが提供する取引の場が、安心できることを担保することが目的です。(法人向けサービスと知らず、個人から間違って申請が届くことも)

サポートで心がけているのは、ユーザーファースト、迅速対応です。よくある質問では解決できないお困りごとや疑問が問い合わせとして入ってきているので、内容によっては対応後、チームに共有します。ユーザーの声からシステム改善につながることも多くあります。


なくてはならない存在になるために

システムとしては、不具合なく目的を達成できることを大前提としています。書店、出版社ともに基本機能である受発注機能を無料としています。「どうやって運営を成り立たせているのですか」と聞かれることもありますが、私なりに考えてみると、無料に込められた意味は2つあると思っています。

ひとつは、「本にかかわる人すべてにオープンであること」。もう一つは、出版社でも書店でもない、広告代理店であるとうこう・あいが、中立な立場でサービスを提供することで、純粋に「出版業界を支えたい」という想いの表明にもなっているのではないかと考えています。

とはいえ、無料でのシステム維持は困難です。2022年7月には、出版社向けの有料プロモーションサービス「広告ページ」の提供を開始しました。手軽に全書店ユーザーに向けて情報発信が可能になりました。新しい取引先の開拓につながり、広告ページで紹介した本はその場で発注ができます。BookCellarを受注手段のひとつとして活用いただけるようになれば、と願っています。また、12月にはBookCellar独自フェアを企画しています。フェアの提案など複数の書籍をまとめて発注することができる「カスタム注文書」も現在β版で提供中です。

これからも書店、出版社の声に耳を傾けながら、なくてはならない存在になるべくBookCellarを運営していきます。

最後までお付き合いいただきありがとうございました。次回の投稿をお楽しみに。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?