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事業再構築補助金 攻略の研究<第6回>

 今回から、採択される可能性の高い合理的で説得力ある事業計画を策定するため、各部分に、何をどのように書けばいいのかを考えていこう。公募要領「10.事業計画作成における注意事項」(p.23)および「表2:審査項目」(p.27)に、そのヒントがある。

§6 事業計画策定のポイント(1)

 今回の対象は次図の部分だ。

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 このセクションの目的は、企業の現状を説明して事業再構築の必要性を訴求することにある。審査項目で該当する部分は『(3)再構築点 ②既存事業における売上の減少が著しいなど、新型コロナウイルスの影響で深刻な被害が生じており、事業再構築を行う必要性や緊要性が高いか。』である。

 (1)企業概要では、会社名(屋号)、代表者名と年齢、所在地、業種、従業員数(正社員 / パート等)、創業年など、いってみれば自己紹介である。

 代表者の年齢が55歳以上であるならば、後継候補の有無、いる場合には代表者との続柄を書いておいた方がよい。なぜなら事業再構築補助金は、前回説明したように補助事業期間と事業計画期間と合わせると7年程度の長期間になるためだ。
 また所在地の周辺状況は、簡単に説明しておくとよい。

 (2)現事業の内容では、主要製品・商品・サービスのカテゴリーと主要顧客層および売上高構成比を分類整理する。製造業の場合には、自社製品なのか下請けなのか、下請けの場合には図面と部材が供給されるのか、自社なのかは重要だ。
 また、営業方法・宣伝方法などを簡単に記しておく。これは売上高に影響する大きな要因だからだ。
 さらに(必要があれば)上記の特徴を簡単に記しておくとよい。たとえば、自社サイトからの引合いが半数以上に上る、展示会では営業担当ではなく技術担当が説明するため受注につながることが多い、など。要するに自社の現事業について、審査員に理解してもらうための項目なのだ。

 (3)現事業の市場動向は、このセクションの重要部分である。なぜなら現事業の市場の見通しがよくないからこそ、補助金を活用して事業再構築するからだ。具体的に記すべき項目は「市場規模の動向」「顧客ニーズの変化」「競合の動向」である。
 ここでは、統計資料や業界データなど客観性ある情報に基づいて記すことが重要である。ビジネスでは直接的データが存在しないことが多い。それでも、いくつかのデータから論理的に推論することで合理的に結論するのだ。
 それゆえ、この項目については、認定支援機関と一緒に進めるのがよい。

 (4)経営の状況では、過去3~5年の売上高推移を示しながら、要因分析を記す。つまり売上高変化は、客数変化なのか単価変化なのか、それは顧客ニーズ変化に適応した競合他社に奪われたものなのか市場規模の縮小によるものなのか、そして現事業を改善することで経営をどこまで改善できるのか、などを論理的に推論する。
 業種転換や事業転換を除けば、事業再構築といっても現事業は残るのだ。新分野展開や業態転換によって困難を打破するのは重要だけれど、だからといって現事業を改善しなくていいわけではない。補助金の対象にならなくても事業計画には記すべきである。そこに事業再構築に真剣に取り組む経営者であることを示すことになるからだ。

 そして(5)事業再構築の必要性に至るわけだが、ここにも合理的結論が求められる。上述した内容により「現事業の見通しは(改善したとしても)よくない」から事業再構築の必要性がある、と多くの方は考えるかもしれない。しかし、それでは不十分だ。なぜなら、ここで言う「事業再構築」とは「補助金を活用する事業再構築」だからだ。そのためには「新しく自社にふさわしいことを始めることで持続的成長・発展が見込める」ことを示さなければならない。そのためには、自社の強み・弱み、外部環境の機会・脅威を明らかにすることが不可欠だ。いわゆるSWOT分析である。

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 SWOT分析で注意すべき点は、強み・弱みの分析だ。これには次の2つの注意点がある。

 そもそも、強み・弱みというのは、他者との比較において浮かび上がる。そのため競合他社も同様であることは強みにも弱みにもならない。さらに、抽象的な表現も強み・弱みではない。ときどき製造業で「わが社の強みは技術力だ」と言う経営者を見かけるが、正しくは「他社はおおむね△△程度の加工精度だが、わが社は〇〇の精度で加工できるのが強みだ」などと具体的に言わなければならない。
 また他社との比較項目には、ハード面(いわゆるヒト・モノ・カネ)とソフト面(技術・ノウハウ、人材の資質、知名度、顧客資産など)の二種類がある。ハード面で比較すると規模のより大きい企業に勝るのは難しいことが多いが、ソフト面で比較すると規模の大小は無関係であることも多い。幅広く検討することが重要である。

 したがって、このセクションの結論は次のようになるだろう(例示)。

 (4)で検討したように現事業には改善の余地はあるが、(3)の分析から現事業だけでは持続的成長・発展は難しいと言わざるを得ない。しかし、上述した〇〇の強みと△△の機会を活かして◇◇に進出することで事業再構築をおこなえば、持続的成長・発展を実現できる可能性は高い。

 この段階では事業再構築の具体的取組について言及する必要はなく(それは次のセクションの役割だ)、方向性を述べる程度でよい。要するに、補助金を活用する事業再構築が必要であることを、審査員に納得してもらえばいいのだ。

2021/04/06 初稿

⇒ <第7回> 事業計画策定のポイント(2)

第1回 事業再構築補助金の狙いはどこにあるのか
第2回 どのような取組が「事業再構築」に該当するのか
第3回 具体例で理解を深めよう
第4回 事業計画策定の前に、構想を練る
第5回 事業計画の全体像

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