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事業再構築補助金 攻略の研究<第1回>

 中小企業経営者の間では、事業再構築補助金(中小企業等事業再構築促進事業 リーフレット / 概要)の話題で持ちきりだ。コロナ禍の影響で疲弊している多くの中小企業にとって、補助金額の大きなこの支援策は、数少ない希望の灯に感じられるのだろう。予算額も桁外れに大きく、かなり早い時期から経済産業省が案内を出していることも期待に輪をかけている。

 しかし、待て待て! 人気が高いということは、競争率が高いことを意味する。いくら全体の予算額が大きくても、一社あたりの補助金額も大きいので補助できる企業数には限りがあるからだ。

 補助される企業は先着順ではない。経済産業省の補助金は、申請書に添付する事業計画が審査され、よい事業計画だと認められて採択される仕組みだ。だから、補助を受けようと思うなら「よい事業計画」を策定しなければならない。

 では、何をどのように書けば「よい事業計画」と認められるのか。それを研究していこうというのが、このシリーズだ。電子申請であるとか、認定経営革新等支援機関と一緒に事業計画を策定するとか、補助金額や補助率など制度の仕組みを説明するつもりはない。目的はただ一つ、採択される可能性の高い事業計画を研究することだ。

§1 事業再構築補助金の狙いはどこにあるのか

 採択されようと思えば、まず補助金の趣旨を理解することが必要だ。回り道に感じられるかもしれないが、それが近道である。なぜなら、どんなに素晴らしい事業計画だったとしても、それが補助金の趣旨に合致していなければ採択されないからだ。

 『事業再構築補助金の概要』には、事業目的として次のように書かれている。

ポストコロナ・ウィズコロナの時代の経済社会の変化に対応するため、中小企業等の思い切った事業再構築を支援することで、日本経済の構造転換を促すことを目的とします。

 キーワードは「経済社会の変化に対応」と「日本経済の構造転換」だろう。しかし、この言葉だけでは、何がどのように変化しているのか、どのような構造なのかがわからない。そこで近年の中小企業白書を紐解いて、その文脈を探ってみよう。

 中小企業白書2020年版には、次のデータが掲載されている。

中小企業実態

 事業所数で99.7%、従業員数で約70%だから、わが国は中小企業で成り立っていることがわかるだろう。ところが付加価値額(事業によって生み出された金額)でみると、約53%でしかない。つまり事業所数で0.3%、従業員数で31.3%でしかない大企業が、稼ぎ出した金額の約半分を占めているのだ。

 さらに深刻なのは労働生産性(=付加価値額/従業員数、つまり一人が稼ぎ出す金額)である。このデータから計算すると、大企業826万円、中規模企業457万円、小規模企業342万円である。付加価値額の中から、給料を支払ったり、借入金の返済をすることを考えれば、中小企業の労働生産性はあまりに低いと言わざるを得ない。ちなみに日本全体の労働生産性は国際比較できわめて低位であり、中小企業が多いという意味で産業構造が似ているといわれるイタリアよりも低い(日本生産性本部調査)。

 次に中小企業白書2019年版によると、中小企業の36%は過去10年中5回以上営業赤字であることが指摘されている。営業利益というのは事業本体による利益だから、毎年営業赤字だというのはもはや構造的に事業が成立していないといっても過言ではなかろう。さらに債務超過である中小企業は33%にも上ることが指摘されている。

 では、なぜ構造的に事業が成立していないのか、である。これについては中小企業白書2014年版が「中長期的な社会構造変化が進行中であり、経営環境はますます厳しいものとなっている」と指摘している。そして、その社会構造変化の要因として、人口減少・少子高齢化の進展、グローバル化の進展、デジタル技術の飛躍的発達(表現は変更してある)の三点を指摘している。つまり、中長期的な社会構造変化に適応しなければ、事業の将来性は見込めないと言っていたのだ。

 以上から、次のようなストーリーが見えてくるだろう。

事業再構築により社会構造変化に適応
  ⇒ 付加価値額・労働生産性の向上
⇒ 中小企業の底上げ
     ⇒ 日本経済全体の底上げ

 事業目的にあった「ポストコロナ・ウィズコロナの時代の経済社会の変化に対応」とはこのことである。したがって、補助金狙いの刹那的な事業再構築プランでは通用するはずもない。自社の事業再構築プランが「中長期的な社会構造変化に適応していること」をはっきりと明示することが重要だ。

 これが「よい事業計画」の第一条件である。

⇒ <第2回


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