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R.E.T.R.O.=/Q #4

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評議員コンスタンティン神無月のパンチが衝撃波を伴い、足場ごと私達を吹き飛ばした。

エドが落下しながらバスタードソードで奴の拳を受けている。私は更に遠く飛ばされている。雪崩れ込んだ部屋には大量の書類が舞っている。

ふと、茫然とこちらを見上げる男と視線が交錯した。私は見逃さなかった。彼の姿が光を帯びていることを。頭上にその名が黄金色の文字でホロ表示されていることを。

志穂(シホ)からのサインだ。彼こそが適合者。ジョン・アルバトロス。
思いの外若い。エドと同じくらいか。

「「ハイヤーッ!」」

私とエドは受け身で着地の衝撃を殺しつつ、体勢を立て直す。

奴に悟られずこの民間人を保護して連れ帰る手立てはあるだろうか。敵には彼が光って見えてはいないが、気取られるのは容易い……。

「オリー! こいつの相手は俺がする。お前は撤退しろ。剣使いがレトロに二人と要らないことを証明してやろう。」

結局それしかないのか……! 私は歯噛みした。だがこうなっては一刻一秒が生死の分かれ目となる。
私は適合者に駆け寄ると有無を言わさず片手で担ぎ上げ、背後には目もくれずに駆け出した。

「成る程……その住人が目的か……逃がしはせぬ!」

始まった激しい戦闘音を背後に、私は事務所の扉から《跳躍》した。


◇◇◇


「なっ……おい、あんたは何なんだ!?」

民間人……ジョンといったか……が私の肩の上で喚く。

「あとで説明する! 今は黙っていて!」

《跳躍》に使える扉を探しながら全力疾走する。この街へログインする際には指定座標に直接出現する《ダイヴ》という強引な手段を使うことができる。だが、帰り道はそうもいかない。
《跳躍》を繰り返していると、やがて通路と扉だけが何度も現れるようになる。この状態になれば評議員らは追って来られない。世界の境界が曖昧になるからだ。それを抜けた先が私達の拠点だ。

しかし今は、まだ……!

バァン!
「グアーッ!」

行く先々で壁を突き破り、交戦状態のエドと神無月が道を塞ぐように現れる。その都度私は進路変更を余儀なくされる。撤退ルートを神無月が着実に追ってきており、エドが押し留めている形だ。

エドがバスタードソードを振るう度、その軌跡にフワッと花弁が舞う。緑色の長髪が風圧で靡く。神無月が素手でガードして太刀筋を捌いている。

あの剣は只の剣ではない。至宝《エヴァーグリーン》。評議員に対抗する為の最後の切り札とも言える武器だ。それに、華麗なボタニカル柄のレリーフが彫られた騎士鎧にも意味がある。

評議員は物理法則に干渉でき、事実上無敵の存在だ。しかしこの街ではその力は制約されている。彼らの属する世界よりも一段階下のレイヤーに相当するからだ。
対して私達戦闘員は《心頭滅却術(エンライトメント)》を体得しており、尋常ならざる肉体の剛性、運動能力、動体視力、戦闘技能を身につけている。
加えて、奴らの弱点を我々は知っている。それは自然物への干渉力が弱いという点。私とエドの装備には一見して分からないが、自然物が様々な形で潜ませてある。鎧の意匠もその一部。これこそが私達の第2の対抗手段、《風水術》だ。

理論的には評議員と互角に渡り合えるはず……だった。

だが、緒戦で我々は惨敗した。5人の戦闘員のうち2名が死亡、ジェニファーは一命を取り留めたが手首から先を失った。評議員の戦闘能力は常軌を逸していた。

バァン!
「グアーッ!」

まただ。吹き飛ばされてはすぐに立ち上がり剣を構えるが、目に見えて流血と負傷の度合いが増している。そして相手は未だ無傷……! 《跳躍》に使える扉はすぐ向こうに見えているが、迂回するしかない……だが旋回しかけたその時!

「オリー! きりがない……ここを通ってゆけ!」
「なんですって!?」

エドは煉瓦色のベネチアンマスクの奥で凄絶に笑っていた。

「そいつを連れて行かないと、ここに来た意味がないだろう。」

私にはその言葉で十分だった。彼は何もかもを覚悟している。このミッションを是が非でも遂行するつもりなのだ。涙がこみ上げそうになったが、鋼の心で耐えた。彼も私も、元より命の危険など織り込み済みでここに来ている。

ガキィン!

神無月が割って入ろうとしたが、エドがその拳をバスタードソードで強引に受けた。

「お前にはもう少し遊びに付き合ってもらおうか……行け!

私は駆けた。


【#5へ続く】


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