エッセイをも文学作品化させる町田康の恐ろしいほどのエンタメ性。簡単に言うなら、めっちゃおもろいエッセイ。『テースト・オブ・苦虫3-町田康』【書評】
町田康 著『テースト・オブ・苦虫3』
本著シリーズほどリラックスして読めるエッセイは他にないだろう。そしてクスッ、いやニマッと笑いながら読み進められるエッセイは他にない。
町田康の生き方がそうさせるのか、生き様がそうさせるのか、それともこれこそが文学なのか。自虐の中にも自愛あり。彼の眼には、確かに我々とは違う何かが映っている。
本当のことに、少しばかりの嘘をまぜ、黒中にさらに広がる苦虫の味。「僕は心配性」「極悪なメール」「ミックススタイルで不況をのりきりなはれ!」「真面目すぎておかしいといわれる」「虚実の彼岸」ほか、癖になるエッセイ集第三弾。
数々の文学賞を受賞している町田康。彼の創り出す作品はとても独創的で、他の作家の作品では味わえない読書体験ができる。
その中でもこの『テースト・オブ・苦虫』シリーズ。
彼の何気ない日常を綴ったエッセイなのかもしれないけれど、そこに這う演出でラッピングされた自虐性は、その日々をとても滑稽に語ってみせる。
現実って、別に現実として語らなくていいよね。
エッセイをも文学作品化させる町田康の恐ろしいほどのエンタメ性。簡単に言うなら、めっちゃおもろいエッセイ。
愛好する文学作家が出したエッセイなら好んで読むのもわかる。それはきっととても自然なこと。だって、その作家の日々や思考にもっと触れたいと思うのは当然のこと。
ただ、町田康の場合、仮に町田康を愛好していなくとも、文学作品としてそのエッセイを楽しめる。それほどの破壊力が『テースト・オブ・苦虫』にはある。
パンクロッカーとしての町田康の生き様がそうさせているのかとも思ったが、きっと、文章を書き連ねることへの情念が、エッセイにすらも強烈な虚構のエンタメを注入するのだろう。
本著、町田康の当時の日々を知ることのできる1冊であり、何ら微塵も彼のことを知り得ない1冊でもある。
これをエッセイと読んでもいいのだろうか? と物議を醸すくらいだったら、読了後、読者自らが新たなジャンルを拵えてみるのが妙味なのではないだろうか。
それほどに、斬新で痛快なエッセイ『テースト・オブ・苦虫』。ぜひ、ご一読あれ。
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