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TRPGいきあたりばったり1:『ざつ』に説明する、TRPGの歴史と3つの分岐点

解説:TRPGデザイナー/ゲーム翻訳者/フリーライターの朱鷺田祐介が、TRPGの話をする連載。

 朱鷺田祐介です。「アナログゲームを主戦場にするフリーライター」で1987年秋の「ウォーロック」誌7号がデビューなので、だいたい30年ちょい、この業界にいます。アナログゲームマガジン主催の秋山さんからは「TRPGの歴史」の話をしてください、というオーダーがありました。朱鷺田は、D&D育ちでもないし、国産でもかなり抜け落ちがあるので、俯瞰的にTRPG史を語るつもりはなかったのですが、ゲーム学校の授業で大雑把な歴史を語ったので、その延長線で、すごい「ざつ」なTRPGの歴史を語りましょう。ツッコミ大歓迎。

 このシリーズの前の記事は去年でした(汗)

最初のRPG、D&D

 
 RPG(ロール・プレイング・ゲーム/Role Playing Game)は1974年、アメリカで生まれた「ダンジョンズ&ドラゴンズ」(略称D&D、TSR社)から始まる。

 もちろん、RPGも0から生まれた訳ではない。
 もともと、D&Dの製作者、ゲイリー・ガイギャックスとデイブ・アーンソンは、中世の騎士同士の戦いを再現するアクチュアル・ゲーム(フィギュアを多用するシミュレーション・ゲーム)をプレイしていた。「チェーン・メール」という名前だったと言う。残念ながら、私はその現物は確認できていない。
 そこに、1970年代のファンタジー・リバイバルがやってくる。異世界ファンタジーの傑作『指輪物語』(Lord of the Ring。J・R・R・トールキン原作。ついに映画化され、『ロード・オブ・ザ・リング』および『ホビット』が公開)がペーパーバックで刊行された。さらに、アメリカでは、20世紀初頭に遡るヒロイック・ファンタジーの歴史がある。彼らの念頭には、『蛮人コナン』や『ファファード&グレイマウザー』のような冒険が浮かんでいた。特に、『指輪物語』における地下迷宮の探索を遊びたいと思ったが、シミュレーション・ボードゲームのように公開マップでは探索のスリルがなくなってしまう。だから、「ダンジョンを作る役」を設定し、マップが隠されたダンジョンに他のプレイヤーが挑むという形にした。
 これを、ダンジョン・マスター(DM)と呼ぶが、これにより、TRPGの最大の特徴である「シナリオを用意するゲームマスターと、キャラクターを担当するプレイヤーの分離」が起こる。さらに、DMがゲーム進行、ルールの審判役を兼ねたことで、ルールが肥大化しつつあったシミュレーション・ゲーム参入への敷居をひとつ下げることが出来るようになった。
 加えて、繰り返し遊ぶために、キャラクターの即死を減らすHP(ヒット・ポイント)、成長を扱うレベルと経験点などのRPGの基礎概念がここで明確化された。

 それでも、当初のD&Dは、GMが設定したダンジョンに挑戦するダンジョン攻略型のゲームであった。GMはPCの知恵や運に挑戦するべく、苛酷な死の迷宮を次々作り出した。やがて、GMやプレイヤーキャラクター(以下PC)の演じるちょっとしたアドリブがドラマ性を生み出すことに気づくと、冒険の中身はぐっと深まった。ダンジョン(原意は城の地下牢、または塔)だけに限らず、野外や都市での冒険を扱うようになっていった。

D&Dのブレイク、ウィザードリィの誕生


  D&Dは大ブレイクした。マニアックなシミュレーション・ゲーマーだけでなく、どんどん裾野が広がっていった。例えば、映画『E.T』の冒頭で子どもたちが遊んでいる謎のゲームが、『D&D』である。ダンジョン探索が面白すぎて、リアルに洞窟探検に行き、行方不明になった学生が出るなど、影響は大きいものであった。
 あまりに、『D&D』が好きすぎて、とある大学生が当時最新機種のAppleⅡで「無限にD&Dが遊べるプログラム」を組んだ。3Dワイヤフレームで組まれた10×10マスの10階層のダンジョンに突っ込む冒険が出来るプログラムは『ウィザードリィ』と名付けられ、最初期のデジタルRPGとなる。

 このあたりはゲーム業界の神話に近い話で、当時、コーネル大学の学生でメインフレームで動くゲームを作っていたロバート・ウッドヘッドとアンドリュー・グリーンバーグが協力し、パーソナル・コンピュータで動くゲーム制作したというものだ。『アドバンスド・ダンジョンズ&ドラゴンズ』の影響が大きいが、その後のデジタルRPGに大きな影響を与えたのは真実だ。
 
 数年前、来日した際に、森瀬繚さんが行ったインタビューが4Gamerに掲載されているので、参照されたい。

D&Dの革命


 D&Dに続き、多くのTRPGが誕生した。より深い表現力や広い世界を持つもの、SFやホラー、エスピオナージュ、サイバーパンク、アメコミ・ヒーローものなど、多数の作品が生まれた。D&Dも多くのバリエーションを制作し、業界のトップを走ったが、TSR社から、ガイギャックスが追われるなど時代の変化は容赦なかった。やがて、1990年代半ば、TSRが衰退した際、TCGの元祖『マジック:ザ・ギャザリング』の版元であるウィザーズ・オブ・ザ・コースト社がこれを吸収し、20世紀末に、D&Dの再興を行った。
 これが「ダンジョンズ&ドラゴンズ第3版」で、TCG開発の技術が生かされ、分かりやすい大型TRPGとなった。
 TSR買収当時のウィザーズ社社長であったピーター・アドキンスは『マジック:ザ・ギャザリング』世界大会の打ち上げパーティでこう発表した。
 
「僕らを育ててくれたD&Dを救済するため、TSRの買収を決定した。
 ところで、D&Dで使っていた僕のキャラだが、
 エルフの女性魔法戦士でね…」

 現在でも、D&Dは、アメリカにおいては、若い頃によく遊ばれるゲームのひとつで、ギークの必須教養でもある。

そして日本へ

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