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向精神薬を慎重に減薬して回復することを本気で実践・支援する クリニック花草

ドクターインタビュー 増田さやか医師 (クリニック花草 愛知県岡崎市)


向精神薬の減薬について、多くの患者さんを支援している精神科医の増田さやか医師が2022年4月岡崎市に新しいクリニックを開院しました。開院から2ヶ月あまり、増田医師のクリニックの様子と現在行なっている減薬の具体的な方法である「ミニマム7週法」について説明していただきました。
診療の場に一番必要なことは「希望」であるということをしみじみ感じるインタビューとなりました。


月崎  4月1日に開院した花草クリニックですが、花草は「話そう」の意味も掛けているそうですね。開院から約2か月、どのような患者さんがどんな相談を訴えて来院されますか?

増田  2タイプの患者さんがいらっしゃいますね。多くの患者さんはこれまで別の病院で私が診ていた患者さんです。もう一つは減薬断薬をしたいという人が初診でいらっしゃる場合です。
 当初、私が「初めての人は基本的には診ません」みたいなこと書いてしまったので、「初めてなんだけどいいでしょうか?」というお問い合わせがあったりします。今はまだ平日は余裕があります。土曜日はいっぱいになっていますが。このため「減薬を希望します」という方は状況によらず「とりあえず一回来てみてください」という感じでお受けしています

月崎  やはり薬のことで全国的に困っている方達がすごくたくさんいるわけですね。

増田  そうですね。全国から本当に今九州の人もいらっしゃっていますし、大阪や東京からもたくさんいらっしゃいますね。

月崎  全国からの患者さんにはオンライン診療を取り入れるのですか。

増田  はい。オンライン診療は、「ビデオトーク」というNTTのオンライン通話サービスで行なっています。一度受診していただいてカルテができたらそこからはオンラインで診療ができます。

月崎 オンライン診療の場合は自費になるのですか?

増田 いいえ。オンライン診療は保険診療があるんですね。診療報酬が付きます。
コロナの影響で、実際は初診を対面でしなくてもオンライン診療はできるようなのです。でもオンライン診療の研修というのを受けたときに、対面とオンラインを組み合わせることを推奨していたのでそうしています。患者さんと一回、生身で会うことに価値を感じるんですね。一回ご本人と会ってみるとだいぶわかることもありますね。特に事前に家族相談を受けていて、実際にご本人と会うと全然イメージが違うってことは結構ありますね。

月崎  なるほど家族の持つイメージとご本人が違うイメージなのですね。ところでクリニックの名称にもなっている「はなそう=話そう」なのですが、初診以降の通院精神療法は診療報酬も少ないですよね。一般的には最初の段階で薬が決まったら、あとは薬をコントロールするというのが精神医療の一般的スタイルかなと思いますが、患者さんとの対話を大切にするということで、実際にはかなり長くお話を聞く感じですか?

増田  実際にすべての方の診察時間を30〜40分取れているかというとそうではないんです。でも今は患者さんの数が予想していたよりも少ないのです。以前の病院では私の診察日が週2日でしたが、今は週4.5日仕事をしているので分散していますね。新しい方もそんなに積極的に受けてないので。このため初診だと40分くらい、再診で20分くらいは話せます。とはいえ、もっと短い診察しか受けたことのない人ばっかりなので、患者さんの満足度はそれほど低くはない様子です。「色々話ができてよかった」とアンケートに書いてくださる方もいますね。

月崎  コミュニケーションの満足度は、時間もある程度必要ですが、話の質の問題だと思うのですけれども、診察室ではどんなことを大切にしていますか?

増田 質が高い話をしているとは自分であんまり思ってはいないけれど、大切にしているのは、「病気の話から始めない」っていうところですかね。病院で働いていると、「いつからどんな症状がありますか」と尋ねるのがスタートなのです。しかし、私は、今誰と住んでいるか、家族状況や兄弟のこと、「今まで大きい病気したことありますか?」「女性なら生理はちゃんときていますか?」「朝御飯は何を食べますか?」といったことを、一通り聞きます。病気の質問から始めないようにする対話の仕方だと、例えば「父親が怖い人だった」か「子どもの頃は体が弱かった」「学校で倒れることもあった」といったような話が出てきます。

月崎 ああ、なるほど。今の不調を今起こっていることの詳細な質問を追求していくよりも自分のことを話しやすいのかもしれないですね。いろいろな代替療法を推奨しながら少しずつ減薬を支援していく感じだと思いますが、代替療法はどんな形で紹介しているのですか?

増田 まずクリニックにホワイトボードがありまして、病院や診療所というのは院内に診療する医師の情報や、個人情報の取り扱いといったことなどを掲示してないといけないのですね。それでそういった掲示物に紛れてサプリメントとか健康になるものの情報を掲示しています。「興味のある人はどうぞ」という感じですね。院内で無農薬野菜や天然塩なども販売しています。

月崎 そういう情報が院内にさりげなくあったりすると押し付けがましくなくていいですね。
増田 掲示板に色々貼ってあるので、関心持った人は受付に聞いてね、診察の時に尋ねてね、ということになっています。例えば、落ち着かない子供さんにはこういったサプリがよさそうですなどという感じで、私の勧めるものを写真にして貼ってあったりします。

約8年間の減薬支援を経て改めて思う信頼感の大切さ

月崎 減薬の支援をスタートしたのが前回のインタビューで教えていただいたあの精神
院でほとんどの受け持ち患者さんの薬を少しずつ減らしたっていうところから始まったということでしたが、そこから何年ぐらいたちますかね。

増田 はい。あれは平成26年ぐらいだったと思います。だから8年ぐらいですか。

月崎 この7〜8年、いろいろな経緯があると思うんですが、先生の中で減薬とか向精神に関しての意識で何か変化してきたことってありますか。

増田 そうですねえ。減薬のサポートする側も、当事者もやっぱり広く学んだほうが絶対得だと思うのですね。例えばデパスを減薬したいとすると、デパスの離脱の人のブログなどその薬の経験ばっかり集める人が多いですね。そしてたまたまデパスでうまくいかなかった話などを読むと「デパスは恐ろしい薬だ」っていうイメージがもうしっかり入っちゃって、その一回入ったイメージはなかなか抜けないのです。「全然大丈夫です」というつもりもないけれど、「大丈夫」という安心感を持ってもらい「回復を信じて行こうね」と患者さんには話します。

月崎 安心感や信頼感が大事なのですね。

増田 「やろうと思った人は必ずやれるよ!」みたいな毎回自分のパワーを送る感じって言ったらいいんですかね。それがすごく大事だなって。だから今はやっぱり自分がタフでないといけないなと感じています。減薬の支援を始めた最初の頃は「減断薬するご本人がタフであればいい」って思っていたんですよね。だから「体ができてる人とかは楽に減・断薬やれる」って思っていました。できる人は皆自分でやっていくっていうようなイメージでした。でも減薬はこちらにもパワーがいるんです。それは「離脱症状が怖い」というような意味だけじゃなくて、途中ですごくぶれちゃったりしそうになった時に、「そっと後ろで支えていきつつ、押し上げていく」というようなことがすごく大事。それが「離脱症状を左右してる」と言っても過言じゃないぐらいに感じています。

月崎  なるほどサポートする側の大丈夫感みたいなのがすごく大事っていうことですね。

増田  はい。科学的な問題と言ったらいいのか薬物動態的なこと、半減期ですとか、血中濃度とかそういうところも大切ですが、むしろ私はそこよりも本人の安心感のほうが全然重要であると思ってるんです。

月崎  先生自身は「安全という感覚の大切さ」を以前から言ってらっしゃるかなという気はするんですけれども、ますますそう考えるようになったということでしょうか。

増田  前はそう言いながらも、ものすごく感情的になる人とかを前にした場合、「先生が言う通りにやってきたのに全然良くならない」とか「早すぎたんじゃないでしょうか」みたいなことを言われると、実はちょっとむきになったりしてたんですよね。個人差があったり色々事情があったりするわけだけど。でも今はそうやってどんなにぶれる人でも「励まし続ければ必ず光が見えてやれるようになる」っていう自分の中でもちょっと自信が出てきたのです。
気功をやる人みたいに人に、「気を当ててる感じ」なんです。自分自身、消耗はするんだけれど、でもなんかこう充実感みたいなのがありますね。

月崎  なるほどそういった感覚で行うということですね。

増田 はい。

向精神薬全般の減薬を進めるときのセオリー

月崎  先日、研究会でもベンゾジアゼピン系の薬の減薬の際は力価や半減期などの条件に重きをおく傾向があるのに対し、その他の向精神薬 抗精神病薬や抗うつ薬、抗てんかん薬などは力価や半減期などの要素がベンゾほど重要ではないと考えているとおしゃっていました。増田さんは、ベンゾジアゼピン系だけでなく、向精神薬全般、特に抗精神病薬や抗うつ薬の減薬など、多剤処方の方の減薬にも実績があるということですが、さまざまな薬を減薬する際に、それら薬剤の減薬の順番を決めていくときの指針となる考え方などについておしえてください。

増田  向精神薬の複数の種類を飲んでいて、全体に減薬(断薬)したい場合ですね。まずどの薬から減薬するか。その選択と理由についてお話ししますね。

❶抗精神病薬、抗てんかん薬、気分調整薬、抗うつ薬とベンゾジアゼピン系(睡眠導入剤、抗不安薬)が入っている場合。
➡️ベンゾジアゼピン系薬剤、特に睡眠導入剤を最後に減薬します。
理由① 減薬中、睡眠の確保が大切であるため。必ずしも睡眠導入剤を用いなくても、睡眠の質が保たれている場合(他の代替療法等を用いて)は、その限りではない(本来は、睡眠導入剤を用いるより、自然な眠りの方がはるかに良質な睡眠がとれる)。しかしながら、睡眠導入剤を急いで減らした後に、反跳性不眠が出現することがあり、この反跳性不眠は、普通の人が考える「人間、誰でも、極限になったら眠れる、不眠で死んだ人はいない」というような余裕のある状態ではなく、場合によっては、急激な体重減少、免疫不全などもきたしうるものであることから。
 
理由② 抗精神病薬、抗てんかん薬、気分調整薬、抗うつ薬を減薬した場合に、その結果(つまり減薬のスピードとそれによって起きる離脱症状)は、かなり遅れて生じるから。
先にベンゾを減らした場合、その結果は、減薬の経過中から出現し始めることが多いが、それ以外の薬は、断薬を終えてから数か月後に、ドーンと離脱症状が襲ってくることもしばしばある。特に、複数の種類の薬を飲んでいた場合は、その人の神経系は複雑な状態になっており、いつどの時点でどのような反応が出るか予測できない。したがって、まずはベンゾ以外の薬を、ステイ(減薬を進めない)期間を設けながら、断薬または、必要最小量まで減薬し、そののちにベンゾの減薬計画を立てるべきだと考える。
(ネット上に、しばしばベンゾ単体の離脱で大変だったと書いている人のなかに、その半年前に抗うつ薬を数カ月で断薬した。それほど離脱は出なかった。と書いている人がいるが、抗うつ薬の離脱が、まだその時点で出ていない段階で最後のベンゾの減薬を始めてしまっただけであり、ベンゾ減薬後に抗うつ薬の離脱がかぶってひどくなっている、というケースがかなりある)

❷抗精神病薬、抗てんかん薬、気分調整薬、抗うつ薬の複数種類が入っていて、ベンゾが入っていない場合。
➡️きまった順番はない。長く飲んでいるものをあとにして、最近飲み始めたものを先に減らすことが多い。バインディング(レセプターとの結合)の強さが弱いものは減薬しやすい傾向がある。副作用がつらいものを優先する時もある。

❸ ベンゾのみの場合。
➡️ 私は、ベンゾを2種類以上飲んでいる場合は、睡眠導入剤はあとから。抗不安薬は、1日3回飲んでいる場合は、まず昼を減らし、朝を減らし、夕方のみにする。
ベンゾの血中濃度を一定にするという発想ではなく、逆に、ベンゾがからだに残っている時間帯を夕方から明け方に限定し、日中は、薬の影響を受けない時間帯に持っていくという発想。その方が、睡眠導入剤も少なくて済む。
ベンゾジアゼピンというのは、1本の木に生えた、似たような実を、「これは短時間型の睡眠導入剤」「こちらは長時間型の抗不安薬」などと分類しているが、いったん依存形成された体にとっては別の薬剤という認識はされにくい。だから、ベンゾ系の睡眠導入剤が効かなくなっている場合、他のベンゾ系薬物に変えても、寝れるのはせいぜい2,3日。それ以上経つと、「なーんだ、また似たようなのが入ってきた」とバレてしまう。しかも、日中は抗不安薬としてベンゾを使い、夜は睡眠導入剤としてベンゾを使った場合に、日中は、これを飲んで寝ないようにしなければならず、夜は似たようなのが入ってきて寝なければならないとしたら、脳はそんな器用なことはできない。したがって、日中から、ベンゾが一定濃度で入っている人は、睡眠導入剤の効果が非常に得られにくい。そのため、私は、睡眠がうまくとれていない人は、日中はベンゾが抜けているように、朝、昼はベンゾを体に入れない、という形にするのが良いと思っている。

ミニマム7週法による減薬


月崎
 ベンゾの入っている多剤の場合、ベンゾの入っていない多剤の場合、ベンゾだけの場合と 3つに分類しての説明ありがとうございます。では、これらの服薬タイプごとに、順番を決めて薬を1剤ずつ減らしていくということですね。ではその実際の減薬の頻度や量。ペースについてなのですが。現在はどのように行なっていますか?

増田 はい。私の方法は以前から隔日法と呼んでいるやり方です。最近私は7週法と呼んでています。

例えば1錠の薬を4分の3に減らすとします。以前はまず
①1剤を8分の7にする。
②次は8分の6(4分の3)にする
といったように刻み方を少なくして減薬する方法でやっていました。

現在は 8分の7を経てもいいし、経なくてもいいんですが
①1剤を4分の3にする日を週1日だけ作る
②次は4分の3にする日を週2日
という方法を使っています。

この方法ですと、毎週4分の3にする日を1日だけつくるので、それが増えていくと
最短7週間かけて、1剤の薬について毎日の量が4分の3になります。
1週間で次の量に進む人、2週間で次の量に進む人などがいます。

月崎 これはベンゾだけでなく抗精神病薬についてもと同じ方法をとると考えていいですか?

増田 はい、特に抗精神病薬の場合には3週〜4週間かけて次の段階に進む人もいます。

月崎 薬の種類にかかわらず、1剤を4分の3にするのに最低7週間かけるということすね。

増田  そうです。だから次のステップである1剤の2分の1、つまり1剤を半分にするには最低14週間が必要です。この方法でさらにそれをゼロにするには最低28週が必要ということになります。28週はつまり7か月ですね。1剤の薬がゼロになるのに約7か月かけるという方です。

月崎  なるほど、これはゆっくり減薬する時の1つ有効な方法ということですね。

増田  そうですね。例えば、この、パキシルを30mgから20mgにするまでの減薬計画表は、パキシルという薬が20mg錠と10mg錠(今は5mg錠もある)があるため、その2つの錠形を用いて、減らしていく際のスケジュールです。このスケジュールは、ビジネスマンの方ように考案したもので、金曜日の夜に減薬開始するというのがベースになっています。

夕食後のパキシル(パロキセチン)30mg〜20mgまでの減薬方法

錠剤(例えばレキソタン2mg)の減薬(1錠から2分の1錠まで)

・先に進むペースは、この表では1週間ごとになっていますが、平均的には2週間で先に進む形です。抗精神病薬などでは、3週間または4週間で先に進むペースにすることもあります。
 
・睡眠導入剤や抗不安薬などでは、ステイ(減薬を進めずに、一定の量でキープする)期間を、もうけないほうがうまくいくことが多いです。それ以外の薬(抗精神病薬、抗うつ薬、気分調整薬など)では、たとえば半分量まで来た時に、2~3か月程度のステイ期間を設けるのが安全です。
 
・減薬計画表は、ご本人、治療者、薬剤師が共有しています。計画表通りに進むことが大事なのではなく、ご自分のペースで前に進むようにします。気持ち的に、あるいは体調的に不安な時はステイするようにします。たとえ週1日でも減らせていることが大切なのです。

減薬に関する気持ちの安心と減薬作業の簡易さ

月崎  詳しい説明をありがとうございます。規則的に微量ずつ減薬する方法ですね。なぜこの方法に行き着いたのですか?

増田  昔、減薬という治療をスタートしたころに、サインバルタのようにカプセルの薬や、バルプロ酸や炭酸リチウムなど血中濃度の急な上昇を防ぐため分割不可となっている薬で、この方法を使い始めたのです。その後、この方法を、抗精神病薬、抗うつ薬のほか、ベンゾジアセピンや他の薬でも試してみました。その結果この方法が、途中で脱落してしまう患者さんが一番少ないように私には思えるようになりました。

月崎 「患者さんが脱落する」という意味は、離脱症状がきつくて続けられなくなるという意味ですか?

増田  ええ。確かに離脱症状のきつさという難しさもあります。しかし辛くて減らして飲むことに脱落するというよりは、細かく砕くこととか、正確に計って飲むとか、水溶液にするにしてもその細かな作業を毎日継続する難しさに脱落しちゃう人も少なくないという意味です。

月崎  なるほど、それはあるかもしれませんね。患者さんは体調が悪く判断力が弱っていたり、手先がうまく使えなかったりする方も少なくないですね。体が不自由な方もいらっしゃいます。先日インタビューした眼科医の若倉雅登医師は、向精神薬による眼瞼痙攣などで目が不自由な方の場合は、水溶液減薬やドライカット法などにしても減薬の作業を本人がするには難しすぎるし、薬剤師への指示も難しいのでなかなかできないと指摘しています。

増田  そうですね。そして何よりこの方法でメリットが大きいのは、この方法だと最初に減らし始めた時点で次の日は必ず元の量を飲むという点なのです。

月崎  といいますと?

増田  最初に減らす日はたった1日だけという点です。そこがスタートの安心感につながっているみたいです。例えば計画表のように4分の3にする日を金曜日にすれば、週末の土曜日には元の量が飲めるので安心といった感じになります。

月崎  減薬を始める方は、薬なしの状態に不安がある場合が多いので、最初に安心感を担保するということですね。

増田  はい。患者さんは皆さん敏感です。だから4分の3にした時に、「今日はちょっと眠りが浅かった」とかそういう風に感じるわけです。そこで1日だけ少し減らしてみたけど、翌日はまた元の量を飲むと落ち着くというのを体験できます。

月崎  なるほど。減らしてもし影響がでても翌日リカバーできるという体験を体に覚えさせるのですね。もし1食抜いてお腹が減ってもあとで食べられるから大丈夫だ😙みたいな感じかな。

増田  この時に「ここでせっかく4分の3にして、もう一日大丈夫だったから、翌日も4分の3でやってみよう」とか考え、毎日4分の3を続けた結果、しばらくして、具合が悪くなり、「減らすペースが早すぎた。これ以上はもうできない」と後悔しちゃって続けられずに元に戻ってしまうなんてこともあると思うのです。でもこのやり方だと4分の3にした次の日は必ず1剤(元の量)に戻るわけです。

月崎  本当にゆっくり、そおっとの進め方ですが。患者さんの安心感という点で確実そうな感じがしますね。

増田  そして1週間のうち1日だけ4分の3にするのを、次は週のうち2日間だけ曜日を決めて4分の3にするという状態を延々と続けるわけです。

月崎  その際、増田さんには患者さんにはどんな説明をするのでしょうか?

増田  はい。患者さんには「減薬って、まず体が薬ちょっと少ないぞと感じるだけでいいんだと」とお話するんです。最低7週間なので、あるドクターが、「ミニマム7週法と呼んだら」と提案してくれました。

月崎  「ミニマム7週法」の強みは、患者さんが自分のペースで判断して利用できるということですね

増田  ええ、そうですね。次のステップに進むかどうかを決めるのは患者さんのぺースです。患者さんが自分のペースを計算して、これだと私の断薬までには2年○か月かりますと教えてくれたりします。

月崎  時間をかけた減薬方法としては、毎日パーセントを計算し測ったりして微量ずつ減らすという漸減法も当事者の方に支持されている方法ですが、このミニマム7週法は、漸減法と隔日法を組み合わせたような感じですね。この方法で最初から慎重に減薬を行なって大丈夫であれば、手間も少なく魅力的な方法ですね。とはいえ、やはり薬の管理は患者さんの意思にゆだねられる感じですね。

増田  ペースは患者さんの主体性に合わせますが、薬の調整は私が責任をもって処方箋を書きます。その際、私は薬局にオーダーを出して分量の異なる薬AとBの袋を作ってもらうようにします。例えばA袋は1剤の4分の3 B袋は1剤そのままというように。そして「今週は金曜日だけA袋を飲んでね」と患者さんにも説明し、前掲の減薬計画表も患者さんと薬局両方に渡します。

月崎  なるほど。段階が進めばもちろん処方箋も飲み方の指示も変わるわけですね

増田  はい。段階が進んだら「火曜と金曜日はAの袋を飲んでね」といった指示になるので患者さんにとっても、比較的簡単だと思います。

月崎  簡単な方法にするということも、とても大事ですよね。

調剤薬局の薬剤師さんを減薬の見方につける

増田  この方法のもう一ついいところは調剤薬局さんを味方につけられる点です。調剤薬局さんにも私はこの減薬計画表を渡しています。そうすると本人が例えば、飲み方がよく分からなくなった時とか、「ちょっと足りなかった」というような時に、薬剤師さんが答えてくれることもあります。私が時どき、処方の計算を間違えたりすることもあるので(笑)薬剤師さんが頑張ってくれたりするんですね。

月崎  みんなを味方に付けてチーム医療で減薬するのはよい方法ですね。

増田  私が完璧でないから、だから患者さんも薬剤さんに聞きやすいのです。薬によって計算が難しいものもあるので薬剤師さんが一緒にやってくれるのでとても助かります。

月崎 これまでにも隔日法という考え方で減薬を支援するということはあったと思います。
例えば2013年に発表された抗精神病薬を減薬するSCAP法ですね。 SCAP法と増田さんの7週法は、タイムスケジュール的にはよく似ていると思いますが、機械的に行うのではなく、常に患者さんの安心感を担保し、患者さんの主体性をベースに行うという点で、医師と患者さんの関係性が異なるという印象を持ちました。

ベンゾジアゼピンとその他の抗精神病薬の違い

月崎 ベンゾジアゼピン系の薬についてはアシュトンマニュアルなどで半減期の長いもに置き換えるジアゼパム 換算が推奨されていますが、これについてはどういう風に考えていますか?

増田  私は今服薬している薬をそのまま、微量ずつ減薬することが多いですね。ベンゾジアゼピンのジアゼパム 換算はそれがその人にとって凄く合うとか置き換えて楽だったっていう人にはすごくいいと思いますが、個人的にはそんなに好きではありません。でも昨日来た新しい患者さんで大量服薬していた抗うつ薬をジアゼパム に置き換えたという方がいました。その方の場合はすごくうまくいっていましたので、そういった例もあると思います。

月崎  ベンゾジアピンに微量な減薬方法が必要なことは最近確立されてきた感がありますが、抗精神病薬や抗うつ薬、抗てんかん薬などについても、このミニマム7週法を使って減薬できると考えてよいのでしょうか?増田さんは同じペースでゆっくりゆっくり減らしていけば可能だという風に考えているということですよね

増田  抗不安薬や睡眠薬などベンゾジアゼピン系の薬は減らす量について、例えば1mgを0.9、0.8と慎重に減らし、0.5あたりからは、0.05ずつにするとか、そういう細かさは必要ですが、例えば0.7のところで3ヶ月もステイするなどは、基本的にはやっていないのです。

月崎  そうなのですか。

増田  これに対して抗精神病薬などについては、この長期的なステイが必須だっていう気がしています。例えばまず4分の3になったぐらいの時とかに、とても慎重になります。これは薬によって違います。例えばエビリファイみたいに最後の最後でドカッと影響がでるような薬の場合は、もう半分位まで減らしたあと、そこから3カ月ぐらい減薬をしないステイ期間を長々ともうけることが多いです。

月崎  私の周辺でも抗精神病薬の減薬については、最初はとても快適に進むようにみえて、ご本人も慎重にゆっくり減らしていて、体調がよくなったと言っていたはずが、半年後ぐらいに、連絡がないなと思うと再発してしまって強制入院になっているというような方も何人か知っています。

増田 私は統合失調症の方のその状態も、実は再発ではなく離脱症状の一つだと思ってるんです。

月崎 そうなのですか。減薬をしている時期と症状がでる時期の間が長いため「薬をやめたから、やはり再発してしまった」という従来の説明に納得していたのですが。

増田  抗精神病薬は特にだと思いますが、減薬を始める最初の1〜2カ月ってものすごくどんどん元気になることが多い。これは、薬が抜けたためというよりは、先に副作用が抜けていくためだと私は考えています。筋肉が重たいとか、思考がすっきりしないといったような薬のもつ嫌な面が先に消えてくれるという特徴があります。

月崎  なるほど。それは、少し減らすとすぐ体調が悪くなりやすいベンゾジアゼピンとは反対の特徴ですね。

増田  はい。このため、「これはいい調子だ。やっぱり俺はこんな薬は元々いらなかった」とかって感じる。ところが抗精神病薬の減薬の場合は副作用でなく作用のほうの影響が遅れて出てくるのですね。やっぱり脳の中の恒常性―ホメオスタシスみたいなものが働いていて、それがだいぶ変化してきた時にドカンと変化が起こるのかなっていう気がしています。タイムラグみたいなものですね。それが離脱症状だってことが分かれば、例えばいったん前の三段階前に戻そうという方法が使えます。その場合はなんとかご本人に説得するようにします。ご本人は嫌がりますけどね。
「もちろんせっかく減らしたのに今戻すのは悲しいし悔しいのはわかる。だけど、入院はいやだよね」と説得し、それで三段階ぐらい前に戻したりします。

月崎  抗精神病薬について離脱症状という概念を否定して、病気の再発とされてしまい、入院して再びドカーンと多剤処方からみたいなことの繰り返しをする場合は少なくないですね。医師が、離脱症状であることを認めて、患者さんと率直に話し合い、サポートする体制がないことが問題のように思えます。私自身躁鬱病の家族の立場で、何回も経験知れいますので、一旦急性期になってしまうと患者さんを説得するのがなかなか難しいのだとは思いますが。

増田  そうですね。今が薬を戻すタイミングとしたら二段階前、とか三段階前だっていうことに寄り添えるという関係がないと。自分の記録を見ながら、これくらい戻せばいいかな、このくらいの時に行動が安定してたかなとか、そういう感じで診ます。それでは足りないこともあるし多すぎることもあるわけですが。

月崎  でもその記録を医師が持っていてくれて、「ここかな?とか、この辺の量に戻してやってみよう」という風に本人と話しながら過去の情報を持った方が伴走してくれてるかどうかっていうのは大事ですよね。当事者は混乱して分からなくなっている場合も多いとは思いますが。ベンゾジアゼピン系の薬は一人で自分と対峙しながら減薬している方もいるけれど、抗うつ薬や抗精神病薬には信頼でできる専門家がより重要なのだなと感じました。

増田  はい。

月崎  最後の質問ですけれども、向精神薬の影響で、ジストニアやジスキネジアや眼瞼痙攣など目の病気を発症したり、横紋筋融解症のようになったり、ひどい線維筋痛症の痛みで苦しんでいる方がいます。想像を絶するひどい状態になって動けなくなっている方々にも出会います。どうしたらいいとお考えですか?

増田  もし患者さんが、その状態を薬害だと思ってるなら、お薬で解決を求めても難しいでしょう。西洋医学には、必要な答えがないっていうことだから代替療法、何でもいいから色んなものをチャレンジしてみてほしい。
ずっと絶望の淵にいて「もう私は駄目だ」とか「あそこからこんな風になっちゃった」という後悔することだらけだと思うのです。でもなんでも「えいっ」と騙されたと思って試してみてっていう感じです。ちょっと変わった施術をする人とか変わった治し方をするのを信じて、やってみてはどうかと思います。そういうそういったタイプの施術家さんって探せば全国にたくさんいらっしゃると思うんですね。そういった方法の中から良さそうなものを紹介するというようなことも私はしています。

月崎  そうなのですね。新しいクリニックでは色々な可能性を提示することが特徴なのですね。それについては「訳の分からないことをいろいろやってるみたいだよ」っていう言い方をする人もあると思うんですけれども。なんでも試してみようの精神なのですね。サウンドセラピーというのも始めるとお聞きしています。

増田  はい。私が一番嫌なのは、患者さんに対して、医者や施術する人が「これはね一生治らない病気だよ」とか「一生病気と付き合っていくんだよ」みたいなことを言ってしまうこと。そういう場には絶対答えはないと思うのです。
例えば、オトトロンというサウンドセラピーは以前試していて、10人中3人ぐらいがすごくよく効いて、残り4人ぐらいが「まあまあなんとなく効く」といい、のこり3人は全くわかりませんというくらいの成果でした。今回取り入れようとしているのは同じサウンドセラピーでもマナーズサウンドというもので、その5〜6倍パワーがあるのです。私自身のひどい五十肩も5分間ほど当ててもらっただけで手が自由に動くようになったのです。だから効果はあると思います。

月崎 実際、増田さん自身もいろいろも試しているのですね

増田 ええ。何か一個でも患者さんにヒットするものがあればいいといろいろやってみ
います。色んなものを用意するっていうことに価値や希望があると思います。

月崎 はい。本当にそうですね。長時間ありがとうございました。

増田さやか医師が向精神薬の減薬を開始した経緯などを紹介する2019年のインタビューはこちらをお読みください。
   ⇩
https://note.com/tokio_tsukizaki/n/nff01a51e1c16

プロフィール
増田さやか


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