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23時45分の音

寝床に入り、眠りにつくまでの間、ぼんやりと、窓からの音を聴いている。

ガタンガタン  フオーーーー・・・・  

毎晩同じ時刻に、遠くからこの音がする。

「亀戸線の音だ。」夫が言う。

                   ***

亀戸線は、路線距離 3.4 km、駅数 5 駅という、とても小さな路線。
2両編成の列車が、東京・墨田区の曳舟駅 - 江東区の亀戸駅間を往復する東武鉄道の鉄道路線である。

亀戸に引っ越してくるまで、この路線の存在を私は知らなかった。

新小岩で生まれ育った美容師さんとの雑談中に、まあまあ近所だし当然知っているものだと思い込んで亀戸線の話をしたら、「え?なに?亀戸線っていう路線があるの??」と驚いていた。

世の中的にも、結構ローカルな存在?なのでしょうか。

亀戸線は、トラブルで遅延や停車しているイメージがあまりない。なのであまりニュースにもならない。
いつも淡々と、2両をせっせと走らせ、多少の雨風にも負けずに行ったり来たりしている姿しかみかけない。

一応、朝のラッシュ時には混雑しているようだが、日中は、平日も土日も、のんびりとした車内。

都内の列車で、こんなに人がいないっていう奇跡。

私は、だんだん、この小さな路線が健気で可愛く思えてきた。
鉄道好きの夫からすると、全ての列車に人格を感じるらしい。
私も夫の影響を少しずつ受けているのかもしれない。

                   ***

ガタンガタン  フオーーーー・・・・  

「ねえ、なんでこれが亀戸線の音だって分かるの?」
夫に聞く。

「亀戸線の列車の1つが、夜、亀戸駅に帰ってきて寝てるんだけど。
普段使ってないホームの方に入って寝るから、線路のサビで音が鳴る。」

「毎晩、23時45分に音が鳴るの。亀戸線の“おやすみなさいの音“だよ。」


なるほど・・・
鉄道好きとはいえ、いつどこでその情報を仕入れるんだろうかと感心しつつ、あの音が、“おやすみなさいの音“だと説明する夫の世界観が愛おしくなった。

今晩も、おやすみなさいの音を聴いて、私も目を閉じよう。
亀戸線、今日も一日ご苦労さまでした。


最後までお読みいただき、ありがとうございまいした。
それでは、また。

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