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妻の選択

今回のテーマ: アメリカにあって日本にないもの
by 萩原久代

写真:キッチン。左が食器洗い機、右がオーブン。
 
ニューヨークから久しぶりに日本に戻ると、なんで日本にはないの?ということがある。いろいろあるが、心にひっかかる2点を提起したい。
 
ひとつ目は、アメリカの普通のキッチンに付いている食器洗い機だが、日本ではあまり見ないことだ。去年、日本で友人の新居にお邪魔してびっくりした。ピカピカに新しいキッチンに食器洗い機がなかった。
 
日本の食器洗い機の普及率は3割程度だという。独立卓上型がそのうち3分の1くらいで、あとはビルトイン型だそうだ。一方、アメリカではビルトイン型の普及率7〜8割といわれる。マンハッタンの賃貸アパートのキッチンには大抵はある。それで私はすっかり慣れてしまった。
 
ただ、食器洗い機の普及率の低さは日本だけではない。例えば香港。香港も「ウサギ小屋」に近い住宅事情だ。狭いキッチンに食器洗い機のついたアパートはほとんどない。香港の家電量販店で販売されている食器洗い機種も少ない。
 
しかし、香港で自分で皿洗いをする香港人は少ないと思う。というのは、多くの家庭でフィリピン人かインドネシア人の住込みヘルパーを雇っており、皿洗いを含む家事は一切お任せだからだ。人口約900万人の香港に、40万人ほどの外国人ヘルパーがいる。知り合いの香港人でも、雇ってない人のほうが少ないくらいだ。
 
ヘルパーのいない私にとっては、香港のアパートにも食器洗い機が必需品だ。そこで昨年、古いキッチンをリフォームして、45センチ幅の小型食器洗い機を入れた。流し台で洗い物をほとんどしなくて済むので小型サイズのシンクにして、一体型ガスコンロオーブンのスペースも確保して並べた。(上の写真) 
 
食器洗い機には大幅な時短効果がある。節水メリット、さらに衛生上も優れる。初期投資は必要だが、私の経験では20年以上の寿命がある。日本の経済産業省サイト(https://www.meti.go.jp/statistics/toppage/report/minikaisetsu/hitokoto_kako/20211209hitokoto.html)でも、「家事の強い味方、食器洗い機」と時短効果を謳っているくらいだ。食器洗い機の利用は、妻の賢い選択!
 
食器洗い機とは全く次元の違う話なのだが、2点目は逆に妻の選択が存在しない話について触れてみたい。
 
アメリカでは夫婦で苗字が違うことがよくある。夫の苗字と妻の苗字をハイフンでつなげて新しい苗字にする、といった選択肢もある。なぜ日本では結婚後に夫婦別姓という選択肢がないのか。なぜ法的に結婚相手への苗字変更が強要されるのか。
 
日本における夫婦別姓の議論は1990年代からあったが、今も事態は変わってない。結婚相手の苗字に変えたければ、これまで通りに変更すればいい。アメリカだって夫の姓に変更する人は沢山いる。でも選択肢が全くないって変じゃない?
 
実は、私は結婚後に日本において法的に夫婦別姓が可能という選択肢を得た。日本の戸籍もパスポートもすべて自分の苗字だ。非日本人と結婚したからである。外国人には日本戸籍がない。それで夫婦別姓が、日本における国際結婚の法律上の標準となっている。国際結婚すれば夫婦別姓が普通って、これもまた変じゃない?
 
私は父親の戸籍から抜けて、自分の苗字で新戸籍を作成して戸主となった。その際、自分の苗字を夫の苗字に変更することは可能だったが、別途その変更手続きが必要だったし、カタカナ苗字への変更にも抵抗もあったからその選択をしなかった。
 
夫婦別姓は戸籍制度にも関わる問題だから面倒なのはわかる。しかし、そもそも戸籍制度をそのまま続ける重要性と必要性があるのか。むづかしいことはさておき、妻の選択はあらゆる場面であったほうがいいと思う。人生に選択肢が色々あることはいいことではありませんか。
 
 
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萩原久代
ニューヨーク市で1990年から2年間大学院に通い、1995年からマンハッタンに住む。長いサラリーマン生活を経て、調査や翻訳分野の仕事を中心にのんびりと自由業を続けている。2010年からニューヨークを本拠にしながらも、冬は暖かい香港、夏は涼しい欧州で過ごす渡り鳥の生活をしている。コロナでそのリズムが狂ってなかなか飛べない渡り鳥となっている。

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