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アメリカン・スシ、どこに行く?

今回のテーマ:ニューヨークの中の日本文化
by 福島 千里


寿司という食文化がニューヨークに根づいて久しい。ひと昔前であれば、「あー、ぼちぼち日本のお寿司が食べたい」と渇望していたものだが、ここ最近はそんなぼやきもだいぶ減った。なぜなら今では寿司へのアクセスが格段に楽になったからだ(本格的な日本の寿司か、アメリカナイズされたスシかどうかは別として)。

街を見渡せば、デリや食料品店ではパック詰めされた簡単な寿司が売られ、ランチやスナックとして人気だ。一方、一専門店などでは飲食産業激戦都市ニューヨークの名にふさわしい一流店が職人自慢のOmakaseコースで美食家たちを惹きつける。要するに、安い寿司/スシから高級寿司まで、その選択肢の幅は実に広がっており、アメリカ、とりわけニューヨークにおける寿司全体のクオリティが年々底上げされてきていると感じている。

とはいえ、ここまでの道のりはそう簡単なものではなかったと思う。寿司黎明期には、「魚を生で食べるなんて」「口に入れるものを素手で握るなんて(←シャリのこと)」といった敬遠の声が上がり、巻き寿司にいたっては「海苔? なんだか紙を食べているみたいで好きじゃない」と、ピシャリ。ちなみに、これを受けてアメリカでは海苔を内側に、ご飯を外側にした裏巻きという巻き寿司が誕生したという逸話がある。

しかし、そんな中でも寿司はこの国に暮らす人々の趣向に沿い、今日の寿司/スシ文化圏を築き上げた。メニューを見ても、表記は単なるSushiに止まらない。Nigiri(握り)、Roll(巻き物)、Hand-Roll(手巻き寿司)、Chirashi(ちらし寿司)、Inari(稲荷寿司)などのより細かな表記も増え、より寿司に対する認知度が深まっていることがわかる。

とりわけ、目覚ましく進化したのは巻き物を中心とした創作スシだろう。15~20年ほど前は目新しかった以下のスシも、今日では”アメリカン・クラシック・スシ”としての位置を不動にしている。皆さんはどれだけご存じだろうか?


カリフォルニア・ロール
アボカド、カニやカニカマ、きゅうりを巻いたカリフォルニア発の元祖アメリカン・クラシック。

フィラデルフィア・ロール
サーモン、アボカド、クリームチーズを巻いたもの、ペンシルバニア州フィラデルフィアはクリームチーズ・メーカーの老舗ブランドでもおなじみ。具材がちょいと違うが、日本の公式HPにはこんなレシピも。元々はスモークサーモンを使っていたそう。ニューヨークには、スモークサーモンとクリームチーズ/シュミアー(Schmear)をベーグルでサンドしたロックス(Lox)というサンドイッチが人気だが、そこから派生したメニューという説も。

スパイシー・ツナ
ピリ辛唐辛子とラー油(場所によってスパイスの効いたマヨネーズやタイのシラチャー・ソース)でツナのたたきを和えた巻き物。発祥はWikipediaやその他のソースによると、80年代のシアトルで、日系シェフがマグロの残り身を使ったことが始まりらしい

ボストン・ロール
エビ、アボカド、キュウリまたはレタス+マヨネーズを使ったさっぱり目の一品。ここにサーモンを加えると、アラスカ・ロールになるのだとか。

シアトル・ロール/サーモン・ロール
スモークサーモン、きゅうり、アボカドを巻いたシンプルなスシ。北洋漁業の基地があるワシントン州シアトルは、サーモンが有名!)

ラスベガス・ロール/フライド・天ぷら・スシ
チキンもしくはサーモン、アボカド、チーズの巻き寿司に衣をつけ。油で揚げた天ぷらスシ(もはや別の食べ物)


レインボー・ロール
裏巻きにしたカリフォルニア・ロールの外側を、ツナ、ヒラメ、サーモン、スライスしたアボカドなどで巻いた実に手が込んだスシ。まさごを散らすこともある。虹のごとく彩り豊かで、一口で色々味わえる、とにかく巨大なロール。

スパイダー・ロール
ソフトシェル・クラブ(脱皮寸前の柔らかい甲羅を纏ったブルークラブという蟹。殻が柔らかいので丸ごと食せる)の天ぷらを丸ごと一匹豪快に巻いたスシ。左右からはみ出た蟹の手足が蜘蛛を彷彿とさせることからその名がついたらしいとかなんとか。アメリカ東海岸では5~9月が国産の旬だが、ベトナム産などの冷凍物も出回っているので、通年楽しめる。

他にもドラゴン・ロール、ハワイアン・ロール、メキシカン・ロール、キングクラブ・ロール、ゴジラ・ロール、テキサス・ロール、メキシカン・ロール・・・などなど、そのうちアメリカ全州のご当地ロールが誕生するのではないかという勢いで、巻きスシは今も順調に進化し続けている。

なお、スマホ人口が激増した近年は、片手で食べられるHand-Roll(手巻き)の人気が高まっているらしい。そして物価高という点では、スシから派生して、おにぎり(Onigiri)も脚光を浴びている。高額な握りより、気軽に買える巻物。おにぎりはそれらよりもさらにコスパが良く、材料がシンプルで満腹度も高い。日系スーパーやベーカリーのみならず、中国や韓国系スーパー店頭でも、日本のコンビニにあるようなおにぎりが並んでいるのだ。

Omusubi Gonbei
日本でおなじみのおにぎり専門店。現在は、フランス&北米で展開中。ちなみにニュージャージー州にある日系スーパーMitsuwa内にある店舗は、昼食時・週末になるとおにぎりを求める列ができていることも。

Yaya Tea Garden
マンハッタン区チャイナタウンにあるバブル・ティー専門店。ここではおにぎりはスナックとして提供。

さらにはこのおにぎりに続いてOnigirazu(おにぎらず)も着々とその名を広げつつある。“スシ・サンドイッチ”もしくは“オニギリ・サンドイッチ”として紹介されているおにぎらずだが、マンハッタン区イーストビレッジには抹茶とおにぎらずの専門店までオープンしている。

Tokuyamacha &  Onigirazu Bar

寿司からスシへ。日系移民や職人が作った日本食の新しい形、そしてそれを受け入れ、さらにおもしろい文化へと引き上げていったニューヨーク、もといアメリカの多様性。美味しいものと新しいものが大好きが人々が世界中から集まるこの街で、アメリカのスシはいったいどこに向かっていくのか、ワクワクしながら見守っている。xxx


【 トップの📷 】
結婚記念日!ということで、行きつけの店で寿司をテイクアウト。握ってくれたのは、東京で修行したという韓国人シェフ。四半世紀前に比べ、日本の寿司/アメリカのスシは、かなりニューヨークの食文化に浸透したなぁと思う。


◆◆福島千里(ふくしま・ちさと)◆◆
1998年渡米。ライター&フォトグラファー。ニューヨーク州立大学写真科卒業後、「地球の歩き方ニューヨーク」など、ガイドブック各種で活動中。10年間のニューヨーク生活の後、都市とのほどよい距離感を求め燐州ニュージャージーへ。趣味は旅と料理と食べ歩き。園芸好きの夫と猫2匹暮らし


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