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緑が眩しい季節

テーマ: 私の一押しニューヨーク
by 福島 千里

「ニューヨークで一番おすすめの季節は?」

以前の私なら、その問いには迷わず「秋」と答えていただろう。でも、今ならその答えは5~6月、すなわち「初夏」だ。

日本同様に四季があるニューヨークだが、基本的にどの季節も魅力的だ。街が最も活気的になる夏、趣ある冬、そして長い厳冬の終わりを告げる春。その中でも、鮮やかな紅葉に彩られる秋は最もニューヨークらしいと、少し前までの私は思っていた。

心境の変化はパンデミックがきっかけの1つだったと思う。長い巣篭もり生活の中で、庭や近郊の山々の自然と触れる機会が一気に増えたせいか、ニューヨークという大都市において、植物を見る目が明らかに変わった。

四季のある気候帯において、初夏は最も草花が鮮やかに生い茂る季節だ。

3月下旬から4月にかけ、東海岸一帯には穏やかな雨がひたすら降り注ぐ。厳冬に耐え抜いた植物が再び芽吹くための、なくてはならない命の雨だ。5月に入りやがて雨が止むと、季節の変化は一気に加速する。枯れ木ばかりだった公園や街の街路樹が芽吹き、日々、上昇し続ける気温に応えるように黄緑色の若葉を茂らせる。曇りがちだった空はすっきりと晴れ渡り、時おり汗ばむほどに照りつける太陽を見上げるころ、ニューヨークはいよいよ初夏に突入する。

加えてこの時期のニューヨークの気候は極めて快適だ。日本では梅雨に相当するが、同じ気候帯(温帯湿潤)に属しながら、ここでは過ごしやすい低湿度の天候が続く。今年は例年に比べて春の雨が長引いている印象だが、じきにそれも落ち着くだろう。日によってはカリフォルニアのような爽やかな時もある。これが7~8月になると高温多湿になってしまうが、蚊も少ない5〜6月であれば、ピクニックも屋外BBQも最高だ。

近年のニューヨークでは、市の政策や非営利団体、民間企業の試みによって街のいたるところで緑化が進んでいる。市民のオアシス「セントラルパーク」といった大型の公園はもちろんだが、旧高架線跡を活用した空中庭園「ハイライン」や川沿いの土地を活用したパブリックスペース、ビルの屋上などスペースが限られたところでも、植樹やガーデニングによる緑化が積極的に行われているのだ。

それゆえ、初夏になると街中の緑がいっせいに生い茂り、花々が咲き乱れる。こんなコンクリートだらけの街にあろうと、世の中で何が起きようと、誰が教えるわけでもなく、自然の摂理に従って同じ季節に何度でも生い茂る植物たちの健気さと逞しさは、この上なく頼もしく、そして尊く感じられるのだ。

けれども、そんな最推しの初夏にも難点が1つある。

それは花粉だ。この時期、この一帯には西部から大量の植物の花粉が飛散するのだ。日本にいたころはアレルギーなどとは無縁だった私が、こちらに住むようになってからは毎年花粉に悩まされている。外出しようと自家用車のドアに手をかけた瞬間、真っ白な車体が一面黄色い花粉で覆われているのを見て急に息が詰まりそうになる(薬でちゃんと対応しているけれど)。

こんな具合に、ちょっとした難点はあるけれど、ニューヨークの初夏は、一年で最も清々しく、植物の逞しさを実感できる季節だ。海外渡航が容易になったら、ぜひ新緑のニューヨークにも遊びにきてほしい。

📷(ヘッダー):2021年にミートパッキング地区にオープンした緑地帯「リトル・アイランド」。ハドソン川上に作られた人工島で、島内には四季折々の草花が咲き乱れる(撮影は2021年8月。5〜6月にはより色とりどりの花が咲く)

📷:ブライアントパーク。木々の若葉は今も成長中。芝生の青々しさが眩しい(2022年5月)
📷:ブライアントパークに隣接する公立図書館の植え込みにはチューリップが(2022年5月撮影)
📷:グランドセントラル駅の東側の通りは歩行者専用道路となった(2022年5月)
📷:グランドセントラル駅横の歩行者専用道路ではビオラが満開(2022年5月)


◆◆福島千里(ふくしま・ちさと)◆◆
1998年渡米。ライター&フォトグラファー。ニューヨーク州立大学写真科卒業後、「地球の歩き方ニューヨーク」など、ガイドブック各種で活動中。10年間のニューヨーク生活の後、都市とのほどよい距離感を求め燐州ニュージャージーへ。趣味は旅と料理と食べ歩き。園芸好きの夫と猫2匹暮らし


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