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「変わる組織」はどこが違うのか? 13

トレード・オフ


 前回、中期経営計画がうまくいかない原因は、社員の「心に働く力」が計画に織り込まれていないところにある、という話をしました。
   では、どうするのかを今回は考えてみましょう。

 計画遂行に必要な時間とエネルギーを生み出すためには、今やっている仕事の一部をやめるしかありません。そうですよね。みなさん、ギリギリまで働いていますから、それ以上仕事を増やすのは無理です。そのやめるための手法として、このブログの5回目でワークアウト©を紹介しました。覚えていますか? いまやっている仕事の棚卸をして、価値の低いものを止めるという活動です。
 トップダウン的に言えば、中期経営計画を発表すると同時に、その実行に必要な時間を生み出すために、より価値の低い仕事を止めようと打ち出すことです。現場は、結構些末なことに足を取られています。それを見て見ないふりをして、いくら美しい未来像を描いても組織は動きません。
「それを何とかするのが、君たちの仕事だろう」って? 冗談じゃない。動きたくても動けないのです。トップが旗を振って、そういう「些末な仕事を洗い出せ」「止めよう」と熱心に動けば、変革を加速する「力」を生み出すことができます。 
 このトップの熱意大切です。仕事には慣性力がありますからね。いくら些末でも、昔からやっていることを止めるには、それなりのエネルギーが必要なのです。そういえば、ワークアウト©を始めたウェルチは、「お前のところは、今年何件ワークアウトをやったか?」と、あっちこっちにいっては訊いていました。こう聞かれて低い件数を答えるのは嫌なので、各部門のリーダーは、みんな熱心にワークアウトをやっていました。
 日本の大企業では、よく担当役員を決めて任せる、ということをやりますね。これ、ダメです。担当役員を決めるということは「自分ではやらない」「優先順位低い」と宣言しているようなものです。トップ自らいろいろな部署に出て行って、「何件やった?」と訊いて回る。書類はいりません。書類で報告させるとそれだけで仕事が増えますからね。聴いて回る。それだけで「組織が変わる」力を生み出すことができます。おまけに、これには、計画未達に対して「時間がない」という言い訳ができなくなるという効果もあります。

『変わる組織』はトレード・オフをする

 些末な仕事でも、やめると、それによって何がしかのものが失われます。嫌ですよね。不安にもなります。ということで、やめるのではなく、効率化しようという議論が生まれます。しかし、効率化しても仕事は減りません。これも5回目で書きましたね。やめないといけないのです。価値の低いものをやめて、代わりにより高い価値のものを行う。それ中計のはずですよね。トレード・オフです。

 もう何十年も前の話ですが、戦略論の一派を確立したマイケル・ポーターが、「日本には戦略がない」と語って物議をかもしたことがあります。ポーターが考える戦略にはトレード・オフが不可欠なのです。A地点にリソースを集中するということは、B地点は手薄になるということですからね。
 両方やりたいという誘惑を抑えて、トレード・オフの意思決定ができるか。以前、「『変わる組織』は行動が違う」と書きましたが、ここでは、『変わる組織』はトレード・オフをする、と結んでおきましょう。
 何をやめて、どこにフォーカスするか? これ、トップだけの問題ではなく、私も含めて私たち一人ひとりのチャレンジでもあります。

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