「変わる組織」はどこが違うのか? 27
創造的な組織は逆説に満ちている
今回は、私の印象に残っている組織文化についての名論文を一つ紹介したいと思います。著者は、ゲイリー・P・ピサノ。 ハーバード・ビジネス・スクールの教授です。タイトルは「創造的な組織は逆説に満ちている(The Hard Truth About Innovation Cultures)」。
何が印象深いのか。2つ理由があるのですが、今回はその1つを取り上げます。それは誰もが働きたいと思う革新的な企業文化の現実(Hard Truth)を明らかにしているところです。
まず革新的な組織の特徴を挙げてみましょう。
心理的安全性がある
失敗を許容する
実験に積極的
協働が盛ん
階層が少ない
・・・
こんな感じですよね。好印象です。こういう組織を目指さない経営者はアホだ、無能だ、クビにしたいと思いますよね。これらの特徴は、単なる印象論ではなくいろいろな研究によって実証されている事実でもあるのですが、しかし、現実はそうバラ色ではないとピサノ教授は言います。
ひとつ目の「心理的安全性がある」についてみてみましょう。「自由に考えを述べたい」「耳を傾けてもらいたい」というのは、万人に共通する思いです。が、ピサノ教授は、心理的安全性には双方向性があると指摘します。つまり、「私があなたを批判してもかまわないなら、あなたが私を批判するのも差し支えないはず」というわけです。立場を問わず全員が厳しく率直な批判の対象になるということです。そう、あなたも。受け入れられます? 嫌ですよね。和を重んじる文化、恥を嫌がる人たちの中では、なおさら難しいチャレンジです。
二つ目の「失敗を許容する」はどうでしょう。当然ですが、どんな失敗も許容されるわけではありません。失敗には許容されるものと、されない失敗がある。愚かな失敗、透明性の欠如、稚拙なマネジメントによる失敗は許されない。許されるのは、得るものが大きい失敗、生産的な失敗です。リスクの高いアイデアを追求して最終的に失敗するのはかまわないが、パッとしない技術、生ぬるい発想、悪しき業務習慣、稚拙なマネジメントは許容されません。そういう失敗をした人には退社か、能力に見合ったポストへの異動という厳しい現実が待っています。
さて三つ目、「実験に積極的」です。ゴチャゴチャ議論しているより、正しいかどうか実験して白黒つけよう。その結果から学んで次に行こうという風土は魅力的です。しかし、「実験に意欲的であることは、三流の抽象画家がキャンバスに適当に絵の具を塗りたくるのとはわけが違う」と手厳しい。そこには「規律」が必要だというのです。その「規律」とはどういうものなのか、ピサノ教授は、自分が取締役を務めるフラグシップ・パイオニアリングという企業を例に解説します。
この会社、日本ではほとんど知られていませんが、「並行起業」を標榜する非常にユニークなベンチャー投資会社です。新型コロナウイルスのmRNAワクチンを開発したモデルナを育てた会社というと、ちょっと気になりませんか? この会社の創業者ヌーバー・アフェヤンという人を引用しながら、実験に必要な「規律」を説明するのですが、これが非常に面白い。これがこのピサノ論文が印象に残っている2つ目の理由です。
長くなるので、今回はここまで。実験に必要な規律については次回ご紹介したいと思います。
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