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〖アホ短編小説〗存在しない仕事②

大学生といえば、アルバイトであると俺は思う。

ギリギリの単位を取得しつつ、最大限飲み会に参加できるだけの財を築く。
それに尽きると思っている俺は、できるだけ割のいいアルバイトを探していた…


さて、アルバイトを探すにあたって
アクセスの良さは重要だと思う。
通学の通り道や、家のすぐそばなど考え方は様々である。
そして、その最上位は在宅ワークだろう。
家にいながら金を稼ぐ。それが最上であることは間違いない。
しかし、割のいい在宅ワークなど存在しない

と、思っていた…

「SNS関連業務で、時給1400円…!?」

俺は自分の目を疑った。
在宅ワークのアルバイトといえば事務仕事のイメージだ。
データ入力をやり、最低賃金レベルの給料を貰う。

しかし、目の前に現れた求人はレベルが違う。

「詐欺…か?」

当然疑うべきはそれだ。
注意深く内容を読み込むが、おかしな点は無い。

「日本語もおかしくないし、内容も変な点は無い…業務以外は。」

そう、SNS関連業務とだけ記載してある。
面接をして、内定者のみに話すとなっており、具体的な内容は伏せられている。

怪しい。怪しいが、それ以上に給料が魅力的すぎる。

「とりあえず、申し込んでみるか…」

面接のエントリーをし、次の日の夕方に早速オンライン面接をすることとなった。


「と、いうわけで最後の質問です。」

ありがちなアルバイト面接の質問を経て、担当者の女性はこう言った。

「現在SNSのアカウントをお持ちですか?また、私的に運用されていますか?」

「今の所、作りはしましたが使っていないものばかりです。あんまり呟いたりすることもなくて…」

「なるほど。」

担当者の女性は真剣な面持ちで俺の顔を見る。

「分かりました。是非とも私たちと共に働いてください。」

「ありがとうございます!」

案外あっさりと内定が貰えた、

「さて、では早速お仕事の話です。お菓子は好きですか?」

「?ええ、普通に食べますが…?」

「なるほど、ではあの国民的なタケノコ型のチョコとキノコ型のチョコをご存知ですか?」

「はい、もちろんです。好みとかは無いですが。」

「では、話が早いですね。我々の仕事はそれが関係していますから。」

「どういうことですか?」

「おかしいとは思いませんか?たかがチョコ菓子なのに、好みがキッパリと別れ、SNSで度々大論争となること。」

「まあ、言われてみればそうですね。好みはあると思いますが、あそこまでお互いを敵視して叩くのは」

「そうですよね。それが今回の我々の仕事につながります。」

「はぁ…?」

イマイチ意味が分からない会話が続く。

「煽っているんですよ。我々が対立を。」

「はい?」

「申し遅れました。私は、"株式会社力尽きるまでチョコを食え"の採用担当 佐藤 と申します。」

「力尽きるまで…なんですか?」

「チョコを食え。です。」

「はぁ」

「我々の企業思想は、チョコ菓子の対立こそが美味しく食べる秘訣である。ということです。
好みという枠から出て、対立商品を敵視するレベルで嫌ってこそ美味しく食べられると考えています。」

…イカれてしまっているようだ。

「SNSで、キノコ型のチョコについて投稿されているのを見かけたらタケノコ型好きのフリをしてボコボコに叩いてください。逆もまた然りです
どっちも美味しくて好き!!というような甘ったれた投稿を見かけたら、火種を投げ入れてください。
ガソリンもたっぷり撒いてくださいね。」

…イカれた仕事に応募してしまったようだ。

「アカウントはこちらで用意します。あなたはこれから工作員Cと呼称されます。」

「工作員、C…ですか?」

「争いを起こす組織があれば、平和を求める組織があります。当然そんな人からしたらあなたは邪魔です。なので、本名は伏せて活動してもらいます。」

「敵対的な会社とかがあるってことですか?」

「えぇ、株式会社みんなで美味しくチョコ食べよ。の奴らですね」

「あぁ、随分平和な名前の会社ですね」

「何を言いますか。奴らは我々より過激ですよ」

「SNSでみんな仲良くしようよ。どれも美味しいよ〜的なことを布教する活動をしてるだけじゃないんですか?」

「そんなに甘くは無いです。あなたの前任である工作員Bは奴らに捕らえられ、全身に鎖を巻かれて重りをつけられた挙句にチョコの海に沈められました。」

「はい??」

「チョコの海に生きたまま沈められたのです。ですから、あなたも身辺には気をつけてください。」

「ちょ、ちょっと待ってください!そんな危険な仕事なんですか!?そもそもそんな仕事なら給料が割に合わないですよ!!」

「ご安心ください。あの時給はカモフラージュです。
実際には日給で10万、インセンティブも付きます。」

「…俺は今日から工作員Cです。のうのうと生きてる一般人どもの間で菓子戦争を引き起こします。」

「それでこそ、私が見込んだ方です。」

担当者の女性改めて佐藤さんは、とても素晴らしい笑顔で俺を褒めた。

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