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フランスの定食屋さん

かつて渋谷に「コンコンブル」というフレンチビストロがあった。フランス語できゅうりという意味の店名の通り、気取らない大衆フレンチを供するお店だった。

夜にも何度か行ったことがあるが、この店のランチが大好きだった。「コンコンブル」のランチは、アルミのお盆にその日のランチが乗せられて提供される定食方式であった。

盆の上には、白い壺のような陶器に入った季節のポタージュ、フランスの代表的惣菜であるキャロットラペ入りのグリーンサラダが並ぶ。

そしてメインのプレートは、週替わりでチキンのクリーム煮であったり、白身魚のソテーであったりした。メインの皿には、マッシュポテトやバターライスが添えられていたりもする。

そして盆の隙間に小さなバケットが置かれ、デザートのパンプディングの小皿も乗って来る。
端にはコーヒーカップが伏せておかれていて、食事が終わるとコーヒーを注いでくれる。

光沢のあるアルミの盆や皿に乗せられた料理はどれも美味しそうで(実際に美味しい)、デザートのパンプディングも絶品だった。
スープも追加でいくらか支払うと、熱々のオニオングラタンスープに変更してくれた。

まるでアルミの盆という箱に配置されたフレンチの箱庭といった趣で、食欲以上の何かが喚起されるのだった。

思えば焼き魚にごはん、みそ汁に副菜を合わせた日本の定食は日常に馴染んでいるし、日本人は箱庭のように、限定された区画に並ぶ食べ物に、親しみを感じるのかもしれない。

しかしこれは、いつもの日本的な定食ではなく、あくまでもフレンチの定食である。
日常のランチでありながら、特別感が増してくる。

当時は1,000円強くらいの価格でこのフレンチ定食が食べられた気がするが、残念ながらコロナ禍のあおりで「コンコンブル」は閉店してしまった。

ちなみに、このフレンチ定食のことをフランスではなんと呼ぶのだろうかと思い調べたら、menu(ムニュ)と呼ぶらしい。
menu du jour(ムニュ・デュ・ジュール)で本日の定食という意味だそうだ。

フランスにおけるビストロは、日本における居酒屋くらいの位置づけだという。気取らない料理をお酒とともに供しているお店ということらしい。
フランスで日本の定食屋に該当するのは、ブイヨンと呼ばれる大衆食堂が該当するそうだ。

天井が高いホール型の大型店舗で、チェーン展開されているお店も多いという。1903年にオープンしたという「ル・ブイヨン・ジュリアン」をググってみると、まるで大衆店とは思えないデコラティブな店内の写真が出てきた。
壁面は細密なフレスコ画で彩られており、まるで宮殿のようだ。



建築家エドゥアール・フルニエが設計したアール・ヌーヴォー様式ということで、店内のいたるところに曲線的な装飾が施されている。

それでも、お料理のほうは定食屋さんということで、お手頃である。
メイン料理のソーセージとマッシュポテトや、鴨もも肉のコンフィも12~14ユーロ(日本円にして2,000円強程度)の価格設定なので、お財布に優しそうである。

ちなみに、冒頭の「コンコンブル」は惜しくも閉店してしまったものの、後継店の「クレッソニエール」という店舗が新宿三丁目にあるらしい。

調べてみると、懐かしの「コンコンブル」のフランス定食そのままのプレートが提供されているようだ。今度行ってみようと思っている。


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