9年目のクリスマス。
在英9年目のアドベントに、ヘンデルのメサイヤを味わった。
アドベントというのは待降節と言い、クリスマスを待ち望む期間のことで、クリスマスの4週前の日曜日から始まる。
去年は、ロイヤル・バレエの「くるみ割り人形」を見にいった。家からバスで30分くらいの場所で、英国一、二のバレエ団を鑑賞できるというバーミンガム生活ならではのこと。そしてそのバレエ公演でピアノを弾いている人が、友達の友達というローカルさ。それなのに、舞台も演技もまさに世界レベル。非の打ち所の無いメルヘンな世界を目の当たりにして心がもって行かれそうなくらい引き込んでくれる。
11歳だったうちの娘なんかは、素晴らしく鍛え上げられたバレリーナたちを見て、自分もできると感じるらしく、バレエを始めたいと言ったりした。私も少し前まではそっち側だったと思うが、去年の私は彼らを見て、その人間の美しさと、人間の持つ可能性にしみじみと感動したのを覚えている。
さて、今年はバレエではなく、初めてヘンデルのメサイヤ、いわゆるハレルヤ・コーラスを聴きに行った。これも普段通っている教会の聖歌隊のメンバーがそのコーラスに加わっているからだった。その公演に教会の聖歌隊の他メンバーと一緒に行ったから、職場旅行さながらの楽しさだった。
軽やかでしかしエレガントなオーケストラの楽曲で始まった演奏会は、まるでどこかのちょっと大きめな家のパーティに招かれたような上品なヨーロッパの生活を思わされるような雰囲気だった。
それは観客を見てもまるでそう。このメサイヤを聴くためにバーミンガム中心にあるシンフォニーホールという大きな会場に集まっていた人たちの頭は、ほぼほぼシルバーカラーだった。
次女がすぐにそれに気がついて、
「(ホールが)おじいちゃんの家の香りがする」
と言って私を笑わせた。私は、
「適当に10人年齢を推測して10で割れば、仮の平均年齢が出るね」
と、数学が得意な長女に言ってみたが、こういうのにはまあ乗ってこない。
ハイライトのハレルヤ・コーラスでは観客が立ち上がり、その絶頂を迎え出た。私はそんなことも知らなかったが、いつものようにただ隣の人に続いた。ハレルヤ・コーラスは、私が高校生の時に、臨時で入っていた合唱部の大会の一番最後に、オペラ歌手と一緒に舞台の上で歌ったことがあって、それなりに刺激的な思い出があったし曲も知っていた。それで、みんなが立ち上がった時に今夜も一緒に歌わせてくれるのかと少し期待したが、やっぱりそういうわけではなかった。
これぞ定番、と思わせるような公演が終わって、それぞれに会場を出た教会のメンバーは同じ路線のバス停にまた集まっていた。12月の夜風の中でしばらく身を寄せ合った後、バスが来ると、若めのうちの家族は2階に駆け上がり、シルバーたちは下の席に座っていった。私の愛する人たち。
アドベントの教会は1年で最も忙しい。特に聖歌隊は、これから幾つものキャロルが待っている。この心高まる数週間を終えると、静かなクリスマスがやってくる。我が家にとっては、文字通り静かなクリスマス。英国内に親戚がいない私達は、ほぼほぼ家で家族だけで過ごす。私は毎年、家族でボードゲームをするのを楽しみにしているのだが、果たして今年の思春期の女子たちはどうか。
毎年想うが、この寒いくて暗い冬にクリスマスがあって本当に嬉しい。寒空の中で見るクリスマスライトは温かい。愛すべき北半球の冬。皆さんもどうぞよいアドベントをお過ごし下さい。
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