自分を生き続けること〜フィンランドの高齢者福祉
先月の2月16日、仙台フィンランド健康福祉センターのオンラインセミナー「フィンランドの高齢者福祉の今と未来~個の尊重と人を支えるテクノロジー・ネットワークのあり方~」を視聴しました。その覚書としてnoteに残しておきたいと思います。
講師は、フィンランド在住30年のヒルトゥネン久美子さん。フィンランドの教育や福祉の分野で通訳やコーディネート、またフィンランドのライフスタイルなどについてのセミナーを開催され、フィンランドと日本の架け橋として活躍されています。
フィンランドについてヒルトゥネンさんは「仕事と個のあり方を大切にしている国」ではないかと云います。そのことはフィンランドの高齢者福祉の現状にも表れているようです。
たとえば、フィンランドで多くの高齢者に親しまれている社交ダンス。文字通り参加することが社会に属していることにつながります。そうした以前からあるものだけでなく、孤立を防ぐためにお互いをケアするネットワーク(ビデオ通話など)や、体力維持のための高齢者にやさしいジム機器の開発など、ソフトとハードの両面で支えられています。
またフィンランドでは、二世帯同居が少ない傾向にありますが、在宅介護を利用して可能なかぎり自宅で暮らすことを望まれる方が多いようです。しかし自宅で暮らせなくなった場合、グループホームや認知症施設、病院などの施設で自分らしく生きるためにはどうしたらよいのでしょうか?
そこでヒルトゥネンさんが紹介してくれたのが、Villa Tapiolaというエスポーにある認知症高齢者介護施設です。
こちらの介護施設では1日5食、ビュッフェスタイルで好きな時間に好きな量だけ食事することができます。それは一人ひとりの生活リズムにあわせてフレキシブルに対応するためです。
面会はいつでも可能です。その高齢者の自宅を訪問するように時間に制限はありません。今までと同じような環境で暮らせるように自宅からベッド以外の家具を持ってくる方もいます。お酒もOK。
管理しすぎないこと、普通の日常を維持することに着目しています。それはスタッフも入居者と一緒に食事をとることにも表れています。ちなみに30名の入居者に対して18名のスタッフがいるそうです。
Villa Tapiolaの介護プランは、医師やケアマネージャーではなく「私」の視点で書かれているそうです。「私は◯◯◯の場合、◯〇〇したい。私が□□□の場合、□□□して下さい」といったように。
また入居者一人ひとりを知る工夫として「メモリーボックス」というものがあります。箱庭のような立体の形で、それぞれの思い出のアルバムを作ります。さらに、これまでの人生をショートムービーにした「デジタルストーリー」といったものも。
みんな違うのが当たり前で、自己決定権が大切にされているとヒルトゥネンさん。長く生きることも大切ですが、自分らしく生きること。そうした考え方がこの施設ひいてはフィンランドにあるのでしょう。
とはいえ、フィンランドの福祉が抱える問題もあります。それはスタッフの待遇の低さなどによる人材不足。これらは介護の質の低下にもつながります。そこでスタッフのウェルビーイングや、スタッフの負担を軽減するテクノロジーの活用などが重要になってきます。
ヒルトゥネンさんがVilla Tapiolaで感じたのは、自分を生き続けるということ、一人ひとりを知ることが大切だということ。そこから、本当に大切なこととはなにか、ということを考えさせられたそうです。
周りと歩調を合わせて我慢する。目立たない。空気を読む。迷惑をかけない。問題を起こさない。管理しやすくする。手間をかけない。あきらめる。
自分は自分を生きているだろうか。自分が介護する立場になった時、また介護される立場になった時、まず「私」はどうしたいかを考えることが大切なのかもしれません。
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追記)ヒルトゥネン久美子さんは、2023年3月29日にフィンランドの家庭科教科書「ホームエコノミクス」を学ぶ無料の勉強会を開催されます。くわしくは下記リンクをごらんください。
また、仙台フィンランド健康福祉センターのページでは、これまでのセミナーについての開催報告を読むことができます。
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