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藤花の薫る、暮の春。

些細なことだったはずなのに
自信を失って、
自分のことが嫌いで堪らなくなって
落ち込んだ日。

霧雨の舞う天気の中
私は、行く宛てもなく、車を走らせました。
通りかかったとある神社。
立板には「大藤まつり」と書かれています。

天気のせいか、人影はまばらで、
ひとりでも落ち着いて楽しめそう。
寄ってみることにしました。

鳥居をくぐった先、
そこに広がっていたのは、

淡い紫のしたたる、
しずかな、美しい景色でした。


微かな風を受け、不規則に揺れるその花は
上品な香りを放ち、
しっとりと静寧な空間をつくっています。

色彩、というより
色合いという言葉が相応ふさうような、
奥ゆかしい花。

「優しさ」「歓迎」という
花言葉そのままに咲く藤の姿に見蕩みとれながら、
私は、花の下を
ゆっくり、ゆっくり歩きました。





「写真をお願いしてもいいかしら」
前をゆくご年配の夫婦の、奥さまの声です。

携帯を受け取り、
写真を撮ってお返しすると

「素敵に撮ってくださって、ありがとう」
ご主人も奥さまも
顔をほころばせて喜んでくださいました。


ふたりの笑顔を受けとって
私の胸に
嬉しさが
ふわり、と咲きました。


自分のことが受け入れられない時は
無理に自分を肯定しようとせず、

自分以外ものに焦点を当て
その美しさ、癒し、熱、輝きを
素直に受け取るよう、注力すると
いいのかもしれません。

胸がときめく映画、
笑顔になれる料理、
心に沁みる小説、
楽しいあの人の話、
今日も美しく咲く花。

自分のことは、考えず、
周りのものに心を委ねてみると、
強ばっていた思いがほっとほぐれてゆきます。 


自分のことで頭がいっぱいのひとよりも

素敵なものをいっぱい、いっぱい
知っているひとの方が、

ずっと魅力的。


そうして、素敵なものを数えながら
日々を送っているうちに、いつか
こんな自分っていいな、と
思えるようになるかもしれない。
それで、じゅうぶん。



豊かなもので満たされた心を
だいじに抱えながら
暮の春の帰り道を歩きました。

***

この世に生を受けて
美しきものにめぐり会い
あたたかき心にめぐり逢う
それのみにても
この世に生まれてきた意味は
十分にある
静かに太陽の昇る歌

これは谷口潔さん作詞「静かに太陽の昇る歌」の
素敵な、素敵な、一節です。


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