藤花の薫る、暮の春。
些細なことだったはずなのに
自信を失って、
自分のことが嫌いで堪らなくなって
落ち込んだ日。
霧雨の舞う天気の中
私は、行く宛てもなく、車を走らせました。
通りかかったとある神社。
立板には「大藤まつり」と書かれています。
天気のせいか、人影はまばらで、
ひとりでも落ち着いて楽しめそう。
寄ってみることにしました。
*
鳥居をくぐった先、
そこに広がっていたのは、
淡い紫のしたたる、
しずかな、美しい景色でした。
微かな風を受け、不規則に揺れるその花は
上品な香りを放ち、
しっとりと静寧な空間をつくっています。
色彩、というより
色合いという言葉が相応うような、
奥ゆかしい花。
「優しさ」「歓迎」という
花言葉そのままに咲く藤の姿に見蕩れながら、
私は、花の下を
ゆっくり、ゆっくり歩きました。
*
「写真をお願いしてもいいかしら」
前をゆくご年配の夫婦の、奥さまの声です。
携帯を受け取り、
写真を撮ってお返しすると
「素敵に撮ってくださって、ありがとう」
ご主人も奥さまも
顔をほころばせて喜んでくださいました。
ふたりの笑顔を受けとって
私の胸に
嬉しさが
ふわり、と咲きました。
*
自分のことが受け入れられない時は
無理に自分を肯定しようとせず、
自分以外ものに焦点を当て
その美しさ、癒し、熱、輝きを
素直に受け取るよう、注力すると
いいのかもしれません。
胸がときめく映画、
笑顔になれる料理、
心に沁みる小説、
楽しいあの人の話、
今日も美しく咲く花。
自分のことは、考えず、
周りのものに心を委ねてみると、
強ばっていた思いがほっとほぐれてゆきます。
自分のことで頭がいっぱいのひとよりも
素敵なものをいっぱい、いっぱい
知っているひとの方が、
ずっと魅力的。
そうして、素敵なものを数えながら
日々を送っているうちに、いつか
こんな自分っていいな、と
思えるようになるかもしれない。
それで、じゅうぶん。
豊かなもので満たされた心を
だいじに抱えながら
暮の春の帰り道を歩きました。
***
これは谷口潔さん作詞「静かに太陽の昇る歌」の
素敵な、素敵な、一節です。
これからもあたたかい記事をお届けします🕊🤍🌿