とうほく未来Genkiプロジェクト総括フォーラム採録
秋田魁新報社などでつくる東北七新聞社協議会主催の「とうほく未来Genkiプロジェクト」の総括フォーラムは11月26日、秋田市のホテルメトロポリタン秋田で開かれた。約400人が出席。プロジェクト3年目となる今回は「まじわる東北」をテーマに、東北の魅力や新たな価値を探ろうと企画した。仙台育英高校硬式野球部監督の須江航氏が基調講演したほか、金融や農業などの分野の関係者がパネルディスカッションを行い、東北の課題解決やにぎわい創出に向けた方策について考えた。
パネリスト
▽小野洋太氏(日本政策金融公庫専務取締役)
▽柴田温氏(JA全農東北プロジェクト事務局専任課長)
▽菅原圭位氏(男鹿ナマハゲロックフェスティバル実行委員長)
コーディネーター
▽松川敦志氏(秋田魁新報社報道センター長・論説委員)
総合司会
▽保泉久人氏(フリーアナウンサー、ラジオDJ)
【現状と課題】
小野 地方と首都圏の経済について、業況判断DIの推移を比較する。業況が「良い」と答えた企業の割合から「悪い」と答えた割合を差し引いた値がDIだ。東北のDIはコロナ禍の影響で落ち込んだものの、その後は持ち直しており、全国とおおむね同じ動きをしている。設備投資を実施した企業の割合も全国とほぼ同じ動きをたどっている。コロナ禍以降は、むしろ東北の方が全国を上回っている。
問題なのは開業率と廃業率の推移だ。東北では開業率が2013年以降全国を下回り続けており、廃業率は19年以降全国をやや上回っている。東北だけでみると、廃業率が開業率を上回っている。全国と大差のない業況判断で企業の設備投資が活発でも、廃業が多くて開業が少ない。こうした状況に、東北の経済の課題が内在しているように思う。
柴田 東北6県の農業産出額は1兆4千億円ほどで、北海道よりも多い。全国の耕地面積の約5分の1を東北が占めている。カロリーベースの食料自給率は全国が約38%なのに対し、東北は6県とも全国を大きく上回っており、東北全体の自給率は120%に上る。東北は稲作のほか、畜産物の生産が目立つ。特色ある作物の生産も多い。例えば、秋田はトンブリやジュンサイ、山形は加工用ベニバナ、青森はニンニクの生産割合が全国で高い割合を占める。
大きな課題は、農業従事者の減少と高齢化だ。耕作放棄地も増えている。消費行動の変化にも対応していかなければならない。コロナ禍の影響もあり、インターネット販売やデリバリーでの購入が増えている。また、社会や環境、人に貢献する商品が売れる傾向が近年強まっている。
菅原 秋田県男鹿市・船川港の特設会場で、毎年7月下旬に「男鹿ナマハゲロックフェスティバル」を開催している。初開催は2007年。たくさんの有名アーティストを招き、毎年多くの若者らでごった返す。実行委員会で手弁当の運営をしている。
秋田県は人口に占める65歳以上の割合が全国トップだ。男鹿市は県内全13市で高齢化率が最も高い。男鹿フェスの開催地でもある船川地区は、かつて石油関連産業を中心に発展したが、今は産業全体が衰退し商店街はシャッター街化している。小中学校の規模も縮小しており、人が減ってきて寂しいというのが実感だ。フェスは、開催することが目的ではなく、地元を活性化させるための手段だ。フェスによる直接的な経済効果はもちろん大切だが、地域への貢献を重視しながら続けていきたい。
【展望と提言】
小野 東北の強みは農業と製造業、中でも電子部品やデバイス、電子回路の製造だと思う。農業は企業化が進んでいて、効率と収益の向上が期待できる。働く場としても魅力を増すだろう。電子部品の製造拠点がどれだけ重要かは、巨大IT企業がけん引している米国経済をみれば理解できると思う。東北には電子産業の土台が根付いている。誇るべきことだ。
日本公庫は事業承継のマッチングを行っているが、廃業率を抑える試みは技術を次代につないでいく上でも重要だ。「連携」もキーワードとなる。宮城県の水産加工業者など異業種5社が今年、宿泊需要を見込んで新たにホテル業に参入した。日本公庫と地元銀行などが協調融資し、立地する女川町は町有地を貸与する形で支援している。1社では難しいことでも、連携により実現できることがある。
柴田 JA全農はタマネギの直播栽培の普及に力を入れている。温室での育苗が不要で、低コスト・省力化が期待できる。休耕地対策では飼料用のトウモロコシ栽培を進めており、飼料の国内自給率向上、農地の効率的活用などにつながっている。担い手不足の解決に向けては、人手不足に悩む農家と農作業をしたい人とのマッチング策として「91(キュウイチ)農業」を提唱している。本業9・農業1、育児9・農業1といった配分で、お試しで農業を体験してみませんかという提案だ。
全農東北プロジェクトは、生産の現場(東北)と消費地(都市部)を近づけることを目指している。コロナ禍ではっきりしたのは、東京にいなくても仕事はできるということ。新しい生活様式を提案しながら農業のファンを増やし、元気な東北をつくっていきたい。
菅原 男鹿フェスの目的は、地元に明るい話題を提供すること、男鹿を知ってもらいたくさんの人に来てもらうこと、若い人に地元に誇りを持ってもらうことにある。若い人に地元に残ってもらい、人口減少に歯止めをかけるための手段だと考えている。
来場者の4割ほどは県外客で、そのうちの4人に1人は男鹿に来るのが初めてという人だ。県外客も出演アーティストも、フェスがなければ男鹿に足を運ぶことはなかっただろうし、「男鹿」という地名すら知らずにいたかもしれない。「フェス実行委員会での活動を続けたい」という理由で、県外で決まっていた就職を辞退し、留年を決めた大学生がいた。いまは秋田で教員として頑張っている。さまざまな理由で地元を離れたとしても、男鹿を誇りに思ってもらえるようなフェスに磨き上げていきたい。
フォーラムには東北七新聞社協議会に加盟する7新聞社の社長が出席した。釆田正之東奥日報社社長、佐川博之秋田魁新報社社長、川村公司岩手日報社社長、佐藤秀之山形新聞社社長、一力雅彦河北新報社社長、芳見弘一福島民報社社長、中川俊哉福島民友新聞社社長の7人が登壇し、代表して佐川社長が共同宣言を読み上げた。全文は次の通り。
私たち東北七新聞社協議会は2021年度より、「とうほく未来Genkiプロジェクト」として、東北の未来に向け、地域活性化に取り組んでおります。東北地方で顕在化している少子高齢化、過疎化を乗り越え、持続可能な地域社会をつくるため、観光や産業、食などの分野における6県の先駆的事例を通して活力を生み出そうとプロジェクトを展開してまいりました。
今年は「まじわる東北」をテーマに、これまで議論してきた諸問題に加え、世代間、エリア間、異業種間といったさまざまな垣根を取り払い、これまでとは異なる方法や様式を取り入れ、アイデアや工夫を凝らして時代を切り開く東北各地の取り組みを紙面で紹介しているところです。本日のフォーラムにより、地域に活力をもたらすのは東北各地に根を張って生きる人々の力であることを改めて感じています。
このプロジェクトは2026年まで、東北の未来を切り開くための課題解決に取り組んでまいります。関係人口・交流人口のさらなる拡大により、東北内外の人々の想いや知見が交わり重なり合うことで、新たな気付きが生まれ、東北の価値が高まることでしょう。私たちは引き続き、東北の潜在力を余すところなく引き出す、その一翼を担い続けることを、ここに宣言します。
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