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英語で宇宙 vol.1 「脈動する白色矮星」

こんにちは!Tohoku Space Community の としかげ です。

6月も終盤に差し掛かってきましたね。2020年ももう半分まで来たと思うとビビりすぎて、ビビンバになりそうです。

さて!今回は、英語で宇宙 vol.1です!

記念すべき第一回は、僕の大好きな「白色矮星」に関する論文を選ばせて頂きました!なんで白色矮星が好きなのかに関しては、少し長くなってしまうのでまた改めてまとめることにして、早速本題へ!

今回の論文はこちら!

『Pulsation in the white dwarf HE 1017-1352: confirmation of the class of hot DAV stars』

そのまま訳すと、

『白色矮星HE 1017-1352の脈動:高温DAV星分類の立証』

といったところでしょうか。DAV星?って感じですね。では、abstractを一文ずつ読み解いていきましょう!


「We report the detection of periodic variations on the T_eff ~32 000 K DA white dwarf star HE 1017-1352. 」

detection of periodic variations 周期的な(光度)変動の検知
皆さんは、変光星ってきいたことありますか? 変光星とは、その名前の通り光が変わる星のことです。少し前に話題になった、ベテルギウスも変光星の一つです。

T_eff 有効温度
有効温度とは、黒体(入射する電磁波をすべての波長にわたって完全に吸収し、また自らも電磁波を放射できる仮想的な物体)として計算された天体の温度とのことです。ここでは有効温度が32000 [K]程度の天体と考えて良さそうですね。

DA whitedwarf  DA型白色矮星
白色矮星というのは星の分類の一つです。簡単に説明すると、星のおじいちゃん。太陽程度の星は、年老いてその燃料が尽きると自らの重力で少しずつ収縮していき、白色矮星となります。太陽ほどの質量のものが、地球程度の大きさまで収縮するのでその密度はとっても大きく、1立方センチメートルあたり、1トンもあるとか!驚きですね!
DA型とは、白色矮星の分類のひとつで水素の吸収線を持つ=大気中に水素の多い白色矮星。他にも、中性ヘリウムを多く含むDB型、炭素の多いDQ型などなどたくさんあるみたいです!

HE 1017-1352
これは星の名前かな(記号?)。でも、そんな記号で言われてもどんな星かわからねえよって感じですよね笑 そこでこの星について調べてみました!まず見た目はこんな感じ[図1]!

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図1:HE 1017-1352
(https://aladin.u-strasbg.fr/AladinLite/より引用)

基本データはこちらから!

これによると

・地球からの距離は、だいたい100 [pc] ≒ 326 [光年]
つまり、今私たちが見ているのは、江戸時代くらいにこの星を出発したHE 1017-1352の光ということです。(ちなみにこれは日常的な単位に直すと、約3000兆 [㎞] です。東京仙台間が約300 [km]新幹線で2時間くらいかかるので、地球・HE 1017-1352間は20兆時間かかりますね。めっちゃ遠いですね)
・等級は15等程度
かなり暗め!白色矮星は小さいので暗い星が多いです。
・温度はだいたい32000 [K]
太陽の表面温度は6000 [K]ほどなので激アツ!
これまでに発見された白色矮星は7700 [K]から40000 [K]ほどのものが多いとのことなので白色矮星の中でも熱いほうですね。

ということで、今回の論文のターゲットになっている天体がどんな星かわかっていただけましたか?

最初の一文をまとめて訳すと

「私たちは、有効温度32000[K]ほどのDA型白色矮星 HE 1017-1352における周期変動検出について報告します。」

という感じです!

では、次の文へ行きましょう!



「We obtained time series photometry using the 4.1 m SOAR telescope on three separate nights for a total of 16.8 h.」

photometry 測光
photoは光にまつわる単語に多く含まれていますね。photo-写真や電磁波を運搬する素粒子である光子フォトン(photon)にも。 metryは、何かを測定する器具の英語につくことが多いですね。つまり、「光+測る」で測光。

4.1 m SOAR telescope 
チリにある光学赤外線望遠鏡,、ソアー望遠鏡です[図2]。

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図2:ソアー望遠鏡

よって、文章全体を訳すと

「4.1mソアー望遠鏡を使って、3夜にわたって合計16.8時間の時系列に沿った測光を行いました。」

です。観測方法がわかりましたね!



「From the frequency analysis we found four periods of 605 s, 556 s, 508 s and 869 s with significant amplitudes above the 1/1000 false alarm probability detection limit.」

まずは、わからない言葉をチェック!

1/1000 false alarm probability detection limit 
これは、直訳すると 誤警報確率検出限界、うーんわからない。
検出における限界をこえた有意な結果を検出できました。という理解でいいのでしょうか…!(有識者の方がいらっしゃいましたら教えてください!) 本文を読むと、下の図3が今回の観測により得られた時系列に沿った振幅の変化を表します。このグラフ中の赤い線が、この誤警報確率検出限界とのことです。

スクリーンショット (260)

図3:振幅の時間による変化(論文より引用)


全文を訳すと、

「周波数の解析から、検出の限界を超える有意な振幅をもつ605秒、556秒、508秒、869秒の4周期を発見しました。」

といったところでしょうか!星の話って何万年、何億年レベルの話が多いイメージでしたが、こんなに短い周期で脈動しているとは驚きです!これは、白色矮星の密度が大きく、重力がとっても強いことが原因になっているようです。

では、次の文章!



「The detected modes are compatible with low harmonic degree g-mode non-radial pulsations with radial order higher than ~ 9. 」

g-mode 重力波モード
振動における「モード」はその振動の形態を表す際に用いる言葉のことで、重力波モードというのは重力により起こる脈動形態のことと考えられます。(重力波といっても中性子星合体の時とかに出てくる 重力波 gravitational wave とは別物で、英語ではこちらは gravity wave と呼ばれるそうです。)

non-radial pulsations 非動径脈動
「radial pulsation」とは動径振動のことで、星の表面が動径(半径)方向にのみ振動することをいいます。よって今回は「non」がついており、これは星表面の水平方向に生じる振動のことです。

radial order 動径オーダー
この単語、この記事を書くときに一番解釈に悩みました。いろいろ調べた結果、中心からの距離一定の球面における節面の数と解釈しました。節とは、振動の際に動かない部分のこと。

「検出されたモードは、中心からの距離が一定の球面における節面の数が9より多い、低調和次数の重力波モードと合致するものです。」

ということで、今回検出された脈動の様子についての文章ですね。



「This detection confirms the pulsation nature of HE 1017-1352 and thus the existence of the new pulsating class of hot DA white dwarf stars.」


「この検出によって、HE 1017-1352の脈動性と高温DA白色矮星の新しい脈動クラスの存在が立証されます。」

今回検出された白色矮星の脈動は、これまでにない新しい脈動性を持っているということがこの論文のポイントと考えられますね。

では、次の文章!



「In addition, we detect a long period of 1.52 h, compatible with a rotation period of DA white dwarf stars.」

こちらを訳すと、

「さらに、1.52時間というDA型白色矮星の自転周期に合致する長周期を検出しました。」

 自転周期と一致する脈動が何を意味しているのか調べてみると、恒星のうち「磁変星」と呼ばれるものは、その磁場の影響により、表面の輝度が位置によって大きく変化し、その星の明るさが自転の周期と同じように変化することがあるということです。つまり、この星も強い磁場を持つことが今回の観測により確認できたということです。


よって訳をまとめると

「私たちは、有効温度32000 [K]ほどのDA型白色矮星 HE 1017-1352における周期変動検出について報告します。4.1 [m]ソアー望遠鏡を使って、3夜にわたって合計16.8 [h]の時系列に沿った測光を行いました。周波数の解析から、検出の限界を超える有意な振幅をもつ605 [s]、556 [s]、508 [s]、869 [s] の4周期を発見しました検出されたモードは、中心からの距離が一定の球面における節面の数が9より多い、低調和次数の重力波モードと合致するものです。この検出によって、HE 1017-1352の脈動性と高温DA白色矮星の新しい脈動クラスの存在が立証されます。加えて、1.52 [h]というDA型白色矮星の自転周期に合致する長周期を検出しました。」

と、なります!google翻訳よりはわかりやすい文章になったのではないでしょうか…笑

本文も読んでみると、

星の脈動はこれまでにもその星との距離をはかる「ものさし」として使われてきましたが、これからは「星震学(asteroseismology)」と呼ばれる星に起こる揺れの伝わり方などからその星の内部や成り立ちを研究するためにも応用が期待されています。今回の発見はそうした研究につながる発見であるとのことでした!


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ということで、今回は脈動する白色矮星に関する論文の abstract を紹介させて頂きました。初めてだったのでわかりにくい点もあったと思うのですが、いかがだったでしょうか?

僕としては、一人で読むときは「まあなんとなく分かるからええか」と飛ばしていたところをしっかりと調べることで、時間はかかりましたが、かなり勉強になりました。そして何より、色々調べて知っていると思っていた白色矮星について、こんなところもあったんだ!と新しいことをたくさん知ることができ、とても楽しかったです!


これからもこのシリーズを続けていきたいので、もし「ブラックホールに関する論文がいい!」とか「銀河に関する論文がいい」などありましたら、コメントいただけると嬉しいです!

もちろん今回の記事に関する質問などもどしどしお待ちしております!

最後まで読んでいただきありがとうございました!

としかげ


参考文献

B型脈動星の分光観測と太陽型星の星震学の試み

変光星・突発天体現象概論

天文学辞典 脈動変光星

恒星非動径振動の摂理

【Tohoku Space Community について】
Tohoku Space Community は、星空をはじめ天文学にロケット、宇宙エレベーター、宇宙建築学まで、幅広く興味を持った学生が、「東北の宇宙をワクワクさせる」を合言葉に活動している団体です!

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